Few Days Ago

バレンダインの前の1週間は最悪だった。
丹羽にバレンタインの相談をしにいった和希は、そこで丹羽から西園寺の誕生日の話を聞かされた。
嬉しそうに話す丹羽を見て、和希は悲しくなった。
丹羽の西園寺に対するスキンシップは、和希の気になる所でもあった。
丹羽は西園寺を可愛い後輩だと思っているが、和希にはそう簡単には割り切れないものがあった。
知的で綺麗な西園寺は、男の和希から見ても魅力的だ。
そして自分はと言えば、平凡な顔で年上で可愛げがない。
丹羽はいつも「和希は可愛いな」と言ってくれるが…
それでも、バレンタインの当日に今日がバレンタインと気付いてくれた丹羽は、売店で100円の板チョコを買ってきてくれた。
和希にはその板チョコがどんな高級チョコより素晴らしく思えた。
そして…会えなかった1週間を埋めるように2人でデートをして、その晩は和希のマンションでお互いを確かめ合った。


あれからもうすぐ1ヶ月が経とうとしていた。
その1ヶ月の間に、国立大学の試験と合格発表、卒業式があった。
慌しい1ヶ月だった。
今、ここベルリバティスクールには、もう丹羽達3年生の姿はない。
和希は今かつて丹羽が使っていた部屋に1人ただずんでいた。
「哲也…」
呼んでも答えてくれる人はもうここにはいない。
解っているけれども、仕事で疲れて寮に帰って来た時、和希はよくこの部屋に来ていた。
深夜遅いのに、合鍵を使っていくらそっと入っても丹羽は気付いて起き上がって必ずこう言ってくれた。
『おかえり、和希。早くこっちに来いよ。』
そう言って丹羽が寝ていた布団に入れてくれて、優しく抱き締めてくれた。
そうすると安心するせいか和希はすぐに深い眠りに入った。
でも、今はその安らぎを与えてくれた丹羽はもうここにはいない。
和希が卒業するまで後2年は寮で生活しなければならない。


寂しい…そう思っている自分に和希は思わず笑ってしまった。
そんな感情なんて、自分には無縁なものだと思っていた。
鈴菱の後継者として育てられ、常に人の上に立つ者として生きて来た。
人を愛しいと思う気持ちなど、もってはいけないとさえ思っていた。
ただし、啓太は例外だったが。
そんな自分がまさかの恋をした。
しかも相手は年下の男で自分の学園の生徒だった。
いけない…とは思ったが、丹羽の熱意に負け付き合ってしまった。
今では和希にとって、丹羽はかけがいのない存在になっていた。
「俺も結構女々しかったんだな…」
和希は寂しげに笑いながら呟くと、部屋を出て、自分の部屋に戻って行った。


「あっ、和希。どこに行ってたんだよ?心配したんだぞ?」
「悪い、啓太。何か用事か?」
「うん。宿題を教わりたかったんだけど。」
「解った。俺の部屋でいいか?」
「うん。」
和希の部屋で宿題を終わらした啓太は、
「ねえ、和希。中嶋さんや王様達が卒業しちゃって寂しいよね。」
「ああ…啓太もそう思うか?」
「うん、もちろん。一生懸命気を紛らわしているんだけどね。ふとした瞬間に凄く中嶋さんに会いたくなるんだ。」
寂しげにそう呟く啓太を見て和希は、
「俺もさぁ…実は寂しくてさっきまで王様がいた部屋に行ってたんだ。」
「えっ?王様の部屋へ?でもそれって返って寂しくならない?」
心配そうに和希を見詰める啓太に和希は苦笑いをしてしまった。
これじゃ、どっちが大人なんだか解らない。
この1年で啓太は随分と成長した。
この時期の子供の心の成長の早さは凄いと和希は思う。
いくら童顔だからといって高校生のふりをしても、こればかしは真似できない。
しっかりしないと、精神的に啓太の方が大人になってしまいそうだ。
「そうだな…うん、寂しくなって帰ってきたんだ。でも部屋の前に啓太がいてくれて凄く嬉しかった。確かにもう王様や中嶋さんはここにはいないけど、俺には啓太がいてくれる。そう思って嬉しくなったんだ。」
優しく微笑む和希につられて啓太も微笑んだ。
「俺もだよ、和希。和希とだったら同じ辛さや悲しさを共有できるしな。俺、和希の親友で良かったよ。」
「俺もだ。これからもよろしくな、啓太。」
「こちらこそ、和希。」
顔を見合わせて2人は笑いあった。


「そういえば、もうすぐホワイトデーだろう?和希は王様とどうするんだ?まさかと思うけど、バレンタインみたいな事はないよな?」
心配そうな顔で尋ねる啓太に和希は微笑んで答える。
「ああ。今回は大丈夫だ。バレンタインの時は迷惑かけたな。」
「迷惑だなんて思ってないよ。でも、和希ってばなんやかんや言って、授業をサボって王様と2人でデートするんだからな。心配して損したって気分かな?」
からかうように言う啓太に、和希は困った顔をした。
「だから、悪かったって。でも充実したバレンタインだったよ。これもすべて啓太のお蔭かな?ありがとう、啓太。」
「な…何言ってるんだよ、和希。そんな風に改まって言うなよ。照れるだろう?」
「うん…でも、啓太のお蔭で王様と仲直りできたんだから。俺、本当に感謝してるんだ。」
「もういいよ。」
啓太は嬉しそうに言う和希を見て答えた。
和希は勉強もできるし、しっかりしているけれども、恋愛については苦手なようだ。
だから、余計なお世話かもしれないが、つい気になってしまう。
それに相手が王様だからな…王様は頼りになるけど、細かい事に気がつかない。
和希はああ見えて繊細だから、気をつけなくちゃいけないのに王様は無頓着だから気付かない。
その結果がこの間のバレンダインだ。
西園寺さんと七条さんが何とかしてくれたから上手く仲直りできたけど、これからの事を思うとちょっと憂鬱になる啓太だった。


「啓太、どうした?」
急に黙り込んだ啓太を心配そうな顔で和希は見詰める。
啓太は慌てて答えた。
「何でもないんだ。それよりも和希、ホワイトデーはどうするんだ?」
「ああ…、金曜日だから授業が終わった後に会う予定なんだ。啓太と中嶋さんはどうするんだ?」
「俺は、中嶋さんが1人暮らしするマンションに行く予定なんだ。」
「啓太、それってさぁ、いつもと同じじゃないのか?お前、卒業式以来週末は中嶋さんのマンションに行ってるんだろう。」
「うん、そうだけどさ。2人きりで迎えるホワイトデーもいいと思わない?」
顔を少し赤らめて言う啓太に、余計な事を聞いたな…と反省する和希。
恋人同士の幸せなんて人それぞれなんだからそれでいいんだよな…と思った。
自分達はどんなホワイトデーを過ごすのだろう?
哲也が卒業してから始めて会う日でもある。
その日の為に今から仕事を片付けないといけないな。
当日に仕事で行けないとか遅れるとかしないように抜かりなくしとかないと心新たにする和希だった。






あれ?ホワイトデーの話の予定だったのに、ホワイトデー数日前の話になってしまいました。
しかも、王様出て来ないし…和希と啓太の会話で終わってしまいました。
これってもしかして2話にしてホワイトデー当日の話も書くべきだった?
でも、この話はこれで終わりです。
ホワイトデー当日の和希と王様の話な皆様で楽しく想像して下さい。
きっと二人の事です、ラブラブな1日を過ごした事でしょうね。(和希、翌日ちゃんと仕事に行けたかな?)
                  2008/3/13