和希のお誕生日まで後2日
想い(中嶋×和希)
何気なく教室の窓から外を見た中嶋の目に和希と啓太の姿が映った。
美術の授業だろう。
芝生の上に座りながら、スケッチブックを手に持って鉛筆で絵を描いている。
時々、2人で笑い合っているところを見ると、何か楽しい話をしているみたいだ。
微笑ましい姿だと思った。
そんな事を考えていた自分に中嶋は苦笑いをした。
かつての自分ならこんな風に誰かを見る事などなかったからだ。
そう…
以前の中嶋だったら自分が付き合っている相手に興味すらわかなかった。
和希に出会って、自分は変わった。
中嶋はそう思っていた。
和希に出会う前の中嶋は恋や愛など信じていなかった。
まして他人を信じる事などなかった。
他人に対して興味を抱いて無かったというのが1番正しい言い方なのかもしれない。
いや…
丹羽だけは例外だった。
学力・運動能力・統率力に優れている丹羽。
まさか、その丹羽と連んで一緒に学生会をするとは思わなかった。
最初は退屈しのぎと丹羽の行く末を見たいという好奇心からだった。
それで3年も付き合っているのだから、自分も相当の物好きだ。
だが、丹羽以上に興味を引く人物はもう現れないと思っていた。
和希を初めて見たのは入学式の後だった。
殆ど人がいなくなった講堂で西園寺と七条と楽しそうに会話をしている姿だった。
珍しくご機嫌な西園寺を見た時、気に入っている知り合いが入学したんだろうと思っていた。
そしてこんな風にご機嫌な西園寺の姿を丹羽が知ったらやきもちをやくだろうとふと思った位だった。
BL学園は生徒数が少ない学園だ。
学園や寮で和希の姿を見かける事はあったが特に気にも留めていなかった。
そんな和希が再び気になったのは転校生の啓太が入学してからだ。
今まで見た事もない穏やかな笑顔で啓太を見つめる和希。
その笑顔に魅力されたかもしれなかった。
啓太と共に学生会の手伝いに来るようになった和希。
最初は気が付かなかったが、手伝いを頼んでいるうちに隠しているであろう能力に気が付いた。
できるのに、わざとできないフリをしている。
そんな事をする必要がどこにあるのかとずっと思っていた。
その訳は和希が理事長であるという事で納得ができた。
自分よりもいくつか年上の筈なのに、それを感じさせない容姿。
穏やかそうに見えるが、心が強く、けして自分を曲げない強さを持っている。
そして…
啓太を守る為に全てを投げ打つ勇気を持っていた。
他人の為にどうしてそこまでできるんだろう?
まして、啓太は和希の恋人ではない。
啓太には和希ではない好きな人がいるのに。
けれども、和希はそんな事は気にしていなかった。
『どうして他人の為にそこまでやるんだ』と聞いた俺に、ふわりと笑いながら『啓太は俺の大切な人ですから』と言った。
それが理由だと知った時、中嶋は唖然とした。
自分の利益を求めずに他人に尽くす事など考えられなかった。
そんな人物は今まで中嶋の周りには1人もいなかったからだ。
そんな俺に和希は綺麗に微笑みながら言った。
『中嶋さんも心の底から誰かを大切に思えるようになれば必ず分かりますよ』と…
丹羽とは違う意味で自分の心の中に入り込んできた和希。
自分が恋に落ちるのに時間など掛からなかった。
大事にしたい、愛おしいと初めて思った。
自分らしくないと思ったがもう止められなかった。
そんな自分の想いを和希は無償の愛で受け止めてくれた。
窓から外を見ていた中嶋に和希は気付き、笑顔と共に手を振ってきた。
それに気付いた中嶋はフッと笑い、それを見た和希は嬉しそうに微笑んだ。
これ程大切な人を手に入れられるとは思わなかった。
きっと俺は和希を手放せないだろう。
和希にどこまで覚悟があるか知らないが、俺をここまで夢中にさせたのだから責任を取ってもらおう。
中嶋はそう心に誓っていた。
『今年も甘々な中和で♪』『中嶋目線が読みたい』というコメントを頂きました。
という事で中嶋の和希への想いを語ってもらいました。
中和なのに2人の会話がまったくないという話で申し訳ありませんでした。
最後に中嶋からの熱い視線(?)に気付いた和希が中嶋に向かって微笑むシーンがありますが、ここのシーンが1番のお気に入りです。
2010年6月7日