相手はトノサマなんだけどな
ガサッと草むらから音がしたので、和希は草むらの方を振り返った。
「ぶにゃ〜」
鳴き声と共に現れたトノサマの姿を見て、和希はホッとした顔をしながら腰を屈
めた。
「びっくりしたぞ、トノサマ。」
「ぶにゃにゃ」
そう鳴きながら和希の足下に頭を擦りつけるトノサマを和希は抱きかかえると側
のベンチに腰を下ろした。
和希の膝にのったトノサマは嬉しそうに喉をゴロゴロさせていた。
そんなトノサマの頭を撫でながら、
「今は授業中だから、誰が来たのかびっくりしたんだ。先生だったら授業をサボ
っているって怒られる所だったからな。」
「にゃ〜」
まるで返事をするかのようなトノサマの反応に和希は微笑んだ。
暫くそのままトノサマの頭を撫でていた和希だったが、トノサマが寝ているのに
気が付いた。
「トノサマ?寝ちゃったのか?」
和希はトノサマを起こそうとしたが、とても気持ちよさそうに寝ているので起こ
すのがかわいそうに思えてきた。
「まいったなあ。これからサーバー棟に行かなくちゃならないんだけどな。まあ
、少しだけならいいか…」
和希はそう呟くと空を見上げた。
最近忙しくてゆっくりと空を見上げた事などなかった。
秋晴れで心地よい風が吹いていた。
ファ〜と欠伸をした和希はそのまま目をソッと閉じたのだった。
「だからさぁ。今度の予算案の書類はあれでいいだろう?」
「まあ、いいだろう。」
「本当か?ヒデの了解が取れて安心したぜ。」
和希とトノサマがいる側を丹羽と中嶋が通り掛かった。
この時間帯、3年生の2人は授業がないので学生会室に向かう途中だった。
中嶋の足が突然に止まったので、丹羽は不思議そうな顔をして中嶋を見た。
「ヒデ?どうしたんだ?」
急に不機嫌な顔をしてある方向を見ている中嶋。
丹羽は気になってその方向を見て顔色が変わった。
「なっ…なんであいつがいるんだ…」
丹羽はそう言いながらゆっくりと後退った。
「ヒ…ヒデ…俺…先に学生会室に行くからな…」
それだけ言うと丹羽はその場を走って逃げていった。
後に1人残った中嶋は丹羽の存在など綺麗さっぱりと記憶から消えていた。
暫くそのままでいた中嶋は、
「いつもあれほど言っているのに、よく分かっていないようだな。まあ、いい。
後で楽しみにしているがいい。」
そう言うと、学生会室に向かって歩き出した。
和希は中嶋から言われていた事があった。
疲れているからといって、無防備にどこでも寝るな。
誰にでも愛想良く微笑むな。
俺以外の人物に気軽に触らせるな。
これを守れなかった時はお仕置きをすると…
そう中嶋に言われていたのであった。
どこでも寝るのは風邪を引いたり体調を崩す可能性があるので気をつけようと思
っていた。
愛想良く微笑むなと言われても本人があまり意識をしていないのでよく分からな
かった。
もとから、あまりベタベタと触ったり触られるのは苦手だったのでこれは大丈夫
だと思っていた。
まさか、気軽に触らせるにトノサマが入っているとは和希は思っていなかった。
その晩中嶋から約束を守れなかったと言われた和希は、お仕置きをされ翌日布団
から起きあがる事ができなくなってしまいました。
10月10日はトノサマの誕生日なので、トノサマを絡めた話を書いてみました。
中嶋さんはああ見えて結構嫉妬深いんじゃないかな…と思っています。
和希はのんびりとしているので、誰に対しても笑顔で接してしまいます。
和希にとっては可愛い生徒ですからね。
そんな和希を心配して中嶋さんはこれだけはやってはいけないといくつか和希に
言ったのですが、まさかトノサマまでカウントされるとは思っていませんでした
(笑)
2010年10月6日