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はじめてのプレゼント

和希は悩んでいた。
和希にとって年下の先輩で、最近になって恋人という肩書きが追加された男、つまりは学園の王こと丹羽の誕生日がすぐそこまで迫っているのである。
「プレゼント……何が良いんだろう。王様、何を贈ったら喜んでくれるのかな」
和希が大切な人へ贈るプレゼントの定番は特技をいかした手編みのニット作品だ。
だが、丹羽の誕生日は夏の盛り。
うだるような暑さの中、ニットというのはどうもしっくり来ない。
「釣りの道具とかバイク関連の何かとか? でも、俺、どっちも詳しくないし……」
幼い頃から様々な教育を受けてきた和希なので、ビジネス相手を喜ばせるプレゼントの贈り方なんてことだったらちゃんと心得ている。
だが、恋人への心を込めたプレゼントの選び方なんて誰も教えてくれなかった。
「いや、こういうのはきっと教わることじゃないんだろうな」
鈴菱の後継者として育てられた和希の知識にはひどく偏りがあった。
ビジネスシーンでは圧倒的な知識とスキルを武器に渡り歩くことができるけれど、プライベートとなると途端に心許なくなる。
「わからないものはいくら悩んでいたってわからないよな。やっぱり直接聞きに行こう」
和希は決意を固めるようにギュッと拳を握って、丹羽の部屋へと向かうのだった。

コンコン。
遠慮がちにドアを叩いた和希のノックに、丹羽の鷹揚な声がかかる。
「おう、開いてるぞ」
丹羽が一人で部屋にいる時はたいてい部屋の鍵は開いていて、いつ誰が入ってきても構わないという丹羽の器の大きさがうかがえる。
「失礼します」
そろりとドアを開け、和希が部屋の中を覗き込むと、丹羽の顔が瞬時にパッと輝いた。
「なんだ。和希じゃねえか! どうかしたのか?」
満面の笑みを浮かべて和希を部屋に迎え入れた丹羽は、ついでにさりげなくドアの鍵をかけた。
さすがに和希とイチャイチャしている時だけは誰かに踏み込まれるとまずいのでしっかり鍵をかけるのだ。
「俺、王様に聞きたいことがあって来たんです」
丹羽に勧められるがまま、並んでベッドに腰掛けて、和希は丹羽を見上げた。
その上目遣いの可憐さに丹羽はごくりと生唾を飲む。
「おう。なんだ?」
「もうすぐ王様の誕生日ですよね。それで俺、いろいろ考えたんですけど、何をプレゼントしたら王様が喜んでくれるのかわからなくって……。だから直接聞きに来たんです」
照れくさそうに問いかける和希はとても可愛らしくて丹羽は幸せな気分になる。
「王様、誕生日に何が欲しいですか?」
和希の単刀直入な問いに対する丹羽の答えもド直球だった。
「和希が欲しい」
カアッと頬を染めつつ、和希は少し不満そうに唇を尖らせる。
「それじゃ、全然特別なプレゼントじゃないじゃないですか。俺達が付き合ってから最初の王様の誕生日だから、何か記念になるようなものを贈りたいって思っているのに」
「確かにそういうのも良いけどよぉ。夏休み中は出張やら何やらでいつも以上に忙しい和希が、俺のために時間を作ってくれて一緒に過ごしてくれるってだけで、俺はすっげー嬉しいんだ。他には何もいらねえ。欲張りすぎたら、バチがあたっちまいそうだ」
「王様……」
「なあ、和希。俺の誕生日、一緒に過ごしてくれるんだよな?」
何者もおそれることのない学園の王が、自分の答えを心配そうに待つ様子に和希は笑みを零した。
「当たり前でしょう。王様とつきあい始めてすぐに、8月15日のスケジュールは丸一日オフになるように石塚に調整してもらったんです」
つきあい始めてすぐにもう誕生日のことを考えてくれていた和希の想いと、そんなに前々から準備しておかなければ休みを取るのも難しい彼の立場に丹羽は胸がいっぱいになる。
「和希、好きだ。すげえ好きだ。なあ、キスしてもいいか?」
丹羽は和希をギュッと抱き締め、真っ赤に染まった頬を大きな手で包み込んだ。
「そういうこと聞くのは野暮ですよ、王様」
プレゼントが決まった安堵感と恋人の温もりの心地よさに、和希はうっとりと目を閉じて、丹羽のキスを受け止めるのだった。
fin

『Harmony Bell』のゆうきゆうきさまより頂きました。
私の誕生日のお祝いに下さった王和小説です。
ゆうきゆうきさまは成和サイトを運営していらっしゃって、王和は初めて書かれたそうです。
可愛い和希にかっこいい王様で拝読して幸せな気分になりました。
頂いてから掲載までに時間が経ってしまって申し訳ありません。
ゆうきゆうきさま、本当にありがとうございました。
     小説頂いた日 2011年8月25日  サイトUP日 2011年9月26日

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