Anxiety

12月に入り、忙しい日々が続いていた。
それは和希だけでなく、丹羽もだった。
受験という事もあるが、学生会の引継ぎが終わったのは先月の事。
けれども未処理の書類はどうしても丹羽がやらなくてはならないもので、中嶋に怒られながら今日も丹羽は書類を片付けていた。


「あれ?和希。今日は仕事はいいの?」
「ああ。偶には王様を手伝おうと思ってね。啓太も中嶋さんと一緒に毎日手伝ってるんだろう?」
「うん。でも、中嶋さん程じゃないよ。王様がやらなくちゃいけない書類が多くてね。俺が行っても手伝う事がない事もあるんだ。」
「そうか…」
和希はため息をつく。
まったく、哲也は何をやっているんだか…
それって哲也が確認して判を押すだけの書類がどのくらいたくさんあるかって事だろう?
早く片付けて、受験勉強に専念して欲しいのになぁ…
それは、何も哲也だけではなく中嶋さんにしてもそうだ。
優秀な2人の事だから大丈夫だとは思うが、念には念をいれておきたい。
これは理事長としての意見ではなく、俺個人の考えでもある。


「和希、俺これから手伝いに行くけど、和希も行く?」
「ああ。」
和希は啓太と2人で話をしながら会議室に向う。
学生会室は新学生会役員が使っているので、引継ぎが終わった丹羽達が使うわけにはいかない。
和希は少し寂しく思う。
もう学生会室に行っても丹羽はいないのだ。
あの会長席に座っている丹羽をもう見る事はできない。
寂しさを紛らわすかのように和希は啓太との会話を楽しんだ。
啓太とこうして話をするのも本当に久しぶりだった。
本当の事を言うと、無理をして仕事を片付けて今日の時間を作ったので少し身体がだるいのだが、それを忘れるくらい楽しい会話だった。

会議室に着いてノックをしようとした時、中から声が聞こえてきた。
「ヒデ、少し休憩にしないか?」
「丹羽。今さっき休憩を取ったばかりだろう。少しは真面目に仕事をしろ。」
「してるけどさ。どうも、こういうのは俺苦手なんだよな。」
「苦手だろうと、しなくてはならない事はしろ。」
「何か言ったか?哲っちゃん。」
「いや何も…さてと、もう一頑張りするか。」
聞こえてきた会話を聞いて和希と啓太は顔を見合わせて笑った。
相変わらずだな…と思いながらも、忙しいので最近会えないしメールも電話をしてない事に和希は気がついてしまった。
俺は哲也に会えないのが寂しいのに、哲也は平気なのだろうか?
こうして、中嶋さんとの会話を聞いていると不安になってくる。
哲也は俺がいなくても、中嶋さんさえいればいいのかなって…
そりゃ、哲也と中嶋さんは親友なんだから仲がいいのは当たり前なのに…
会えない時間が長いと不安になる。
会えなければ自分が会いにいけば済む事なのに、できたら哲也から会いに来て欲しいだなんて我侭だって解っている。
それでも…
そのくらいの甘えを許して欲しいと思っている自分がいる。


「和希?中入るよ?」
啓太の声で和希はハッとする。
「ごめん、啓太。」
そう言って中に入ると中嶋がすぐに啓太に気付いた。
「啓太。今日も来てくれたのか?毎日悪いな。」
「いいえ。俺でよければいつでも手伝いますので何でも言って下さいね。」
「ああ、助かる。」
啓太と中嶋さんの会話を羨ましく聞きながら、和希はチラッと丹羽を見た。
丹羽は和希に気付かないのか、珍しく真剣に仕事をしている。
こんな事はめったにないから、邪魔しないうちに俺は帰ろうかな…と和希は思った。
今、仲の良い啓太と中嶋の姿を見るのは和希には辛かった。
和希は皆に気付かれないようにそっと部屋を出ると、ため息を1つついた。
「さてと…俺もサーバー棟に行って仕事をするか。」


その晩、和希は珍しく夕食ギリギリに寮に戻ってきた。
食堂に入った和希は、啓太に声を掛けられた。
「和希。心配したんだぞ。急に居なくなるから。」
「悪い。でもメール届いたろう?」
「そりゃ、届いたけど、一言言ってくれたっていいじゃないか。黙ってサーバー棟に行くなんて酷いだろう。」
「ごめん、ごめん。何か中嶋さんと話し込んでいたからさ。邪魔しちゃ悪いと思ったんだ。」
「邪魔だなんて思わないよ。でも、今度からはちゃんと言えよ。」
「ああ、解った。本当に悪かったな、啓太。」
「もういいよ。それよりも早く一緒にご飯を食べよう。こんな時間まで仕事でお腹減っただろう?」
「もうペコペコだよ。」
トレーに食べる物を乗せた和希は啓太と一緒に中嶋と丹羽が座っている席についた。
「よう、和希。久しぶりだな。元気か?」
「丹羽。遠藤は今日手伝いに来ていただろう?」
「えっ?そうだっけか?」
「王様、和希に気付かなかったんですか?」
「ああ…」
「それって酷くないですか?」
「啓太、いいから。」
「だって、和希。」
「いいんだ。王様だって忙しいんだから仕方ないんだ。それに…俺はその程度の存在だしな…」
「和希?」
啓太が不思議そうな顔をした時、丹羽が和希の腕を掴んで立ち上がらせた。


「痛っ!王様、離して下さい。」
「うるせー。黙って着いて来い。」
丹羽はそう叫ぶと、和希を食堂の外に連れ出すと、いきなり舌を差込むキスをしてきた。
「んんっ…」
和希は丹羽を叩いて抵抗するが丹羽は構わずキスを続ける。
抵抗をしていた和希も、暫くすると大人しくなって素直にキスを受け入れ始める。
暫くした後、丹羽は和希の唇から離れると、一言言った。
「和希。忙しくて一緒にいられなくて悪い。けど、お前の事をどうでもいいから一緒にいないんじゃないぞ。」
「…哲也…」
「悪かった。不安にさせたんだろう?」
和希は頷いた。
「哲也、俺といるより中嶋さんといる方がいいのかなぁって思ったんだ。」
「ヒデと?」
「だって…中嶋さんと一緒にいる哲也って楽しそうなんだもの。」
俯きながらでも解る。
顔を赤くして答える和希。


丹羽は和希をギュッと抱き締めると、
「馬鹿だな。確かにヒデといると気楽だけれども、俺はお前といる方がいいに決まってるだろう。和希といる時は他の誰といるよりも何倍も幸せなんだぜ。」
「哲也…」
「それに、俺が心から安らげるのも和希の側なんだからな。もっと自信を持っていろ。」
「うん。ありがとう、哲也。」
「それじゃ、飯の途中だから戻って食べるか。」
「俺、お腹減っちゃいました。まだ、何も食べてないんですよ。」
「それじゃ、早く食べような。それで食事が終わったら、俺の部屋に来いよ。」
「哲也の部屋へ?」
「ああ。久しぶりに2人で過ごそうぜ。」
「はい。」
和希は丹羽に向って嬉しそうに微笑んだ。




12月は忙しいです。 
なかなか一緒に過ごせない和希と王様。
でも王様はいつも中嶋さんと一緒にいます。
そんな王様と中嶋さんにヤキモチをやいた和希の話を書いてみました。
               2008/12/29