貴方へのメッセージ

           〜この話をお読みになる方へ〜
    この話は和希が直らない病気にかかっているという話です。
    非常に暗い話です。正直言って夢も希望もありません。
    それでも最後まで一生懸命生きたいと願う和希と、そんな和希を支えている王様の話です。
    この手の話が嫌いな方はすぐにこのページを閉じて下さい。
    まあ、大丈夫だろうという方のみお読みになって下さいね。
    なお、お読みになった後の苦情などは受け付けておりませんので、ご了承下さい。








「和希、ここにいたのか?」
病院の屋上で、車椅子にのった和希は声の方に振り向いた。
「哲也、今日も来てくれたの?毎日は大変だから来なくてもいいって言ってるのに。」
少し困った風に笑いながら和希は答える。
丹羽は和希の側に来ると、自分の首に巻いていたマフラーを外し和希の首に巻いた。
「冷えると身体にさわるだろう?それに俺は毎日でも和希に会いたいから勝手に来ているだけなんだから、気にするな。」
「ありがとう、哲也。ふう…暖かいや、このマフラー。哲也の匂いがする。」
嬉しそうにマフラーに触れる和希は、丹羽に向かってふわりと微笑んだ。
その顔を見ながら、丹羽はまた少しやつれた和希の顔を心配そうに見詰めていた。
和希が病気で後数年しか生きられないと宣言されてから、もうどれくらい時が経ったのだろうか?
後どれくらい、こうして和希と一緒にいられるだろうか?
しかし、その最後の時間まで和希と一緒にいて、和希の笑顔を守っていきたいと丹羽は心に決めていた。


数年前のあの日…
ベルリバティスクール3年生の丹羽哲也は1年生の遠藤和希に告白して、見事に断られたが、1週間考えたのちにもう1度付き合いを申し込む為に和希をここ学生会室に呼び出していた。
1週間前、和希から付き合えない理由を無理矢理聞き出した丹羽。
その内容に驚きを隠せずに、その場は何も言えなかった。
そして、1週間考えた結果は…ずっと和希の側にいるという事だった。


「なっ…王様、貴方今自分が何を言ったのか解ってるんですか?」
「ああ、散々寝ないで考えたからな。」
「寝不足で頭が回転してないんですね。今の言葉は聞かなかった事にします。それじゃ、俺はこれで。」
頭を下げて、学生会室から出て行こうとする和希の腕を丹羽は掴んでいた。
「何か、まだ用があるんですか?」
「俺は至って冷静だぜ。遠藤、俺と付き合ってくれ!」
「まだ続いてたんですか、その話。俺、言いませんでしたか?王様貴方とは、いえ誰とも付き合う気はありません。」
「どうしてそうつっぱるんだ?付き合えない理由は確かに聞いた。だが、そんなのは断る理由にはならねえよ。」
「断る理由にはならないって…十分断る理由でしょう?」
「いや、ならない!」
「王様…」
和希は困った顔をしてため息を付く。
そんな和希に丹羽は説得を始める。
「遠藤、お前がもしどうしても俺の事が嫌いなら諦める。でも理由があれだったら、俺は絶対に諦めねえよ。」
「なら、嫌いです。俺聞き分けが無い奴は好きじゃないんです。王様が嫌いだから付き合えません。これで満足ですか?」
「待てよ。どうしてそうなんだ?なんで始める前に簡単に諦められるんだ?」
「終わりが見えてるのに、始められる訳ないでしょ?」
「どうして終わりが見えるなんて言うんだ!」
「だから言ったでしょう?俺にはもう時間が無いんだから。もう俺には構わないで下さい。」
そう言って頑なに断る和希が丹羽には痛々しく見えた。
何もかも諦めた物のいい方、夢も希望も捨ててしまったその生き方に丹羽はストップをかけたかった。
そして…気付いたら丹羽は和希にキスをしていた。
“バシッ”
和希が丹羽の頬を叩く音が学生会室に響く。
「何するんですか!」
涙を浮かべながら怒鳴る和希に丹羽は、
「好きだ、遠藤。お前に時間が無いなら、その残りの時間を全て俺にくれ!」
「なっ…」
「お前の最後の瞬間まで、俺をお前の側に置いてくれ!」
「…」
和希の目から堪えていた涙がぽろりと流れた。
「俺は…もう数年しか生きられないんですよ?こうして普通に生活できるのも後1年もないんですよ?後は病院での入院生活が待ってるだけなんです。そんな俺でいいんですか?」
「ああ、構わない。俺の一生に1度の恋だ。この恋以外の恋はもういらない!」
「王様…本当にいいんですか?後悔なんてしないんですか?」
「する訳ねえだろう。この恋が手に入れば満足だ!」
和希は丹羽に抱きつく。
丹羽は驚くが直ぐに和希をそっと抱きしめた。
「俺も…王様の事が好きです…」
「遠藤。」
「俺も王様と付き合いたいです。でも1つだけ条件があります。」
「条件?何だ?」
「同情だけは嫌なんです。だから嫌になったら必ず言って下さい。すぐに別れます。それを約束してくれるなら、俺は貴方と付き合います。」
「解った、約束する。まあ、そんな日は来ねえけどな。」
「王様ってば…約束、必ず守ってくれますね?」
「ああ。必ず守るさ。だから俺と付き合ってくれるな?」
「はい、王様。よろしくお願いします。」
和希はニコッと笑って答えた。


その告白から数ヶ月のち、丹羽が卒業する前に和希はベルリバティスクールに退学届けを出し、入院生活に入ってしまった。
それでも最初のうちは、わりと外泊、外出届けを出して丹羽と無理しない程度に普通の生活ができたが、この数年はめったに外泊などはできなくなっていた。
身体に少しでも負担をかけない様にと車椅子に乗る様になった。
少しでも長く生きて丹羽の側にいたい…それが和希の口癖になっていた。


「少し冷えてきたんじゃねえか?もう病室に戻ろう。」
そう言った丹羽に和希は、
「もうちょっとだけ、ここにいさせて。ねえ、哲也、今日は本当に良い天気だよね。」
「ああ。雲1つ無い青空だな。」
「うん!空がこんなに綺麗だったなんて、もうずっと忘れていたよ。こんなに綺麗な青い空、忘れずに心の中にしまっておかないとね。もう見る事ができないかもしれないから…」
「何馬鹿な事言ってるんだ?まだいくらだって見られるだろう?」
怒る丹羽に和希は微笑んだ。
「…うん、そうだね、でも…」
和希は言葉を濁らした。
丹羽には黙っていたが、もうだいぶ視力も落ちてきていた。
いつまでこうして物を見る事ができるんだろうか?
もうじきやってくる暗闇の世界…愛しい丹羽の姿さえ見る事ができなくなるその時、自分はどうなってしまうんだろうか?
「でも、何だ?」
丹羽の問いかけに和希は笑って答えた。
「ううん、何でもない。またお天気が良ければいくらでも見れるよね。」
「ああ。もう戻るぞ、和希。」
そう言って車椅子を押しながら屋上を後にした丹羽は、和希の悲しそうな顔には気付かなかった。



この話は今岬悠衣が下書きを書いている話の一部分を書いてみました。
この手の話は好き嫌いがはっきりしている話ですので載せるのはかなり迷ったんですが、全文じゃなければいいかなあと思い、載せてしまいました。(全文では和希が亡くなる場面まで書いてあるので)
知識が乏しいので、何の病気かも謎のままです。
多分この話はこれ以上はサイトには載せないと思います。
きっと下書きが終わったら即お蔵入りする話です。
最後に…
こんな暗いに最後までお付き合いして下さった方々、本当にありがとうございました。
2008/1/21