和希のお誕生日まで6日

運命の相手(篠宮×和希)

ふと和希が目を覚ますと窓の外は真っ暗だった。
ここはどこだっけ?…まだ覚醒しきれない頭で考えていた和希に優しい声が掛けられた。
「和希?目が覚めたのか?」
「紘司さん?どうして?」
そう言い掛けた和希は自分が今図書室にいる事を思いだした。
和希の肩には篠宮のジャケットが掛けてあった。
「ごめんなさい。俺、寝ちゃったんですね。」
「ああ。あんまりにも気持ちよさそうに眠っているので起こすのが忍びなくてな。起きるまで待っていたんだ。」
「紘司さん、忙しいのに…」
「調べたい物があったから図書室に来たんだ。気にするな。」
「ありがとうございます。」

放課後、廊下で会った篠宮は図書室で調べ物があるので一緒に行かないかと和希に声を掛けてきた。
今日は急ぎの仕事がなかった和希は久しぶりに恋人である篠宮と2人で過ごしたくて一緒に図書室に行ったのだった。
篠宮が本を探す間、リーダーの宿題をやろうと思い、教科書とノートを机の上に出し、教科書を開いて宿題を始めたまでは記憶に残っている。
けれども、その後の記憶が曖昧なのだ。
宿題をしている最中に1度篠宮が本を数冊持ってきて机の上に置いたのは覚えている。
その時、『リーダーの宿題か?分からない所があったら遠慮なく聞いてくれ』と言われて『ありがとうございます』と返事をしたのも覚えている。
だがその後、篠宮が席に戻ってきた記憶がないのだ。
そうなると…
図書室について10分も経たないうちに眠ってしまった事になる。
しかも爆睡していたのである。
和希は焦ってしまった。
これでは図書室に昼寝をしにきたみたいだからだ。
そんな和希の様子に気が付いた篠宮は申し訳なさそうに言った。

「悪かったな、和希。お前が疲れているのも気が付かないでこんな所に連れてきてしまって。」
頭を下げる篠宮に和希は慌てた。
「紘司さん、頭を上げて下さい。悪いのは俺です。こんな所で眠ってしまうくらい寝不足なら誘われても断るべきでした。俺が軽率でした。ごめんなさい。」
「和希、頭を上げてくれ。」
篠宮は頭を下げた和希の腕を掴んで顔を上げさせた。
困った様に篠宮は笑っていた。
「俺はお前が家の仕事で忙しい事を知っている。だから疲れて眠ってしまったのは気にもしていない。それよりも嬉しいんだ。」
「嬉しい?」
「ああ。俺に気を許しているから俺の側で寝てしまうんだろう?俺の側で安らぎを感じてくれてとても嬉しい。」
「紘司さん…」
和希はほんのりと顔を朱くしていた。
「それに…和希と付き合う前の事を思いだしてな。懐かしい気分にもなったんだ。」
「俺と付き合う前?」
「以前俺の部屋で無断外泊をして注意されていた時、やはり今みたいに眠ってしまった事があったんだ。その出来事で俺は和希の事を意識し始めたんだ。」
篠宮は懐かしそうに当時を思いだしていた。

「遠藤、人の話をちゃんと聞いているのか?」
「はい、篠宮さん。」
「お前は返事だけはいいんだからな。だが、本当に分かっているのか?これで何回目だと思っているんだ。」
「すみません。」
和希は俯いてひたすら謝っていた。
今の和希にはそれしかできなかったからだ。
理事長と学生をしている和希の生活は時間との戦いだった。
授業に出れば、当然その時間の仕事は夜に持ち越される。
秘書達も頑張って和希のいない穴を埋めてはくれているが、やはり理事長である和希がしなくてはならない仕事は山のようにある。
だから、授業が終わった後和希はひたすら仕事にのめり込んでいた。
気が付くと門限の時間が過ぎているのは当たり前、無断外泊も度々あった。
その度に寮長である篠宮は和希に長い時間説教するのであった。
篠宮が和希を心配しているのは十分過ぎる程感じられたので和希は黙って篠宮の説教を聞いていた。
「まったく…お前は反省はできるのにどうして同じ事を何度も繰り返すんだ?」
「ごめんなさい。」
その時、篠宮の携帯が鳴った。
篠宮は携帯を見ると、一瞬顔色を変えた後、
「遠藤、悪いが少しだけ待っていてくれ。」
「あっ、はい。」
篠宮は立ち上がると部屋の隅まで移動してから電話に出た。
篠宮の会話で電話の相手が篠宮の母親であり、弟の事であると和希は分かった。
これはちょっと長くなるかな?そう思いながら和希は目を少しだけ閉じた。
朝方まで仕事をしていて寮に戻ってきた所を朝練に行こうとしていた篠宮に捕まり、そのまま篠宮の自室で注意を受けていたのであった。
だが、徹夜で説教されていた和希は疲れ切っていた。
「遠藤、待たせて悪かったな。」
携帯を切った篠宮の目に映ったのは正座したまま、篠宮のベットに寄り掛かって眠っている和希の姿だった。
「まったく…」
篠宮はそう呟いた後、和希を持ち上げて自分の布団の上に寝かせた。
疲れ切って眠っている和希の髪にそっと触れるとなぜか愛おしさがこみ上げてきた。
「遠藤。お前は何を隠しているんだ?こんなにやつれる程、無理はするな。俺がお前を手伝える事はないのか?」
自然とこぼれた言葉。
それは篠宮が和希の事をただの問題児ではなく、特別な相手として意識し始めた瞬間だった。

当時を思いだしている篠宮に和希は少し膨れた顔をして言った。
「過去の古傷を抉るような事を言わないで下さい。」
「どうしてだ?」
「だって、説教されているのに眠ってしまう失態をしてしまったんですよ。恥ずかしいじゃないですか。」
篠宮はプッと吹き出すと、
「あの事がなければ和希を意識しなかったんだ。俺にとっては大切な思い出だ。」
「紘司さん…」
「あの時、和希が俺の部屋で寝てしまわなければ、きっと今でも俺は和希を門限破り・無断外泊の問題児としてしか見ていなかったと思う。だからあの時、俺の部屋で和希が寝たのは運命だったんだ。」
「運命って…」
「そうだろう?和希は俺の運命の相手なのだから。」
優しい瞳で和希を見つめながら言う篠宮に、和希は嬉しそうに微笑みながら頷いたのでした。






石塚さんと同票だった篠宮さん。
石塚さんより先に書かせてもらいました。
疲れて昼寝をしてしまう和希。
篠宮さん相手だと図書館が1番似合うと思って書いてみました。
篠宮さんに『運命の相手』と言わせたくて書いた話です。
                      2010年6月3日