Commencement
コンコン。
学生会室のドアがノックされると同時に扉が開き、
「遠藤です。失礼します。」
学生会室に入った瞬間に和希は啓太の姿を見つけ、
「啓太?どうしたんだ?啓太が学生会室にいるだなんて珍しいじゃないか。」
「今日は学生会の手伝いでここにいるんだ。最近学生会の仕事が溜まって困ってるから手伝って欲しいって王様から頼まれて、この数日ずっと学生会の手伝いをしてるんだ。それより和希はどうしたんだ?今日は学校を休んだんだろう?」
「ああ。今日は始業式だけだったから仕事を優先させたんだ。でも、今日の分の仕事は終わったからここに来たんだ。」
「そうか。相変わらず忙しそうだな。」
「まあな。でも、今日はこうして啓太に会えたから嬉しいよ。」
和希は嬉しそうに啓太に向って微笑むと、啓太も笑顔でそれに答える。
傍から見る分にはとても微笑ましい風景だった。
だが…
先程から冷たい冷気を出している人物がいた。
学生会副会長の中嶋英明だ。
和希の恋人である中嶋だが、和希は中嶋よりも啓太を優先する所がある。
もちろん、恋人なのだから中嶋の方が大事なのだが、無意識に啓太を優先してしまう。
啓太も鈍い所があるので、なかなかその事に気付かない。
今回も和希は真っ先に中嶋に声をかけるはずだったのに、学生会室に啓太がいたので和希の視線は啓太にいってしまったのである。
そして、その事で1番困るのは生徒会長の丹羽だった。
今回も1人中嶋の冷気に気付いていた。
そして何とかしなくてはと、丹羽は立ち上がった。
「遠藤。啓太と話ている所を悪いが、ちょっと啓太を借りてもいいか?」
「あっ…はい。仕事中なのにごめんなさい。」
和希は慌てて答えると丹羽に謝った。
そんな和希に丹羽は、
「いや、こっちこそ悪いな。遠藤も夏休み中仕事で忙しくて啓太とゆっくりするヒマがなかったんだろう?啓太、悪いがこれを会計室に届けたいんだ。一緒に来てくれるか?」
「はい。でも、何で2人でなんですか?俺1人でも行けますけど?」
「それは…ああ…そうだ。郁ちゃんに用事があってな。ほら、行くぞ啓太。」
丹羽はそう言って啓太の腕を引っ張ると、
「ヒデ、ちょっと会計室に行って来る。」
「…サボるなよ、哲っちゃん。まだ仕事は残っているんだからな。啓太、丹羽を逃がすなよ。」
「ああ。用がすんだらすぐに戻るって。」
「あの…中嶋さん、行って来ます。それじゃ和希、また後でな。」
「気をつけて行って来いよ、啓太。」
和希は笑顔で啓太と丹羽を見送った。
2人が学生会室から出て行くと、学生会室はとたんに静かになる。
和希はゆっくりと中嶋の方を振り向くとふわりと微笑む。
「中嶋さん、お久しぶりです。」
「そうだな、1週間ぶりか。」
「はい。ちょっと仕事が忙しかったので寮にも帰らなかったし。メールも殆どしなくてごめんなさい。」
「謝る必要などないだろう?和希は自分のやるべき事をしてただけなのだから。」
「でも…俺中嶋さんに会いたかった…なのに、メールも電話もろくにできなくて…」
申し訳なさそうに和希は言いながら俯く。
そんな和希の顎を掴み、目を合わせる中嶋。
「少し痩せたか?」
「そうですか?」
「ああ。また睡眠と食事を抜いたのか?」
和希は苦笑いをしながら、
「参ったな。本当に中嶋さんには隠し事ができないんだから。」
「いつも言ってるだろう。無理だけはするなと。」
「無理なんかしてません。」
和希はそう言うと、
「だって…俺…一刻も早く中嶋さんに会いたかったから…でも…やっぱり多少無茶はしたかな?」
「全く…」
中嶋は困った顔をした。
今の和希の一言はとても嬉しかったが、素直に嬉しいとは言えない中嶋だった。
「今日は、もう仕事はないのか?」
「はい。今日の分は全て終わらせてきました。だからこれから学生会の仕事を手伝いますね。どれから片付ければいいですか?」
和希が中嶋に尋ねると、
「いや、俺ももう今日は終わりだ。」
「えっ?だってさっき王様にまだ仕事はあるって言ってませんでしたか?」
「ああ。丹羽の仕事はまだあるが俺の分はもう終わりだ。」
そう言いながら中嶋は携帯で丹羽にメールを送る。
「和希。寮に帰るぞ。」
「えっ?本当に帰って大丈夫なんですか?」
和希は少し困惑した顔をしたが、すぐに笑顔になって言った。
「嬉しいです。中嶋さんとゆっくりするのって久しぶりですよね。」
中嶋の部屋に入ると、中嶋は冷蔵庫の中からケーキを出し机の上に置くと、
「和希、もらい物だが俺は甘いものが苦手なんでかわりに食べてくれるか。」
「はい。美味しそうですね。イチゴのムースケーキかな?中嶋さんも味見しますか?」
「俺はいい。今コーヒーを入れるからそれでも食べて待ってろ。」
「それじゃ、頂きます。」
和希は一口食べると、
「さっぱりして美味しい。」
和希は美味しそうにパクパク食べる。
その様子を中嶋は嬉しそうに眺めていた。
暫くして中嶋がコーヒーを持って和希の所に来ると、和希は気持ちよさそうにベットにもたれ掛って眠っていた。
「まったく…いつも無理するなとあれだけ言ってるのに無茶をするから。」
そう言うと和希をそっと持ち上げてベットに寝かせると掛け布団をかけ、柔らかなその髪に触れる。
無理をして仕事をしてたのが解るくらい軽くなった和希の身体。
和希の幸せそうな寝顔を見ながら中嶋は囁いた。
「おかえり、和希。今夜はゆっくりと休むんだぞ。」
9月1日は始業式をいう事で始業式の話にしてみました。
普段学生をしている為、和希の夏休みは溜まっていた仕事を片付けるのに大忙しの毎日でした。
その上、普段なかなかできない出張や会食もたくさんあったと思います。
中嶋さんに会う為に頑張って仕事を片付けた和希。
でも、張り切りすぎて疲れて眠ってしまいました。
中嶋さんの側だと安心してリラックスできる和希は可愛いなと思っています。
2008年9月1日