Begin To

学生会室の机の上に肘をつきながら、丹羽は中嶋と啓太を見ていた。
中嶋から言われたとおりに、コピーした書類をまとめている啓太。
時折今日の出来事を中嶋に話し、それに頷く中嶋。
恋人同士というのはこういった些細な出来事でも相手に話したり、聞いたりして貰うものだろうか?…と丹羽は思った。
「丹羽、手が止まってるぞ!」
「うわー!急に声をかけるな。」
「何を考えてた?」
「いや、別に…お前と啓太が仲が良いなぁと思って見ていたんだ。」
「お前だって遠藤とそうなったんだろう。」
「…どうだか…」
「先週告白してOKの返事を貰ったと言ってはしゃいでただろう。」
「そうだけどよう。」
丹羽は言葉を濁す。
確かに遠藤は俺と付き合うと言った。
正確には頷いただけだったが。
だが、今の状況で付き合っていると言えるのだろうか…
「不満なのか?」
「何がだ?」
「遠藤とやれなくて。」
「な…何考えてるんだ、ヒデ。まだ一週間しか経ってないんだぞ。」
「もう一週間だと俺は思うが。」
“まだ”か“もう”かどちらなんだろう。
「王様、和希は王様の事いつも想ってますから安心していいと思いますよ。」
「啓太。」
「和希、生徒会室に来れない日はいつも俺にメールを寄越すんですよ。」
「本当か?」
「はい。王様が“サボってないか?”とか“ちゃんと仕事しているか?”とか聞いてきますよ。」
「そうか。」
嬉しそうな顔をしている丹羽の側で、中嶋がククッと笑う。
「まるで問題児を心配している親からのメールだな。」
「中嶋さん、それは言っちゃダメですよ。俺だって心配症だなって思ってるんですから。」
「しかし啓太、何が言いたくてこの話を丹羽にした。」
「和希が王様の事をいつも考えているって知ってもらいたくて話したんですけど。」
「確かにそうだが、あまり良いたとえとは思えんな。」
「そうかもしれないけど…」
「いや、お前らしくて良い。」
少し膨れっ面をしている啓太の頭を中嶋はポンと叩くと膨れながらも啓太は中嶋の顔を嬉しそうに見る。
ここで二人だけの世界を作るなよ…と丹羽が思っていた時、学生会室のドアがノックされ和希が入って来た。
「失礼します。遠藤です。」
挨拶をして中に入って来た和希は丹羽を見ると微笑み
「王様遅くなってごめんなさい。」
「いや、部活はもういいのか?」
「はい、今日の分はもう終わったので。本当はもう少し早く来るつもりだったんですけど先輩に頼まれ事をされて遅くなりました。」
「構わないさ。仕事の方はどうなんだ?」
「今日はサーバー棟へ行かなくて大丈夫です。」
「そうか、ゆっくりできるんだな。」
「はい。それよりも王様、ちゃんと仕事してましたか?」
「ばっちりだぜ。なぁヒデ、啓太。」
「え…?え〜と…」
「机には向かっていたが、手はあまり動いていなかったな。」
「王様…」
「あーなんだ、遠藤が来たからそろそろ休憩にするか。」
「なら俺コーヒーを入れます。」
「いや遠藤俺が入れるからお前はここに座ってろ。」
「お手伝いしますよ、王様。」
「そうか、なら頼むか。」
「はい。」
そんな二人を啓太は嬉しそうに見ながら思った。
『王様ってばそんなに気にしなくても和希とうまくやってるじゃないですか。気がついていましたか?学生会室に入ってきた和希一番最初に“王様”って声をかけたんですよ。今までは“啓太”って俺の事呼んでいたのになぁ…』




付き合って一週間目の王様と和希です。
本人達はまだよそよそしいと思ってますが、周りから見れば十分バカップルに見えるというお話です。