和希のお誕生日まで後7日

美味しいケーキの食べ方(丹羽+中嶋×和希)

“コンコン”
学生会室のドアを叩いてから和希はドアを開けた。
「こんにちは、遠藤です。」
「おう、和希。良く来たな。」
「王様がいるだなんて珍しいですね。せっかくのお天気なのにこれから雨でも降るんですか?」
「何だよ、和希。俺だって偶には真面目に学生会の仕事をやるんだぜ。」
頭をガシガシ掻きながら少しむくれて答える丹羽に、
「そうですね。王様が学生会会長ですからね。頑張って貰わないと困ります。」
ニコッと笑って答える和希に丹羽もつられて笑顔になる。
ふと周りを見回した和希は中嶋がいない事に気が付いた。
「あれ?中嶋さんは?」
「ああ、ヒデは会計室に書類を届けに行っている。何もなけりゃ、すぐに帰ってくると思うぜ。」
「何もなければですね…」
和希はため息を付きながら言う。
中嶋と七条はどういう訳だが仲が悪い。
この2人が顔を見合わせれば、周りの温度が下がる位相性が悪いのである。
会計室で何事もなければいいのだけれどもと和希は思っていた。

「ところで和希。その袋は何だ?」
「これですか?ブランデーケーキです。」
「ブランデーケーキ?」
「はい。取引先から頂いたのですが、この店のブランデーケーキはとても美味しいって評判だそうです。でも、アルコール度数が高いのでどうしようかと思ったのですが、折角ですから王様と中嶋さんに食べてもらおうと思って持ってきたんです。」
「アルコール度数が高いって言ったって所詮ケーキだろう?」
「そうなんですけど、ここのブランデーケーキは本格的らしくて。理事長としては未成年の生徒にあげるのは止めたいんですけど、遠藤和希としてはお2人共アルコールに強いのは知っているので是非食べてもらいたいなと思っているんです。」
「一応、理事長としては悩んだんだな。」
「そうですよ。王様も中嶋さんも俺の可愛い生徒ですからね。」
和希の言葉に丹羽はピクッと反応する。
…『俺の可愛い生徒』…
身体の関係もあるのに、和希はまだ恋人として自分達を見ていない。
そんな思いに丹羽は苦々しく思ってしまう。
だが、丹羽のそんな気持ちに気付かない和希は、
「王様、どうかしたんですか?」
「いや…それより早く食べようぜ。」

お皿に盛りつけたブランデーケーキを美味しそうに食べる丹羽。
丹羽が食べ始めると中嶋が学生会室に帰って来た。
不機嫌そうな顔をしている中嶋を見て、やっぱり七条と何かあったなと思いながらその話題に触れないよう和希は微笑んで言った。
「おかえりなさい、中嶋さん。」
「和希、来ていたのか?」
「はい。」
中嶋は和希の顔を見ると嬉しそうな顔つきになった。
「頂き物のブランデーケーキを持ってきたんです。中嶋さん、甘い物が苦手だと思いんですけど少しだけでも食べませんか?」
「ヒデ、これマジ美味いぜ。この味なら絶対ヒデも食べられるぜ。」
「丹羽がそう言うなら一口食べてみるか。」
「はい。どうぞ。」
和希はそう言ってお皿を中嶋に勧めた。
「違うだろう、和希。」
「えっ?」
「俺に食べてもらいたければ、どうすればいいのか知っているだろう?」
「…っ…まさか…それをここでやれって言うんですか?王様がいる前で。」
「丹羽がいようがいなかろうが、関係ない。俺に食べされたければどうすればいいのか和希が1番よく知っているだろう。」
「…分かってるけど…」
頬をほんのり朱く染めて途惑う和希。

「和希。ぐずぐずしていると食べないぞ。」
「…もう…中嶋さんの意地悪…」
そう言いながら、和希はブランデーケーキを取り、口にくわえると中嶋に口付けしながらブランデーケーキを中嶋の口の中に入れた。
だが、それで終わるはずがない。
中嶋は舌を絡ませてきた。
「…うっ…ふぁ…」
ブランデーケーキの味と中嶋から与えられる濃厚なキスの味に和希の口からは甘い声が漏れていた。
中嶋の唇が離れた時、和希の顔は火照り、瞳は潤んでいた。
そんな和希を見て丹羽は文句を言う。
「ヒデ、お前だけ狡いぞ。」
「何が狡いんだ。こうやって食べたければお前もやればいいだろう。」
「俺がやってもいいのか?」
「俺は気にはしない。」
「そうか。」

丹羽は嬉しそうに和希に言った。
「和希、俺にも食べさせてくれ。」
「えっ?嫌ですよ。」
「何でだよう。ヒデだけ狡いぞ。」
「狡いって…俺はこんな恥ずかしい事は嫌なんです。」
「だって、ヒデにはしたじゃねえかよ。」
「…」
困った顔をした和希の頬を中嶋は優しく触れると、
「和希、丹羽が駄々をこねると後々面倒な事になるぞ。」
「…だって…」
そんな和希の耳元に中嶋は何かを囁く。
和希は顔を真っ赤にしながら中嶋を恨めしそうに少しだけ睨んだ後、丹羽に向かって言った。
「仕方がないですね。王様、今回だけですからね。」
「いいのか?」
嬉しそうに言う丹羽に和希も微笑みながら、
「はい。特別です。」
そう言うと和希はブランデーケーキのお皿に手を伸ばすのであった。






アンケートで『昨年の続編を』『学生会の2人に大切にされている話』というコメントを頂きました。
王様と中嶋さんと付き合うようになった和希ですが、素直に「好き」と伝えていない状態です。
本当は身も心も王様と中嶋さんの事が大好きなのに…
そんな和希のある日の放課後の学生会室での出来事でした。
                         2010年6月2日