Cream

「西園寺さんて甘い物が苦手なんですよね?」
会計室で和希は西園寺の幼なじみで西園寺の片腕とも言われている七条に尋ねた。
「そうですね。郁は確かに甘い物は好きではありません。」
「やっぱり…」
和希はため息と共に呟いた。
そんな和希を七条はジッと見つめた後におもむろに言った。
「もしかして遠藤君は郁へのバレンタインのプレゼントの事で悩んでいるのですか?」
「七条さんは相変わらず鋭いですね。」
苦笑いをした和希は、
「バレンタインの日は西園寺さんの誕生日でもあるんですよね。バレンタインと誕生日2つのプレゼントを用意しようと思ったんだけれども、バレンタインの方のプレゼントが決まらないんです。バレンタインっていうとやっぱりチョコしか思いつかなくて…でも、西園寺さんはチョコなんて甘い物は苦手だろうし…何をあげれば喜んでくれるか分からなくなっちゃって。」
「そんなに困らなくても大丈夫でしょ?」
「えっ?」
「郁の好きなものなら、遠藤君が1番良く知ってるじゃないですか?」
「?」
「分かりませんか?」
「…はい…」

心底分からないという顔をした和希の耳元で七条はそっと囁いた。
「遠藤君をあげればいいんですよ。」
「なっ…七条さん…」
瞬時に顔を赤くさせる和希から七条は離れると、
「いい案だと思いますよ。でも、ただプレゼントするだけでは芸がありませんから、真っ赤なリボンでも巻きますか?」
「七条さん…」
「ああ。バレンタインですから溶かしたチョコを身体に塗って『食べて下さい』って言うのもいいですね。」
「あの…」
「でも、郁はチョコが苦手だから甘くない生クリームでもいいですね。」
「七条さん!」

突然に怒鳴った和希に七条は、
「どうしたんですか?急に大声を出して。遠藤君らしくないですよ?」
ニッコリと笑う七条に和希は苦笑いをしながら、
「今の案はどう考えても七条さん好みの話でしょう?」
「そうでしょうか?」
「そうです。西園寺さんはそういうのきっと苦手ですから。」
「きっと?」
七条はニヤッと笑うと、
「きっとと言うと、遠藤君はまだ試してみた事がないんですね?」
「なっ…試すって…そんな必要ありませんから…」
顔を真っ赤にしてシドロモドロに答える和希が可愛らしくて七条は微笑んでしまう。
これで自分よりも年上でこの学園の理事長だなんて信じられないと思いながら。
「遠藤君。安心して下さいね。今の話は僕から郁にしておきますから。」
「だから!その必要はありません!」
そこで終わった会話だったが、まさかそれが現実になるとは思わなかった和希だった。

今年の2月14日は土曜日だった。
和希は上手く仕事を切り上げて夕方には寮に戻ってきた。
1度自室に戻り、西園寺の誕生日とバレンタインのプレゼントを持った和希は西園寺の部屋に向かった。
“コンコン”
ドアをノックすると西園寺がドアを開けてくれた。
「遅くなってしまって申し訳ありません。」
「いや、お前も忙しいだろうに。無理はしていないな。」
「はい。大丈夫です。」
そう言っていつもの場所に座った和希に西園寺は紅茶を出す。
香しい香りがする紅茶を一口飲んだ後、和希は持ってきたプレゼントを西園寺に渡した。

「お誕生日おめでとうございます。西園寺さん。」
「和希…覚えていてくれてたのか。」
「当たり前じゃないですか?大好きな西園寺さんの生まれた日なんですから。」
「ありがとう、和希。」
「それと、これはバレンタインのプレゼントです。」
「バレンタイン?」
「はい。西園寺さんは甘いものが好きじゃないので、チョコはやめにしました。」
そう言った和希を西園寺は不思議そうな顔で見る。
不思議に思った和希は、
「あの…俺、何か変な事を言いましたか?」
「あっ、いや…しかし、お前からのバレンタインのプレゼントは臣から預かってきている。」
「七条さんから?」

まったく身に覚えがない和希は、
「何を預かってきたんですか?」
「これだ。」
西園寺は冷蔵庫を開けて中からボールに入った生クリームを和希に見せた。
固まる和希に先日の七条との会話が頭を過ぎる。
「…まさかと思いますが…西園寺さん、この生クリームをどうするんですか?」
「和希に塗るんだろう。」
サラッと言う西園寺。
「臣が言っていたぞ。偶には変わったプレーもしたいそうだな。」
「えっ…?」
「そう言う事は臣に相談しないで直接私に言え。」
「…いや…その…」
「和希が恥ずかしくて直接私に言えない気持ちは分かる。だが、臣から聞かされた時は悲しくなったぞ。」
「西園寺さん?」
「私は和希の恋人だ。なのに2人の問題を臣にだけ相談するのはどうかと思うぞ。」

和希は困ってしまった。
まさかこんな展開になるとは思っていなかったからだ。
「あの…西園寺さん…」
「何だ?」
「西園寺さん、そういうのに興味がないでしょう?」
「まあ、あまりないが和希の願いなら構わない。」
「…」
「和希が私の為に一生懸命準備してくれたんだろう。ありがたく使わせてもらおう。」
「…」
美しく微笑む西園寺を見ながら、和希は覚悟を決めて西園寺の手を取った。
そして心の中ではもう2度と七条には恋愛に関しての相談事はしないと決めた和希でした。




西園寺さん、お誕生日おめでとうございます。
何故か、西園寺さんより七条さんの出番が多くなってしまいました。
西園寺さん、生クリームを使うのでしょうか?
これから和希がどうなるかは皆様で楽しく想像して下さいね。

                  2009/2/16