和希のお誕生日まで後1日

写真(成瀬×和希)

「和希!」
和希の部屋のドアが開き、和希を呼ぶ声が部屋に響いた。
部屋の中にいた和希は入って来た人物を見て顔をしかめるが、そんな和希の様子など気にも止めないで成瀬はホッと一息付いた。
「良かった、まだ部屋にいてくれたんだね。」
嬉しそうに言う成瀬を和希は呆れた顔で見た後、
「何ですか、成瀬さん。こんな朝早くから人の部屋に来て。しかもノックもせずにいきなり入ってくるなんて非常識じゃないんですか?」
「だって…朝起きたら和希が布団の中にいないから慌てだんだ。」
「今日から出張なので朝早く出かけると、夕べ言ったと思いますけど。」
「それは聞いたよ。でも、僕に黙って出かけようとするだなんて酷くない?」
和希は腕のボタンを留めながらため息を付くと、
「どうして一々貴方に許可を取らないといけないんですか?それに今朝は早いから勝手に起きて行きますと言った筈ですが。」
「それは聞いた。でも、水臭いじゃないか。」
「水臭い?」
「そうだよ。僕と和希の仲なのに遠慮なんて必要ないでしょう?」

真面目な顔で言う成瀬の言葉に和希の顔が赤くなり思わず大声を出していた。
「…っ…何考えているんですか!あんたは!」
プイッと顔を反らして出かける支度を再開した和希を見て、成瀬はシュンとなる。
そんな成瀬を無視しながら和希は荷物を詰めて鞄を閉めようとしたその時、成瀬は和希の布団の上に置いてある手帳に気が付いた。
その手帳は和希がいつも仕事に持ち歩いている手帳だった。
成瀬は布団の上の手帳を手に取ると、机の側にいる和希に声を掛けた。
「和希、手帳を忘れているよ。」
「えっ?」
和希は振り向くと成瀬の持っている手帳を慌てて取り返そうとした。
慌てた成瀬は手帳を落としてしまう。
床に落ちた手帳を拾うとした成瀬は手帳からはみ出た1枚の写真に気が付いくと、その写真を手に取った。
「なっ…駄目です、成瀬さん!返して下さい!」
「返してって…ねぇ、和希。これって僕の写真だよね?」
和希は耳まで真っ赤にして黙り込んでしまう。
その和希の顔を覗き込むようにして成瀬はもう1度同じ質問を和希にした。
「和希。この写真、どう見ても僕なんだけど、どうして和希がこの写真をいつも仕事で持っている手帳に挟んでいるの?」
「……」
「ねえ、和希。教えて。」

和希は成瀬から視線をずらすと気まずそうに言った。
「…知りません…」
「知りませんって。だってこれ和希の手帳だよ。」
「…っ…だから知りませんって言っているんです。貴方が今その手帳に自分の写真を挟んだんじゃないんですか?」
「僕が?」
「そうです。そういう事をするの、好きでしょう、成瀬さんは。」
真っ赤な顔をしてばつが悪い顔をしている和希を見て成瀬の顔はにやけてくる。
素直じゃない和希の本当の気持ちをまた1つ知ったからだ。
仕事中はいつも肌身離さずに持ち歩いている大切な手帳。
その中にそっと忍ばせるように挟み込んだ成瀬の写真。
口では何と言っても成瀬をとても大切にしている和希の想い。
成瀬は嬉しそうに和希をギュッと抱き締めた。
「…痛いです…」
「うん、そうだね。思いっきり抱き締めているから痛いよね。」
「分かっているのなら離して下さい。」
「後少しだけ。だって出張に出かけたら明後日まで帰って来ないんでしょう?だからそれまで和希の温もりを忘れないように充電させてね。」
「もう…仕方がない人ですね。本当に少しだけですよ。そろそろ出かけないと間に合わなくなりますから。」
「うん。分かった。」
そう言った成瀬の背中に和希は手をそっと回したのでした。






『ツンデレでお願いします』『和希を存分に甘やかして欲しい』というコメントを頂きました。
成瀬さんの写真を仕事中いつも持っている手帳に挟んでいる和希。
でも、その事は成瀬さんには内緒です。
ばれてしまうと恥ずかしいのでw
でも、思いがけずに成瀬さんにばれてしまいました。
出張から帰って来た和希を待っているのは、「この写真の写りがいいんだよね」と言って何枚も自分の写真を和希に渡す成瀬さんでした(笑)
                     2010年6月8日