和希のお誕生日まで後4日

自分らしく恋をしよう(篠宮×和希)

好きになって告白をしてその想いを受け取ってもらった。
その時は嬉しくて思わず抱き締めて、触れるだけのキスをした。
それから数週間が経った。
相変わらず家庭の手伝いで忙しい和希は今日も門限までに帰って来なかった。
けれども…
約束通りにメールはちゃんと送ってくれるので以前よりは安心できる。
それなりに幸せな日々。
でも、最近篠宮は悩んでいた。
恋人だったらやっぱり好きな相手に触れたい…そして身体を繋げたいと…
こんな欲望にまみれた自分の想いを知ったら和希はどう思うのだろうか?
潔癖な和希の事だ。
俺の事を嫌いになるだろうと思うと手が出せなかった。

「篠宮。」
「何だ?」
「体調でも悪いのか?今日はいつものキレがないぞ。」
「…そうか?…」
「ああ、今日はもう寮に戻った方がよくないか?」
「…」
弓道場で篠宮は副部長に声をかけられた。
確かにこの数日あまりよく眠れてない。
疲れが溜まっているのかもしれない。
しかし、それを他人に見抜かれるとは…
まだまだ修行が足りないなと篠宮は思った。
その時、弓道場の入り口に立っていた和希に副部長は気が付いた。
「ちょうどいい所に来た。遠藤、篠宮を寮まで連れて行ってくれないか?」
「えっ?篠宮さんを?」
「ああ、体調が悪いみたいなんだ。」
「分かりました。篠宮さん、着替えに行きましょう。」
和希は篠宮の側に来ると心配そうに顔を覗き込む。
そんな和希を心配させまいと篠宮は明るく笑うと、
「大丈夫だ、遠藤。それじゃ、悪いが俺は先に上がらしてもらう。後を頼むぞ。」
「ゆっくり休めよ、篠宮。後は俺がやるから安心しろよな。」
副部長は笑顔で篠宮に言った。

「大丈夫ですか?顔色はそんなに悪くはありませんが…」
「ああ、大丈夫だ。少し疲れているだけだ。周りがちょっと大げさに騒いだだけだ。」
「なら、いいんですけど…篠宮さんはいつも我慢ばかりしてますので、せめて俺の前だけではリラックスして下さいね。」
「えっ…」
驚いた顔をした篠宮に、和希はほんのり頬を赤らめて言った。
「だってこれでも俺、篠宮さんの恋人ですよ。恋人ならもっと本音を言ったりしてもいいと思うんですけど。」
「そうだな…」
篠宮は隣を歩く和希を見つめた。
和希と付き合うようになって気付いた事があった。
子供っぽい仕草をみせると思ったら、次の瞬間には大人びた表情をみせる和希。
自分よりも年下なのに、時々妙に大人びて近寄りがたい雰囲気を出す。
不思議だと篠宮は時々思っていた。

「遠藤…」
「はい、何ですか?篠宮さん。」
「俺は…こんな事を言うと遠藤は呆れると思うが、遠藤が好きなんだ。」
途端に和希の顔が赤く染まる。
「な…何を今更…」
「今さらかもしれないが、こうして遠藤と一緒にいると好きという気持ちがどんどん膨らんでくるんだ。」
「それは…俺も同じです。」
「そうか。遠藤も同じ事を考えていてくれて嬉しい。」
篠宮は嬉しそうに笑った。
そんな篠宮に和希は笑い返す。
その笑顔があまりに綺麗で篠宮は和希の腕を掴んだ。

「篠宮さん?」
驚いた顔をした和希の唇に自分のそれをそっと重ねるとすぐに離した。
「…篠宮さん…こんな誰が通るかもしれない場所でこんな事するなんて…」
目元を染める和希が可愛らしくて篠宮は、
「こんな俺は嫌いか?」
「いえ…大胆な篠宮さんも…好きです…」
「そうか。安心した。」
そう言うと和希の手に自分の手を絡めた。
恋人繋ぎをした篠宮に和希は一瞬驚くが、そっとその手を握り返した。
初めて繋いだ手。

和希の体温を感じながら篠宮は思った。
焦る事はない。
お互いを想っているのだから不安に思う必要はないのだ。
ゆっくりだけれども、自分達のペースで恋人として深く繋がっていけばいい。
時間はたくさんあるのだから…






奥手の篠宮さんが和希とどう向き合っていくのか悩んでいる話でした。
この話の篠宮さんは和希が理事長だとは知りません。
和希も言うかどうかかなり迷っています。
今回は「遠藤」「篠宮さん」とお互いを呼んでいます。
いつもは「和希」「紘司さん」と呼んでいるので書いていてとても新鮮でした(笑)
                    2009/6/5