和希のお誕生日まで3日

出張先で(西園寺×和希)





「それでは、私はここで失礼致します。」
「えっ?石塚は行かないのか?」
「はい。私は今日はこれで失礼させて頂きます。今日の接待の方ですが、席で待っているとの事ですので中に入られましたらそのままチケットに記されている席に行かれて下さい。明朝、9時にお部屋に迎えに参りますので、それまではご自由にお過ごし下さい。」
「そうか。お疲れ様。」
「お疲れ様です。和希様。」
石塚は頭を下げた後、和希がコンサートホールに入るまで外で和希を見送っていた。
和希は秘書の石塚と共に1週間の予定で海外出張に来ていた。
今日のこれからの予定はオペラでの接待だ。
今まで出張に来て仕事の付き合いでコンサートに行った事がなかったので不思議だったが、おそらく取引先の誰かが好きなのだろう。
演目を聞いた時、和希は思わず恋人である西園寺を思い出してしまった。
その演目は西園寺が好きな曲で、西園寺の部屋でその演目のMDを何度か聞いた事があった。
折角観るのなら、西園寺と一緒に観たかったなと思いながら和希は席に向かった。
和希の籍の隣にはもう人が座っていた。
今日の相手は誰なんだろう…
石塚にしては珍しく『会ってからのお楽しみという事でよろしいでしょうか?』と言っていた。
相手からチケットを頂いたのでお礼を言わなくては…と思いながら和希は後ろ姿の人物に声を掛けた。
「遅くなってしまって申し訳ありません。」
「いや、私も今来た所だからそんなに待ってはいない。」
そう言いながら立ち上がり振り向いた人物を見た和希は驚きのあまり声が出なかった。
そんな和希を見て、その人物はクスッと笑うと、
「鳩が豆を喰らった顔をしているぞ、和希。」

そう言いながら和希の髪をゆっくりと愛しむように撫でた。
いつもしてくれるその行為に和希は落ち着きを取り戻すと、
「どうして郁がここに?」
「ああ。このオペラを観たくて来たんだ。本当は1人で観る予定だったのだが、偶々和希の出張と重なっていると知り、石塚さんに和希と一緒に観れないかどうか聞いてみたんだ。そうしたら大丈夫だと言われたんで2人分の席を予約したんだ。」
「そうだったんですか…俺、石塚から詳しい事は何も教えてもらってなかったので。」
「そうなのか?」
「はい。相手も誰だか教えてくれなかったんです。俺、この演目は郁が好きだと
知っていたので観るなら郁と観たいと思っていたんです。だから今凄く嬉しいです。」
「私もだ。和希の嬉しそうな顔が見れて嬉しい。」
お互いの顔を見ながら微笑む2人。

「郁。俺、明朝の9時まで自由なんです。郁はこの後、予定があるんですか?」
「ああ。」
「…あっ…なら…仕方ないですね…でも、こうして一緒にオペラを観られるだけでも幸せです。」
一瞬ガッカリとした和希だったが、すぐに笑顔を作って言った。
そんな和希に西園寺は眉間に皺を寄せる。
「まったく…和希は相変わらずだな。」
「えっ?」
「私の用事が何なのか本当に分からないのか?」
「あっ…はい。」
西園寺は呆れた顔をしながら、
「私の用事はお前と一緒にいる事だ。」
驚いた顔をした和希に、
「和希に会う為にわざわざこのオペラに来たのに気付かないとは相変わらず鈍いな。」
「だって…そんなの分かりませんよ。」
「まあ、そういう所が可愛い所なんだが。オペラが終わったら覚悟するんだな。今夜は眠れないと思えよ。」
「えっ?どうしてそうなるんですか?」
「自分の胸に聞いてみろ。」
「そんな…聞いたって分かりませんよ。」
焦っている和希を見て西園寺は嬉しそうに笑っていた。
開演の知らせが聞こえたので、2人はそのままボックス席に座った。
席に着くと和希はボックスの陰に隠れて西園寺の手をソッと握ると、
「舞台の間、こうしていてもいいですか?」
囁くように言う和希の頬はほんのりと赤く色付いている。
そんな和希に構わないと囁き返すと、和希が繋いだ手を指と指が絡まるように西園寺は握り直した。






『いつも幸せな2人が好きです』というコメントを頂きました。
和希の出張先に恋人がくる話は今まで書いた事はありましたが、相手が西園寺さんというのは初めてです。
偶々観たいと思っていたオペラの会場が和希の出張先と重なっていたので、観に行く事を決めた西園寺さん。
和希がいなければ、もしかしたら観に行かなかったのかも知れません。
1週間でも離れていると寂しいと思います。
オペラを観た後は、お互いにたくさん甘えるといいと思っています。
             2010年6月6日