逢いたくて
「どうして貴方がここにいるんですか?」
「和希に会いたかったから!!」
和希の質問に嬉しそうに答える成瀬を見て、和希はため息を付いた。
ここは関西の一流ホテルの1室。
3日間の予定の出張の今日は2日目。
今夜寝て、明日の仕事を片付ければ学園に帰れるのだった。
なのに…
「どうして俺がこのホテルに泊まってるって分かったんですか?」
「石塚さんに聞いたからだよ。」
「石塚に?」
「うん!どうしても和希に会いたいって言ったら教えてくれたよ。」
和希は怪訝そうに成瀬を見ながら、
「それだけじゃないでしょう。ただ会いたいって言っただけで石塚が俺の宿泊しているホテルの名前と部屋を教えるとは思えません。他に何を言ったんですか?」
「え〜。別に特別な事は言ってないよ?」
「成瀬さんにとっては特別でなくても、他の人にとっては特別に聞こえたんです。」
「そんな事ないよ。和希っては神経質なんだから。」
にこやかに言う成瀬を見て、
「いい加減にして、本当の事を言って下さい。」
口調がきつくなった和希に成瀬は勘弁したように言った。
「本当はね。和希って強がりだけど、本当はそうじゃないんだ。きっと慣れない土地での仕事で疲れているから慰めに行きたい…って言ったんだ。」
「成瀬さん…」
「あっ!もちろん、僕も寂しいから会いたいってちゃんと言ったよ。そうしたら石塚さんが笑いながら、『和希様も頑張っていらっしゃいますから、ご褒美が必要かもしれませんね』って言ってここを教えてくれたんだ。」
「…」
確かに今回の仕事は結構骨が折れる仕事だった。
けれども、それを顔に出したつもりはなかったのだが…
「参ったな。」
「何が参ったの?」
「石塚にだよ。今回の仕事は条件が厳しくてね。かなり難航してたんだ。でも、それを態度に出したつもりはないんだけど、石塚には分かってしまうんだな。」
「ふ〜ん。」
そう言いながら成瀬は和希の腰に手を回すと触れるだけのキスをした。
「なっ…何をするんですか?」
「ちょっとね。ヤキモチをやいちゃった。」
「ヤキモチ?」
「うん。だって和希ってば、石塚さんの事随分と信用しているんだもの。」
「当たり前でしょう?石塚は俺が日本に来てから4年間ずっと俺の秘書をしてくれた人ですよ。誰よりも信用がおける人です。」
「うん。分かってる。分かってるけど、悔しいんだ。」
「悔しい?」
和希は首を傾げながら成瀬を見つめた。
「だってさ。僕は和希の恋人なのに。誰よりも和希の事を分かっているつもりなのに、実際はその僕よりも石塚さんの方が和希を知っているんだから。」
「それは仕方がない事でしょう。石塚と成瀬さんでは知り合ってからの年数が違うんですから。」
「そうだけどさ…」
拗ねた子供みたいな成瀬を見て和希はクスッと笑うと、
「でも、石塚が知らない俺を貴方はたくさん知っていますよ。」
「えっ…?」
「成瀬さんの前だけ、俺はただの和希になれるんです。『鈴菱和希』と言う仮面を捨てて本当の自分に戻れるんです。だから…石塚にヤキモチなんてやかなくても大丈夫ですよ。」
そう言った後、成瀬の頬にそっと啄むようなキスを落とした和希。
唖然としている成瀬に、
「俺は貴方の事を誰よりも愛しているんです。だから、その俺の事を信じて下さい。」
「和希!!」
ガバッと和希に抱きつくと、ギュウギュウと和希を抱き締めた。
「痛っ…離せってば…この馬鹿力…」
「何を言っても離さないよ。だって、和希から『愛してる』って言ってくれたんだから。もう最高な気分だよ。」
「分かりましたから…本当にもう離して下さい…」
「うん。でも、もう少しこのままでいてね。この幸せを抱き締めておきたいから。」
「本当に、後少しですよ。」
成瀬のその言葉を聞いた和希は赤らめた頬を隠すように顔を成瀬の胸に付けながら幸せそうに微笑むのでした。
大好きな和希に会いたくて、出張先まで追い掛けてきた成瀬さん。
その成瀬さんを一応は注意しますが、内心は嬉しくてたまらない和希だと思います。
この話はホワイトデーにM様に差し上げる予定のssでした。
先に自分のサイトに載せてしまって申し訳ないのですが、よろしかったらMさまお持ち帰りになって下さい。
2010年3月8日