朝のひととき

「おい、和希起きろよ。」
「う〜ん…もう少しだけ寝かせて…」
丹羽に声を掛けられた和希は掛け布団を頭に被せながらそう答えた。
「ダメだ!さっきもそう言ってただろう。もうじき石塚さんが迎えに来るからもう支度しろ。」
そう言って掛け布団を引きはがした丹羽に眠そうな目を擦りながら和希は起きようとしたが、腰の痛みにもう1度布団の上に倒れ込んだ。 「もう…哲也のせいで起きられないじゃないか。」
「俺だけのせいか?」
「そうだよ、他に誰のせいだって言うんだよ。」
頬を膨らませて言う和希に、
「そりゃ、手加減しなかったのは悪かったけどよう。和希だって『もっと』って言ったじゃないかよ。」
「なっ…俺はそんな事言いません!」
「言っただろう?」
「言いません!哲也の気のせいです!」
プイッと顔を背けて言う和希に丹羽は頭を掻きながら、
「仕方がねえか。あの最中じゃ意識が飛んでるからな。」
「…」
和希は無言で丹羽を睨むが丹羽は気付かずに喋り続けた。
「まったくよう。あの時は本当に素直で可愛いのに普段はこうだからな。まあ、普段の和希も可愛いんだけど、あの最中の和希は文句の付け所がない位可愛いのになぁ…」

しみじみと言う丹羽に和希はまた頬を膨らませる。
普段、可愛げがないのは和希だって承知している。
けれども、丹羽みたいに所構わず『好きだ』なんて言えない。
人前でベタベタするのだって苦手なのだ。
嫌な訳じゃない。
丹羽に手を繋がられれば嬉しいし、抱き締められればその体温を感じて幸せになれる。
けれども、今までそういう経験をしてきた事がなかった。
忙しい両親には滅多に会えなかった。
抱き締められた事もまして手を繋いでどこかに行くなんて経験もなかった。
求められたのは常に冷静に周りを見つめる事。
そんな和希に愛する事と愛される事を丹羽は教えてくれた。
普通の人が当たり前に経験してきた事が和希にとっては未知の世界の出来事なのだ。
仕方がないと思っても素直に甘えられない自分に情けなくなる事がある。

「…俺に…どうしろって言うんですか?…」
ボソッと言う和希の声に丹羽はハッとした。
先程まで膨れていた和希は今は泣きそうな顔をしている。
丹羽は慌てた。
「悪い、和希。大丈夫か?」
「…何がですか?…」
丹羽は和希をギュッと抱き締めながら言った。
「好きだからな。どんな和希だって俺にとっては1番大切な存在なんだ。卒業してもこうして俺の傍にいてくれて、俺は嬉しいんだぜ。」
「本当に?迷惑じゃない?」
丹羽の胸に顔を埋めながら、和希は聞き返した。
「迷惑な訳ないだろう。」
「…ありがとうございます…」
和希は嬉しそうに言った。

丹羽は卒業してから1人暮らしをしていた。
大学生の丹羽と学園の生徒と理事長をしている和希は在学中と違ってなかなか会う事ができない。
そこで和希は外での仕事の遅い時や早朝の会議が本社である時は今までホテルに泊まっていたのを止めて、丹羽のマンションに泊まりに来るようになっていた。
しかし…
普段会えない恋人同士が偶に会えばセーブがきかなくなるのは仕方がない事なのかもしれない。
丹羽だけでなく、和希ももっとと丹羽を求めて甘えてしまうので丹羽はつい暴走してしまうのだった。
その時は幸せに浸っているので構わないのだが、翌朝が大変だった。
体力馬鹿と言っては失礼だが、そんな丹羽に満足するまで付き合えば、当然和希の体力は持たなくなる。
けれども、翌朝がどんなに体力的にきつくても、心は満たされているのだった。

「哲也の側にずっといたくて…つい本音を言ってしまうんですね…」
照れくさそうに言う和希の髪にソッとキスを落としながら丹羽は言った。
「俺もだ。和希を手放したくなくてつい手加減しないで悪いな。」
「いいんです。俺…哲也に愛されて幸せですから。」
「お前…なんでそんな可愛い事言うんだよ。仕事に行かせたくなくなるだろう。」
和希はクスッと笑うと、
「このまま監禁でもしますか?大騒ぎになりますけど。」
「そうしたいのは山々なんだけどな。そんな事をしたら石塚さんが何をしてくるか想像するのも怖いからな。」
「そうですね。おそらく無事では済まないでしょうね。」
「だろう?『和希様に何をなさったんですか!』とか言って殺されかねないからな。」
「哲也の身の安全の為にも俺は仕事に行きますね。」
「ああ。そうしてくれ。」
お互いの顔を見ながら笑い合う2人。
「さてと、まずは着替えて朝飯を食おうぜ。朝飯は大切だからな。」
「はい。」
和希は微笑みながら丹羽の頬にキスをした。




甘々な和希と王様の朝の風景がみたくて書いてみました。
設定としては王様は大学1年生、和希はBL学園2年生です。
仕事で外に出て泊まる時はいつもホテルを利用していた和希ですが、最近は王様が1人暮らしをしているマンションに泊まりに行くようになりました。
王様の部屋まで夜送っていくのも、朝迎えに来るのも石塚さんが自主的に行っています(笑)
可愛い和希の心配をする石塚さん。
疲れて仕事に行けないと言ったら石塚さんに心配されるのでばれないようにしている和希ですが、その日の体調の様子は一目で石塚さんは分かってしまいます(苦笑)
                          2009/10/26