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Happy Birthday Kazuki

パラレル小説『どんな微笑みよりも…』の番外編(中嶋×和希)

「それで、和希の熱は?」
「中嶋様からお預かりしていた解熱剤を先程飲ませたので、今の所は少しだけ落ちついています。」
「そうか…」
「私が付いていながら申し訳ございません。」
「石塚が悪い訳ではないだろう?和希が体調を崩すのは珍しい事ではない筈だ。」
「しかし、今回は明らかに私のミスによるものですから。」
申し訳なさそうに言う石塚と共に歩いていた中嶋は和希の部屋の前に着いた。

中嶋は一昨日から実家の病院に行っていた。
中嶋の腕はとてもいいので、時々実家の病院から手術の依頼などで呼び戻される事がある。
今回も手術の依頼で実家の病院に行って先程帰って来た所だった。
途中で何時頃帰ると電話を入れた所、和希が体調を崩し高い熱を出しているとの事だった。
中嶋はすぐにクスリの指示を出し、和希に飲ませるように石塚に言った。
和希は体調を崩しやすく、またすぐに高熱を出す癖があった。
その為、中嶋の部屋にはいつもクスリを常備していた。

中嶋はドアをノックせずに和希の部屋へ入ると和希が寝ているベットに近づいた。
息が多少荒いが、顔色はそれ程悪くはなかった。
おそらくこじれる前にクスリを飲んだからだろう。
中嶋はホッと一息つくと和希の汗ばんだ髪に触った。
その時、和希の顔についている新しい小さな傷に気付いた。
「石塚。和希のこの傷はどうした?」
和希は大人しくしていればいいのだが、リハビリだと言って自力で歩こうとする。
が、上手くいくはずがなく身体中に打ち身や擦り傷がたえなかった。
またどこかで怪我でもしてきたのかと内心呆れながら思った中嶋だが、念の為に石塚に聞いてみたのであった。

「申し訳ございません。実は今日、和希様はどうしても中嶋様に食べて頂きたいと言って村の子供達と一緒にスモモを取りに行かれたのです。」
「スモモを取りに?どうしてそんな事をしたんだ。」
「この辺りには自然になっているスモモの木があちらこちらにあるんです。比較的木の背も低く、子供達がおやつ代わりに取って食べているのですが、それがとても甘くて美味しいんです。和希様は子供達に大変好かれてますので、毎年、子供達は取ったスモモを和希様に食べてもらいたくて持ってきてくれるのです。今年もスモモが取れる時期になったと子供達から聞いた和希様が、どうしても自分の手で取ったスモモを中嶋様に食べてもらいたいと仰って…その事を私に内緒にして今日子供達と一緒にスモモを取りに出かけられたのです。」
「まったく。それで?」
「木の側までは子供達が車椅子を押してくれたのですが、どうしても自分でもぎたいと和希様は仰って1人で歩いて取られたそうです。」
「まだ、外で歩くのは危険だから止めろと言っておいたのだが、しょうがない奴だ。だが、どうやって取ったんだ?和希は見えないんだぞ。」
「子供達にお願いしてどこになっているか教えてもらいながら取ったそうです。」
「それで、傷を作ったのか?」
「はい。お顔は少しだけなのですが、手がかなり傷ついたようです。」

中嶋は布団の中から和希の手を出すとため息を付いた。
すぐにはスモモに触れる事ができなかったのだろう。
手には小さな傷がいくつもあった。
手のひらにも切り傷がある。
おそらく転んだ時についた傷だろう。
この分では足にも打ち身がありそうだ。

石塚は頭を下げて言った。
「中嶋様がお留守の間にこのような事になってしまい、申し訳ございません。」
そんな石塚に、
「気にするな。何を言ったってやると言ったら和希はやる奴だ。おそらく石塚に言えば止められるので、黙って出かけたのだろう。迷惑を掛けたな。」
中嶋からの言葉に石塚は恐縮する。
「いいえ。私の落ち度ですから。」
「和希の側には俺がいるから石塚はもう休め。」
「よろしいのですか?」
「ああ。」

それから数時間後…
和希はふと目を覚ました。
「目が覚めたか?和希。」
「英明さん?帰って来てたんですか?」
「ああ。だいぶ前にな。」
そう言いながら、和希の額に手を乗せ、熱を測る。
「まだ少し高いがだいぶ熱は下がったな。」
「ごめんなさい。心配かけて。」
「まったくだ。どうしてスモモなんかを取りに行ったんだ?毎年もらうんだろう?ならそれでいいじゃないか?」
「だって…」

和希は俯いて答えた。
「だって…俺が取ったスモモを英明さんに食べてもらいたかったから…俺にだって英明さんの為にできる事があるんだって思いたかったんだ…」
「それがスモモ取りか?他には思いつかなかったのか?」
「…」
和希は黙り込んでしまった。
確かに他の事でもよかったかもしれない。
けれども、毎年食べるあの美味しいスモモを自分の手で取ってきて中嶋に食べてもらいたかったのだ。

「和希、口を開けろ。」
「えっ?」
訳が分からず口を開けた中に何かが入れられた。
思わず噛み締めてしまった。
「甘い…」
「和希が取ってきたスモモだからな。俺もさっき半分食べたんだが、確かに美味しかった。」
「本当に?」
「ああ。こんな美味しいスモモは初めて食べた。」
「良かった。英明さんにそう言ってもらえて。」
「だが…」

中嶋は和希の顎を掴んで顔を上げさせた。
「英明さん?」
「もう、こんな無茶は2度とするな。分かったか。」
「…はい…」
「フッ…良い子だ。」
中嶋はそう言うと和希の額にキスを落としながら言った。
「今度スモモを取りに行きたくなったら俺を誘え。俺の知らない所でこれ以上怪我をされたらたまらないからな。」






『2009年和希聖誕祭』ラストはサイトに連載していたパラレル小説『どんな微笑みよりも…』の番外編でした。
「甘々な中和が読んでみたいです 」とのコメントを頂いて書かせてもらいました。
私の書く中嶋さんは優しいのでどうしても甘々になってしまうのですが…
相変わらず矛盾がいっぱいな話ですので、けして突っ込んで読まないで下さいね。
中嶋さんの為に何かしてあげたいと思う和希の気持ちを汲み取って頂けたら嬉しいです。
                      2009/6/9