「………………何ですか?」
「ん?花だ」
「見て分かります」
「なら良いじゃねぇか」
「………………はい」
丹羽を探して見付た海岸でいきなり手渡された贈り物を見ながら和希は呟く。
付き合いだして数ヶ月。
その間にもらったモノは、丹羽が溜め込んだ書類だけ。
プレゼントには程遠い。
更に
『…お前見てらんねぇ』
その一言で押し倒されただけで、それからは体の関係は無く、悪戯に手を出してくる中嶋に『和希は俺と付き合ってんだよ』
その言葉を言っている姿を見ていなければ、今でも後輩扱いだと思っていた和希は…。
今手の中で甘い香りがする花束に視線を落としながら、困惑の嵐に飲み込まれていた。
「丹羽」
「お…」
それでも、鈴菱の引き出しから都合良い言葉を見付け話し掛けようとした時。
狙っていたのかと思うタイミングで、呼び声が被された。
「げっ。ヒデ」
「王様っ」
「和希またなっ」
「………あっ」
走り出す丹羽。
その後を含みのある笑いで中嶋は追い掛けた。
_____残されたのは完全困惑状態で花を手にした王子だけ。
「わっかんないよっ」
一言愚痴を零すと、これもまた見ていたかの様なタイミングで電話が鳴り、理事長業務に戻らなくてはいけなくなってしまった。
「……………気になる」
結局。
点呼ギリギリの時間まで書類と戦っても頭の中が花束と渡し主の事で充満していた為、普段の半分以下のスピードになり、秘書の『後は明日に』の言葉が出てしまう結果に終わった。
そして。
寮長篠宮の姿を気にしつつ、和希は3年のフロアー。
ある部屋の前に立って、ノックをする直前の体勢で固まっている。
___カチャ。
数分後。
何かブツブツと言いながら扉が開くと、その為に叩こうとしていても予想外だと和希が悲鳴をあげそうになる。
勿論。
反射神経の良い丹羽が大きな手で塞ぎ、部屋に引き込んだ為、扉が閉まった後の廊下は静かなままだった。
「ん゛ー」
「あ。すまねぇ」
「げほっ」
隙間無く塞がれていた為に、いきなり吸い込む空気に、むせる和希の背中を丹羽が撫でる。
乱暴に近い不器用。
それでも周囲への気配りや自分に向ける太陽の様な笑顔は、いきなり始まった関係とは言え、今はもう無くてはならない存在になっていた。
くすっ。
微笑みながら和希は幸せを感じていた。
「笑ったな」
「え?」
「最近疲れているみたいだったからな…お前が喜びそうな花。クマを集めてみた」
「そうだったんですか…」
「お前の笑顔癒されるよな」
ゆるゆると、頭を撫でられると、気持ち良いのか和希の体は丹羽に預けられていく。
「………………堪んねぇ」
「え?」
「お前が好きだ」
「本当…に…ですか?」
「当たり前だ。好きな奴に花束。よくある話だろ?」
照れる仕草と求めていた言葉で和希は完全に心奪われ、惹かれる様にキスをする。
「帰さないからな」
「ちょっと…王様っ」
「食わせろ」
「そん…なっ…ぁっ」
可愛い王子は花とクマを手に野獣に一晩襲われる。
愛と共に。