「こんな時間に誰だ?」
丹羽は携帯を開いた。
『今、寮に戻りました。これから哲也の部屋に行きます』
和希からのメールを読んだ途端、丹羽は嬉しそうに微笑んだ。
今夜は仕事で外に行くので、会えないと今朝メールをもらっていたからだ。
12月に入ってから和希の仕事は忙しい。
授業には時々出席しているようだが、丹羽とは殆ど会っていない状態だった。
時計を見ると11時50分。
今夜は外泊届けを出して出掛けたと言っていたので、篠宮には怒られないだろう。
帰りの時間が遅いのはちょっと問題だけれども…
そんな事を考えていると小さなノックの音が聞こえた。
丹羽はドアを開け、和希を部屋の中に入れた。
「ただいま、哲也。」
「おかえり、和希。遅くまで仕事ご苦労さん。」
「ありがとう。哲也にそう言ってもらえると疲れが吹っ飛ぶから不思議だね。」
ふわりと微笑みながら和希は言った。
その可愛らしい笑顔に丹羽はドキッとしてしまう。
そんな丹羽の気持ちを知らない和希はパフッと丹羽に寄り掛かる。
その瞬間、和希から漂うアルコールの匂い。
「和希、今夜はそうとう飲んだのか?」
「う〜ん…どうだろう…クリスマスも近いからって普段はあまり飲まないシャンパンやワインを飲んだけど。」
「そうか。そういえば、明日はクリスマスイブだからな。」
クリスマスイブ…
その言葉を聞いた和希は悲しそうな顔をして、
「ごめんね。せっかくのクリスマスイブもクリスマスも仕事で一緒にいられなくて。」
「仕事なんだから仕方が無いだろう。」
「うん…でもさ…」
和希にしては切れの悪い言い方をした。
丹羽は和希の頭を撫でながら、
「どうしたんだ?和希の仕事が忙しいのはいつもの事だろう?俺は気にしないぜ。」
「…でも…クリスマスイブもクリスマスも一緒に過ごせないだなんて、恋人失格だと思うんだ…」
丹羽の服をギュッと掴みながら切なそうな顔をする和希を丹羽はソッと抱き締めた。
「哲也?」
「本当にお前は馬鹿だな。世の中にはクリスマスイブやクリスマスに仕事をしている人はたくさんいるんだ。その人達は皆恋人失格になるのか?」
「それは…」
「だろう?だから気にするな。俺はどんなに忙しくてもこうして和希からメールをもらったり、少しの時間でも会いに来てくれるだけで嬉しいんだからな。」
「ありがとう、哲也。」
やっといつもの笑顔を見せてくれた事で丹羽も嬉しくなる。
「今日は泊まっていけるんだろう?」
「でも…明日の朝早いから迷惑じゃない?」
「何時頃出掛けるんだ?」
「5時ちょっと過ぎにはここを出ないと間に合わないと思うんだ。」
「なら、このまま泊まっていけ。今から自分の部屋に帰ったら時間がもったいないだろう。早く風呂に入って寝た方がいい。」
「ありがとう。」
和希はそう言った後、時計を見た。
時間は12時を過ぎていた。
「クリスマスイブだね。」
「ああ、そうだな。」
「哲也と一緒にクリスマスイブを過ごす事ができて嬉しい。」
和希は背伸びをすると丹羽の首に手を回して、キスをする。
それは触れるだけのキスではなく、深いキス。
アルコールの匂いがきつかったが、丹羽も和希のキスにこたえていた。
どの位そうしてキスをしていたのだろう。
和希が丹羽を押した。
「和希?」
「…」
和希の顔は青ざめていた。
「大丈夫か?和希。」
「…気持ち悪い…」
「えっ?」
「…吐きそう…」
和希はそれだけ言うと洗面所に向かって行った。
暫く唖然としていた丹羽だが、いつまで経っても和希が洗面所から出てこないので気になって洗面所のドアを開けた。
「和希、大丈夫か?」
洗面所の床に座って和希は眠っていた。
顔色は先程よりもよくなっていた。
きっと出すものを出したせいだろう。
「こんな所で寝たら風邪を引くぞ。」
そう言いながら丹羽は和希を持ち上げるとベットまで運び、起こさないようにソッと和希を寝かせ和希の額にキスをすると、
「おやすみ、和希。いい夢を見るんだぞ。」
そう言った後、大きなため息を付いた。
実は先程のキスで丹羽自身は大きくなっていた。
だが、気持ちよさそうに寝ている和希を起こしてまでやる事はできない。
何とか収めようとしたが無理なので、目の前で可愛らしい顔をして寝ている和希をみながら1人寂しく抜いたのであった。