朝の食堂で…

朝の食堂はいつも騒がしい。
それが当たり前の毎日だが、その日の朝はいつもと違っていた。
ざわついていた食堂が突然シーンとなった。
その時、和希は啓太と一緒に朝食を食べていた。
楽しく会話をしながら食べていた和希と啓太だったが、啓太が箸に挟んでいた卵焼きをお皿の上に落とした。
それに気が付いた和希は、
「啓太、卵焼きが落ちたぞ。」
「…」
和希が話し掛けても啓太は何も答えなかった。
ポカーンと口を開けたまま、食堂の入り口を見つめている。
啓太の席は入り口がよく見えるが、和希は入り口を背にしているので入り口の様子が全く見えないのであった。
「啓太?おい、啓太。俺の声が聞こえているか?」
啓太の目の前に手を揺らしながら声を掛けると、啓太はハッとした。
「あっ…ごめん、和希。」
「いいけどさ。どうしたんだ?」
「うん…あれなんだけど…」
「あれ?」
啓太の視線の先を見ようとした和希は後ろを振り向き、その場に固まってしまった。

「おはようございます、遠藤君、伊藤君。」
「あっ…おはようございます。七条さん、西園寺さん。」
「ああ、おはよう、啓太。」
啓太は慌てて西園寺と七条に挨拶をするが、和希は驚きのあまり口がきけない状態だった。
そんな和希を見て、七条は嬉しそうに微笑む。
「遠藤君のそんな顔を朝から拝めるだなんて、なんていい朝なんでしょう。神様に感謝しなくてはいけませんね。」
「臣。朝からそんな事を言っていないでさっさと用件を済ませたらどうだ?」
「はい、分かりました。まったく、郁はせっかちなんですから。」
七条の言葉に西園寺はやれやれという顔をした。
七条は和希の側に行くと手に持っていた物を差し出しながら、
「遠藤君、お誕生日おめでとうございます。」
突然目の前に差し出された鮮やかな赤い花。
噎せるようような甘い香りが和希を包み込む。
「遠藤君、僕からのお祝いを受け取ってくれませんか?」
「…これ…」
和希は唖然として七条を見つめた。
七条が和希に差し出したのは片腕では抱えきれない程の深紅の薔薇の花束…
愛しい恋人から誕生日プレゼントとしてもらうものだから嬉しいに決まっている。

だが…
ここは食堂だ。
しかも朝食の時間帯で学園の生徒が大勢いる。
嬉しさよりも恥ずかしい思いでいっぱいだった。
「何を考えているんですか!七条さん!!」
「おや?お気に召しませんでしたか?」
「気に入るとか気に入らないとかではなく、どうしてこんな所にそんな物を持ってくるんですか!渡すのだったら俺の部屋でいいじ
ゃないですか!」
声を荒げる和希に七条は悲しそうな顔をする。
「僕は少しでも早く遠藤君に渡したかっただけなんです。」
「そんな顔をしても騙されませんよ。」
キッと睨み付けながら言う和希に七条はいつもの笑顔をする。
「分かりました。本当の事を言いましょう。」
そう言うと和希の耳元でそっと囁いた。
「和希は人気がありますから、いつ他の誰かに取られてしまうか凄く不安なんです。ですから和希は僕のものだという事を誇示したかったんです。」
その言葉を聞いた途端、和希の顔は耳まで真っ赤になる。
「な…何馬鹿な事を言っているんですか!」
そう言った後、消え入りそうな声で、
「…俺が好きなのは七条さんだけです…」
七条はこれ以上ないくらいの幸せそうな笑顔で和希を見つめていた。
「それに…そんな心配は無用です。俺は七条さん一筋なんですから。七条さん、素敵な誕生日プレゼント、どうもありがとうございます。」
「どういたしまして。遠藤君に喜んでもらえて嬉しいです。」
七条からのプレゼントを受け取る和希の顔は幸せに満ち溢れていました。







6月20日はサイト3周年記念でした。
3周年記念小説の和希のお相手は『和希聖誕祭』で1位だった七条さんにしました。
最初は恥ずかしくて嫌がっていた和希ですが、七条さんの気持ちが嬉しくてここが食堂だという事を忘れてしまい2人きりの世界に浸ってしまいました。。
後で、この事を思い出してきっと後悔すると思います。

サイト3周年記念という事で2010年8月1日0:00までフリー配布をしていますので、よかったらお持ち帰り下さい。

サイト3周年 2010年6月20日  サイト3周年記念小説UP日 2010年6年28日