Another
〜この小説をお読みになる前に〜
この話は、こんな和希と王様の始まりがあってもいいんじゃない
のかな?…と思って書いてみた物です。
ですので、いつもの続き物とは違いますので、ご注意下さい。
何を犠牲にしても構わない…そう思って開催したMVP戦。
例え啓太が俺の事を覚えていなくても構わなかった。
あの夏の日、俺に一筋の光を与えてくれた小さな啓太。
愛しい啓太の悲しむ姿なんて俺は見たくなかった。
でも…あの時の俺には愛しい啓太よりも大切な人がいたんだ。
その恋は片思いだったけれども…
何もしないまま終わってしまった悲しい恋だったけれども…
苦しくて切なくてどうしようもなくて逃げ出そうと思っていた俺に、幸せは1つじゃないと、恋も1つじゃないと教えてくれた人がいた。
今俺はその人の隣で、これ以上ない幸せに包まれている。
「和希、俺MVP戦の相手、中嶋さんに頼んでみようと思ってるんだ。」
「中嶋さんに?」
「うん。今から頼みに行く所なんだ。」
「そうか…大丈夫だよ。中嶋さんなら、きっとOKしてくれるよ。」
「そうだといいんだけどな。それじゃ、俺行ってくるね。」
学生会室に走って行く啓太を見ながら和希はため息を付く。
中嶋さんなら絶対に啓太と組んでくれる…和希は確信していた。
なぜなら、中嶋は啓太の事が好きだからだ。
なぜそう思うかと言うと、それは和希がずっと中嶋を見ていたので、中嶋の想いに気付いてしまったからだった。
和希が中嶋を想う様に、中嶋も啓太を想っている。
そして、啓太に中に芽生えた中嶋への想いに和希は気付いてしまった。
だから……
MVP戦の相手に啓太が中嶋を選んだその日から、この日の事は解っていたし、覚悟もしていたつもりだった。
けれども、頭でいくら解っているつもりでも、心はついてきてくれなかった。
和希に向かって嬉しそうに報告する啓太。
「和希、俺…中嶋さんと付き合う事になったんだ。」
「良かったな、啓太。おめでとう。」
「ありがとう、和希。和希にそう言って貰えて、俺凄く嬉しいよ。」
MVP戦の優勝よりも嬉しそうに話す啓太に、上手く笑えたか自信がない和希だった。
諦められる…和希はそう思っていた。
大好きな啓太と想いを寄せている中嶋さんには、誰よりも幸せになって貰いたかったから。
でも、できなかった。
無邪気な啓太は親友である和希に中嶋の事をあれこれと話て聞かせた。
それに悪意は無い。
けれど…聞きたくなかった。
啓太が幸せそうに話すのを聞いてるのは辛かった。
だから、あの日とうとう言ってしまった。
「もういい!啓太!少し黙っててくれ!」
そう怒鳴った和希に、一瞬何があったのか解らない顔をした啓太だったが、直ぐに泣きそうな顔をして謝ってきた。
「あっ、ごめん和希。」
啓太の声を聞いて、和希はハッとした。
「悪い、啓太。」
「ううん。俺の方こそベラベラ喋ってごめんね。」
「違うんだ、啓太…実は俺、今仕事が忙しくてここ2日間寝てないんだ。」
「本当?そう言えば確かに顔色悪いよ。」
「そうか?だからごめん。少し苛々していた。」
「大丈夫だよ。それよりも保健室に行った方がいいんじゃないか?」
「そうだな…俺行ってくるよ。」
「1人で平気?一緒に行こうか?」
「いや、いいよ。それよりも、次の授業を休むって先生に伝えといてくれるか?」
「うん、解った。」
そのまま啓太と別れた和希は保健室には行かずに、サーバー棟に向かった。
途中の林の中で、和希は立ち止まった。
「もう…限界かな…」
自分をコントロールできなかった和希。
これ以上、中嶋といて幸せの啓太を見ていたくなかった。
自分では無く啓太を選んだ中嶋、その啓太に和希は嫉妬していた。
このままでは、いつか本当に啓太を傷つけてしまう。
それだけは、したくはなかった。
その前に、何か対策をしなくてはならない。
「“遠藤和希”はもういなくなった方がいいな。」
「随分物騒な事を言ってるんだな、遠藤。」
ガサッという足音と共に丹羽が和希の前にやって来た。
「王様?」
「“限界だ”とか、“いなくなった方がいい”とか。お前、何考えているんだ?」
「何を考えていようが、俺の勝手でしょ!」
「いやに食って掛かるな。」
「王様が絡んでくるからじゃないんですか?」
和希はプイと丹羽から視線をずらす。
そんな和希を丹羽は愛しそうに見詰める。
「そんなに、ヒデが啓太を選んだのが気に入らないのか?」
「なっ…何言ってるんですか?」
「なあ、そんなにヒデがいいのか?」
丹羽はそう言うとギュッと和希を抱きしめる。
驚いた和希は暴れるが、丹羽の腕の強さにそれはかなわない。
「止めて下さい、王様!」
「遠藤、止めちまえよヒデなんか。奴は啓太しか見てないんだぜ。」
「そ…そんな事どうして王様に言われなくっちゃならないんですか?第一俺が誰を好きだろうと王様には関係ないんじゃないですか?」
「関係なくねえよ。」
「何訳解らない事を言ってるんですか?それよりも、いい加減に離して頂けませんか?」
「嫌だ!離したらお前、俺から逃げるだろう?」
「逃げたっていいじゃないですか?」
「駄目だ!折角捕まえたんだ。もう逃がさない。」
「さっきから、何言ってるんですか?」
「ふう〜」
丹羽はため息を付く。
「お前って、ヒデしか見えてないんだな。」
「だから、何なんですか?いったい。」
丹羽の和希を抱きしめる手に力が入る。
「俺はずっと見てたんだぜ、遠藤を…」
「はぁ?」
「遠藤の事が好きでずっとお前を見ていたんだ。」
「な…何言って…」
「なぁ、駄目か?俺じゃヒデの代わりにはなれないか?」
「無理です!」
「早…即答だな。」
「当たり前です。誰も中嶋さんの代わりになんてなれません。さあ、王様、もう話は終わりでしょう?俺の事離して下さい。」
仕方無しに丹羽は和希を離す。
「それじゃ、王様失礼します。」
そう言って、サーバー棟へ行こうとする和希に丹羽は声を掛ける。
「遠藤、俺と付き合え!!」
和希は歩みを止めて、丹羽の方に振り向くと呆れた顔で言った。
「何命令してるんですか?」
「いい男はヒデだけじゃないって証明してやるぜ。」
「はい?」
「俺がお前を幸せにしてやる。誰よりも甘やかせて、誰よりも大切にしてやる。」
「…」
「遠藤、俺を信じろ!!」
「…勝手に言ってて下さい…」
そう言いながら、和希は丹羽に背を向けて再びサーバー棟に向かって歩き出した。
その後ろ姿に丹羽は叫ぶが、和希はもう振り返らなかった。
「遠藤!覚悟しろよ!必ず俺がお前を幸せにしてやるからな!!」
その言葉どうり…
数ヶ月後には丹羽の隣で幸せいっぱいに微笑む和希がいた。
11月です!中嶋さんの誕生日の月です!
と言う訳で、中嶋さんが好きでたまらない和希を書いてみました。
和希の想いを知らない中嶋さんは啓太と恋人になります。
一人傷つき苦しんでいる和希を救ってくれるのは、やっぱり王様しかいないでしょう。
頑なな和希の心を一生懸命に王様は解していき、ついには和希の心を手に入れます。
やっぱり、和希のお相手は王様が一番!!と思っている岬悠衣です。