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「啓太、昨日はいいもん見させてもろうたわ。」
「俊介?何だよ、いきなり。」
「副会長との恋人つなぎ。」
「な…見てたのか?俊介。」
顔を真っ赤にしながら啓太は答える。そんな啓太を面白そうに俊介は見ていた。
「デリバリーの途中でな。」
「デリバリーの途中によそ見なんてするなよ。」
「たまたまや。」
「もう〜俊介ったら。頼むからその事他の人に言うなよ。」
「当たり前やろ。俺まだ命惜しいわ。」
「何それ?」
「副会長に知れたら、何されるかわからへんからな。」
「酷いよ、俊介。中嶋さんそんなに酷い人じゃないよ。」
「それは啓太だけやろ。」
「そんな事ないよ、なぁ和希…って、あれ?和希どうしたの?」
考え込んでいる和希に啓太は尋ねる。
「え?いや、その…ちょっと聞いてもいいか?啓太。」
「何?」
「恋人つなぎって何?」
「なんや、遠藤知らへんのか?しゃあないな。教えてやるからよう見とき。」
そう言うと俊介は啓太と恋人つなぎをする。
「分かったか、遠藤。」
「それって、手を握るのとどう違うんだ?」
「アホやな。こう手を絡ませるのが恋人つなぎなんや。」
「ふ〜ん」
「和希って王様とまだ恋人つなぎした事ないの?」
「ああ、そういえば手も握った事もないな。」
「「え?」」
啓太と俊介は同時に叫ぶ。
「な…なんだよ、二人して。」
「だってさ、和希と王様付き合ってもう一ヶ月経つんだよ。」
「そう言われればそうだな。」
「そうだなって、それでまだ手を握った事ないの?」
「そんなに驚く事か?」
「あのなぁ遠藤、普通付き合って一ヶ月も経ってたらキスまですんでるで。」
「え…」
「その様子やとキスもまだか?」
「ど…どうでもいいだろう、そんな事。」
顔を赤くして答える和希。ハァ〜とため息をつく俊介。聞かなかった方が良かったと思った啓太。
「啓太、俺なんや王様が気の毒になってきたわ。」
「俊介、それ言っちゃまずいだろう。」
「せやけど、いくらなんでもこりゃ酷すぎやないか?王様よく我慢しとるな。それよりも遠藤お前の方や。」
俊介は和希の方へ寄る。
「お前それでええんか?王様と手握ったり、キスしたり、その先の事したいと思わへんのか?」
「何考えてるんだよ、俊介。」
「大事な事やで。」
「俺は王様と一緒にいられるだけで嬉しいし、幸せなんだ。」
そう言い切る和希に俊介はまたため息をつく。
「あのなぁ、お前いくつや遠藤。ええか、いくら王様が寛大ちゅうたって物事には限度ちゅうもんがあるんや。ええか遠藤、今度王様に会ったらキスの一つでもしてやりな。」
「何言うんだよ俊介。」
「そうだよ、俊介。無理強いは良くないよ。」
「啓太、それほんまにそう思っとるか?お前さっき呆れてたやないか?」
「そりゃ…ちょっとは驚いたけどさ。」
啓太は俊介にだけに聞こえるように小声で言った。
「相手が和希だろう。王様だってその点理解して付き合っていると思うんだ。」
「はぁ〜確かにそうやな。」
「だろう?さぁこの話はこれでおしまい!」


そんな話をした次の日
例のごとく脱走した丹羽を探す為に和希は海岸に来ていた。
「あっ、やっといた。まったくこんな所で昼寝なんかして。王様気持ち良さそうだな。起こすのもうちょっと待とうかな?」
和希は愛おしそうに丹羽の寝顔を見つめる。こうやって見るとやっぱり17歳なんだとつくづく思う。
幼さが残る丹羽の顔。この人を好きになって本当に良かったと思う。
ふと…昨日の俊介の言葉が頭の中を過ぎる。
“俺なんや王様が気の毒になってきたわ。”
本当に俊介の言う通りなんだろうか?
王様が優しい事を良いことに、俺は自分でも気づかないうちに王様に辛い思いをさせてしまったんだろうか?俺の嫌がる事はけしてしない王様。一ヶ月前の告白の返事すらしてない俺。王様が何も聞かない事をいいことに、側に居座っている自分がずるく思えてくる。王様の隣はすごく居心地が良い。このまますべてを預けたくなる…でもダメなんだ。王様の未来の為にも。“鈴菱和希”の背負う物はあまりにも大きい。このまま俺の側にいたらいつ王様に被害が及ぶかもしれない。俺を失脚させたがっている奴など数え切れない程いるんだから。それに、もう十分じゃないか…一ヶ月も王様の側にいられたんだから。これ以上望んじゃいけないんだ…
「う〜ん」
丹羽が目を覚ます。
「王様、目が醒めましたか?」
微笑む和希に、丹羽は嬉しそうに
「遠藤、お前どうしてここに?」
「中嶋さんに言われて王様を捜しに来たんですよ。それと…大切な話があるんです。」
「ん?何だ?」
丹羽は和希の顔を覗き込む。
「王様、俺まだ返事していませんでしたよね。」
「あ?何の返事だ?」
「一ヶ月まえに王様に告白された返事です。」
「ああ、あの返事か、OKなんだろう。」
当たり前の様に丹羽は言う。
そう言えたらどんなに良いか…和希は思う。でも…
「ごめんなさい、王様。俺王様の側にはいられません。」
「なっ…」
丹羽の手が和希の肩を強く掴む。そのあまりの痛さに和希は顔を歪める。
「痛…王様離して下さい。」
「嫌だ!どうしてそんな事言うんだ。お前は俺の側でいつも笑ってたじゃないか。何が気に入らない!」
「気に入らないとかじゃなくて、俺がだめなんです。」
「あ?何がだ?」
「俺は“鈴菱和希”なんです。俺の周りには俺を陥れようとする人が沢山いる。それに王様を巻き込みたくないんです。分かって下さい。」
「俺はそんな奴らに潰されはしねえよ。」
「そんなに甘い世界じゃないんです!」
「分かってる、いや本当はどれくらい分かっているか確かじゃないがある程度は分かっているつもりだ。だてにあいつの息子をやってるわけじゃねえよ。」
「王様…」
「親父はいつも遠藤の事こう言ってるぜ。“背負う物が、守る者が多いとどうしてもそれらを守ろうとして自分の事を後回しにする。でも自分が幸せにならないと周りも幸せにはならない。その事にまだ気付いてないんだよな、鈴菱の坊っちゃんは”って」
「竜也さんがそんなことを…」
和希の目から涙が零れる。
「いいんですか?俺王様の手を取って…」
「おう、いくらでも取れ。俺は自分の事は自分で守る。そして遠藤お前も守ってやる。なにしろ俺は王様だからな。」
そう言うと和希の頬に触れその涙を拭った。そして少し躊躇しながら言った。
「遠藤、返事…OKだよな?」
「はい、王様。これからよろしくお願いします。」
微笑んで言う和希が愛しくて丹羽は和希を抱きしめようとした時
「あっ!早く学生会室に行かないと中嶋さんに怒られますよ。ほら王様急いで戻りましょう。」
「あ…ああ。」
走り出した和希の手を丹羽はギュッと握る。
真っ赤になる和希を嬉しそうに丹羽は見つめながら、
「ほら、遠藤急がないとヒデがキレるぜ。行くぞ。」
「はい。」
繋いだ手を離さない様に和希は丹羽の手を強く握った。




王様と付き合い始めて一ヶ月経った6月中旬のお話です。
最初は恋人つなぎから、初めて王様と和希が手を繋ぐだけの話の予定だったのですが、そろそろ正式にお付き合いをさせた方がいいかなぁと思いこの様な話になりました。王様はかなり浮かれています。これから益々和希を甘やかす様になります。それをセーブするのは中嶋氏…貴方しかいません。