Alcohotic Drink

 「よう、坊ちゃん元気か?」
ノックも無しに理事長室のドアが開き、竜也が入って来た。
いつもながらの登場の仕方に和希は苦笑いをしながら、
「お久しぶりです、竜也さん。」
「おお。本当に久しぶりだな。坊ちゃんはいつも忙しそうに仕事をしているからな。飲みに誘いたくてもできないからな。」
「そんな事ありませんよ。俺、竜也さんと飲むのは好きですから、是非お時間がある時には声をかけて下さいね。」
「嬉しい事を言ってくれるじゃねえか。だが、俺と飲んでるって哲也が知ったら機嫌が悪くなるんじゃねえのか。」
「そんな事…」
和希は少し困った顔をした。
確かに竜也の言う通りなのだ。
和希が竜也と飲みに行くと必ず機嫌が悪くなる丹羽。
先日もその事で散々の目にあったばかりだった。

         * * * 

「和希!お前、親父と飲んだんだって。」
「はい、そうですけど。それが何か?」
「お前、仕事が忙しいって言ってこの頃ちっとも俺と一緒にいられないのに、親父とは会うのかよ。」
「何怒ってるんですか?俺はただ竜也さんと仕事の話をしたついでに飲みに行っただけですよ。やましい事なんてしてませんからね。」
和希は少しむくれて答えた。
しかし、丹羽の怒りは収まらなかった。
「当たり前だ。親父と何かあったら俺が承知しないからな。」
「はい、はい。」
和希は呆れながら答えた。


丹羽は和希が竜也と出かけるとすぐに機嫌が悪くなる。
だから和希は竜也と会ってもその事を丹羽には言わないようにしていた。
だが竜也は違うらしい。
丹羽をからかっているのか、和希と会うと必ず丹羽に電話をしてくる。
その結果、毎回丹羽は怒り狂って和希に絡んでくるのだ。
丹羽との仲(恋人)を竜也に知られた時はもう駄目だと思った和希だったが、竜也は特には気にしなかった。
それよりも可愛い嫁が来たと喜んでいた。
何かが違うと思った和希だったが、反対され別れさせられるよりはいいと思って黙っていたのだが…


ふと気付くと和希は丹羽のベットの上に倒されて丹羽に乗りかかられていた。
「ちょ…哲也?何してるの?」
「何してるってこれからしようと思った所だ。」
「嫌ですよ。俺今日は疲れてるんです。また今度にして下さい。」
「嫌だ。」
「嫌だって…何子供みたいな事言ってるんですか?」
「親父と会う時間は取れるのに、俺とする時間は取れないって言うのかよ。」
「そんな事言ってません。ただ、本当に今日は疲れてて…あんっ…」
丹羽が和希の首元を舐めると和希は思わず甘い声を出した。
そんな和希の様子に丹羽はにんまりと笑いながら、
「何だよ、和希だってその気になってるんだろう?いいよな?」
「…う…ん…」
丹羽の手で胸の突起を弄られ和希は快楽の世界に入っていった。

          * * *

「そんな事ないですよ。王様はちょっとだけやきもちをやく程度ですから。」
ニコッと笑いながら言う和希に竜也は、
「やきもちねぇ…まあ電話をするとそんな感じだけどな。」
「竜也さんからの電話が来ると王様の機嫌が悪くなるんですよ。」
「ははっ…そうか。そりゃいいな。もっとかけてやるか。」
「もう、竜也さんよして下さいよ。その後俺が大変な目に合うんですからね。」
「ほう。どんな目に合うんだ?」
「それは…」


和希は真っ赤になる。
丹羽は竜也から電話があると和希を抱きたがるのだが、その抱き方がいつもと違うので和希は嫌なのだ。
やたらしつこいし、なかなかイカせてくれないので和希は大変な思いをしなければならないからだ。
その上、普段だったらけして言わせない言葉を無理矢理言わされるのも辛いのだった。
真っ赤になった和希を竜也は愛しく見ていた。
数年前の留学中に見せたどんな顔よりも表情豊になった和希。
人前で感情を見せる事がなかなかできなくて、それでも竜也の前だけでは様々な感情を見せていた。
けれどもその全ては丹羽に対して見せるものと比べると色あせてしまう。
自分の息子ながらここまで和希を表情豊な人物にするとは、内心竜也は驚いていた。


「さてと…坊ちゃん、出かけるぞ。」
「はい?出かけるってどこへですか?」
「これから飲みに行くんだよ。」
「俺、まだ仕事があるんですけど?」
「大丈夫だ。さっきお前さんの秘書には許可を取ってきた。」
和希はため息を付いた。
なんやかんや言っても竜也さんって哲也と似てるよなぁ…
違うか。
哲也が竜也さんに似てるんだな。
そう思うと可笑しくなる和希だった。


微笑んでいる和希に向って竜也は言った。
「どうした?何がそんなに可笑しいんだ?」
「いいえ、何でもありません。それよりも今日はどこのお店に連れて行ってくれるんですか?俺、竜也さんのお勧めのお店って好きなんですよね。」
「嬉しい事言ってくれるじゃねえかよ。」
「本当の事ですからね。それじゃ行きましょうか。」
和希は竜也と共に理事長室を後にした。
近いうちにまた哲也のご機嫌が悪くなるから、覚悟をしておかなくちゃな…と思いながら。







王和なのに、王様はちっとも出てきませんでした。
竜也さんは大好きです。
和希にとっては父親みたいな人だと思っています。
和希は王様も竜也さんも大好きなのに、竜也さんにヤキモチをやく王様です。
父親に負けたくないという思いからか、和希の中で自分の方が上じゃないと嫌みたいです。
でも、和希は王様の方がずっと好きなのにね。
早く気付いてあげて下さいね、王様!
               2008年10月6日