Congratulations

この話を読まれる方へ
この話は2009年8月15日の夏コミ発行のオフ本『Congratulations』に載せる予定でした。
けれどもページ数の関係でカットをしてしまい、このまま誰の目にもふれなのはかわいそう(?)だと思い今回載せてみました。
話としてはこの話単独で楽しめると思います。




「和希、今日の放課後は忙しい?」
「何だ?また学生会の手伝いか?」
「うん。」
「まったく、啓太も人がいいからな。」
「そ…そんな事ないよ…だって王様がサボってばかりいるから中嶋さんが大変そうで…だから…」
真っ赤な顔をして答える啓太を見て和希はクスッと笑う。
「中嶋さんが大変そうか…啓太は中嶋さんが好きだからな。」
「なっ…何言ってるんだよ、和希。」
「そんな真っ赤な顔で言ったって説得力ないよ。」
「…和希…」
耳まで赤くして言う啓太がちょっと気の毒に思えてきた和希は、
「悪かったって。お詫びに今日は一緒に学生会の手伝いをするから許してくれるか?」
「本当?ならいいよ。」
ぱあ〜と明るい笑顔になった啓太に和希は微笑んでいた。

「こんにちは。伊藤に遠藤です。手伝いに来ました。」
学生会室の部屋をノックして元気よく啓太は中に入る。
中にいるのは相変わらず中嶋だけだった。
「あれ?今日も中嶋さん1人だけですか?」
「ああ。」
「俺、探しに行って来ましょうか?」
和希の申し出に中嶋は即座に答えた。
「そうだな。その方が丹羽も喜ぶだろうからな。」
「王様が喜ぶ?」
啓太が不思議そうな顔をして呟いた。
その意見に同感だと和希も思った。
別に自分が迎えに行ったって王様は嬉しくもなんともないだろうに、中嶋さんは何を考えているんだろう?
和希はそう思ったが、あえて何も聞かずに、
「それじゃ、いってきます。」
そう言って学生会室を出て行った。

「さてと…王様はどこにいるんだろう?」
和希はゆっくりと中庭を歩きながら丹羽を探していた。
天気がいいと丹羽はあちらこちらで昼寝をしている。
探すのは結構骨が折れるのだが、見つけた時は嬉しくなるのでつい頑張って探してしまう。
どうして嬉しいのかは意識してないので気付いてはいなかった。

丹羽を探して歩いていた和希は赤いネクタイをした一人の先輩に声を掛けられた。
「一年生の遠藤和希君だよね?」
「あっ、はい、そうですけど。」
「ちょっと話があるんだけどいい?」
「あの…今はちょっと…」
「すぐに済むから。」
その先輩はそう言うと歩き始めたので、仕方なく和希は後をついて行った。
すぐ側の茂みに入ると、
「遠藤君。君が好きなんだ。俺と付き合って欲しい。」
「あの…ごめんなさい…」
和希は頭を下げて断った。
「誰が付き合っている人でもいるの?」
「いいえ。そんな人はいません。」
「じゃあ、好きな人がいるんだ。」
「いません。」
「なら、フリーなんだろう?俺と付き合ってくれてもいいじゃないか?」

強引に言ってくるその先輩に和希は困った顔をした。
フリーだからって誰とでも付き合うなんて真似ができるわけがないのに、どうして分からないのだろう。
だけど、いくら後輩のフリをしていても彼は自分の学園の可愛い生徒なんだから無下にはできない。
和希は言葉を選びながら言った。
「ごめんなさい。俺…自分の能力を試したいんです。折角このベルリバティスクールに入学できたんです。特技をどこまでいかせるか試してみたいんです。」
「特技?一年生はまだ夢を持っていていいね。でもね、遠藤君が思っている程世間は甘くないんだよ?いくらこの学園に選ばれたと言っても、その特技で生きていけるには無理が多いんだ。だから、その特技で生きていこうなんて考えるのは止めた方がいいね。」

何を言ってるんだろう?
和希はそう思った。
自分の特技を磨く為にこの学園に入学した筈なのに、どうしてその夢を諦めるような事を言うのだろう?
もちろん和希だって知っている。
夢を掴めるのはほんの一握りの人だけだって。
けれども、まだ彼らは高校生なのだ。
夢を諦めるのは早い気がする。
黙り込んだ和希に、
「だからさ。俺と付き合おうよ。楽しい事をたくさん教えてあげるからさ。」
そう言って和希の腕を掴んできた。
「ちょっと…止めて下さい…」
和希が抵抗しよとしたその時、
「おい!嫌がっている奴に何をしてるんだ!」
「王様…」

丹羽が突然に現れた。
丹羽は和希の腕を掴んでいる手を払うと、
「お前二年生だな。遠藤が嫌がっているのが分からないのか?」
「王様には関係がない事でしょう。いくら王様が学生会会長だからって人の恋愛に口を挟まないで下さい。」
「恋愛?確かに両思いなら俺も口を出さねえが、どうみたって遠藤は嫌がっているじゃねえか。先輩に逆らえずに困っている後輩を見過ごす事なんてできねえからな。」
丹羽は相手を睨みながら言った。
「今日の所はこれで引き下がります。遠藤君、今日は邪魔が入ってしまったけど、また今度ゆっくりと話そうね。」
和希に向かってニッコリと微笑むとその先輩は去って行った。
ホッとする和希に丹羽は言った。
「遠藤、ああいう奴にはしっかりと断るんだぞ。」
「今、断ろうとしていました。」
「あれでか?」
呆れた顔で言う丹羽に和希はムッとして答えた。
「これから言う所だったんです。それなのに王様が来たから言い損ねたんです。」
「そうなのか?そんな風には見えなかったがな。」
「王様にどう見えようが、そうなんです。」

むきになって言う和希が可愛らしくて丹羽は思わず微笑んでしまった。
そんな丹羽に和希は頬を膨らませて言う。
「それより王様、中嶋さんが怒ってましたよ。さっさと学生会室に戻って下さい。」
「めんどくせえな。遠藤、お前を助けたんだから見逃してくれねえか?」
「ダメです。さあ、戻りますよ。」
和希はそう言うと無意識に丹羽の手を掴んで歩き出した。
前を向いて歩いていた和希は気付かなかったが、手を繋がれた丹羽の顔はほんのり赤くなっていた。





2009年8月15日の夏コミ発行のオフ本『Congratulations』に載せる予定の話でした。
和希も王様もお互いが好きだと意識していない頃の話です。
和希が告白されている所を偶々目撃してしう王様。
意識はしていませんが、イライラしている王様はかわいいと密かに思っています。
                      2009/7/30