団子は好きですか?

「何ですか、これ?」
「見て分かんねえか?」
「…お団子…ですよね?」
「そうだぜ。しかも、俺の手作り。凄いだろう。」
「…」
嬉しそうに言う丹羽の顔を見ずに、和希は目の前の机の上に置かれている団子と
花瓶に入ったススキを見つめていた。
先程仕事が終わった和希は丹羽からのメールで直接丹羽の部屋に来たのであった 。
そして部屋に入った和希は机の上に置かれた団子とススキに気がついたのだった 。
その団子は丹羽の言う通り、手作りに間違いないだろう。
大きさや形が歪な団子が皿の上にたくさんのっていた。
それこそ一口サイズの小さな団子から饅頭くらいの大きさの団子まである。
いったい何があって急に団子を作る気になったのだろう。
メールで見せたい物があるから直接部屋に来て欲しいと言っていた物ってこの団 子の事なのだろうか?
でも、どうして団子なのだろうか?
不思議そうな顔で団子を見つめている和希に丹羽は声を掛けた。
「どうしたんだ?和希。そんな不思議そうな顔をして。」
「いえ…哲也がお団子を作るだなんて珍しいなと思って、ちょっとだけ驚いてた んです。」

そう…
確かに丹羽が手作りしたと聞いた時は驚いた。
丹羽は料理をしない訳ではない。
学生会の仕事が遅くなって、食堂が閉まってしまった時などは自分で作って食べ ていた。
作るといってもインスタントラーメンとかチャーハン位だ。
後は釣りが好きなので、魚の料理は得意だ。
だが、団子…お菓子を作るとは思っていなかった。
「まあな。俺も団子なんか作る予定じゃなかったんだ。けどよう、啓太に誘われ てな。」
「啓太にですか?」
「ああ。これから皆で団子を作るので一緒にどうですか?って声をかけられてな 。」
「皆で一緒に?」
「今日は十五夜だろう。すすきと手作りの団子で月を見たら風流じゃないかって 話になって篠宮を中心として数人で作る事にしたそうだ。で、偶々料理室に啓太 が行く時に会ってな。誘われたんだ。」
「そうなんですか。大勢で作ったのなら楽しかったでしょうね。」
「騒がしかったけどな。でも、篠宮が失敗してもいいようにかなりの量の材料を 用意してくれたんで、その場でたくさん食べたんだぜ。」
「できたてのお団子かぁ…柔らかくて美味しかったんでしょうね。」
「やっぱ、できたては旨いよな。篠宮が餡やきな粉、みたらし用のタレを作って きたんでそれで食べたんだ。」
「さすが篠宮さんですね。でも、その時間帯だとまだ月は出てないんじゃないん ですか?お月見用に作ったんでしょう?」
「月見用の団子はこうして持ち帰って各自で食べる事にしたんだ。あの場で食べ たのはおやつだな。」
「だからここにもあるんですね。でも、それにしても量が多くありませんか?」

皿の上に山盛りに盛られている団子を見ながら言う和希に、
「それは皆から和希へ渡してくれって頼まれたんだ。」
「えっ?」
「最近忙しくて寮にもあまり戻ってないだろう?皆が心配してたぞ。俺が今夜は 和希は寮に帰ってくるって言ったら和希に食べてもらいたいから渡してくれって 頼まれてな。こんなにたくさんの量になったんだ。」
丹羽の話を聞いていた和希は驚いた顔をしていたが、暫くすると泣きそうな顔に なった。
「どうしたんだ?和希。」
「嬉しいんです。俺の事…気にかけてくれるなんて思っていなかったから…」
丹羽は和希の髪の毛をグシャッとしながら、
「なに馬鹿な事言ってるんだ。お前はこのベルリバティスクールの仲間だろう。 心配するのは当たり前じゃねえか。」
「…仲間…」
「そうだ。」
耐えきれずにこぼれ落ちる涙を片手で拭いながら、
「だからこの団子、大きさや形がバラバラなんですね。」
「ああ。個性が出てるだろう。」
「そうですね。この大きいのは哲也が作ったんでしょ?」
「おっ!分かるのか。やっぱり愛があると違うな。」
嬉しそうに笑う丹羽に、
「違いますよ。だって、この団子大きいし丸くないし。哲也の大雑把な性格がよ く出てるじゃないですか。」
「うっ…」
「で、このちょうどいい大きさで綺麗に丸く出来上がってるのが篠宮さんが作っ た団子ですよね。啓太のは…これかな?」
少し小さめだけれども綺麗な丸い形の団子。
啓太らしいなぁと和希は思って見ていた。
「それからこれは中嶋さんですね。」
「よく分かるな。」
「哲也の言う通り、個性が出てるからなんとなくですけど、分かりますよ。」
嬉しそうに言う和希に丹羽は感心していた。
「そろそろ団子を食おうぜ。」
「はい。それじゃ、お茶を入れてきますね。」
「団子だから日本茶を頼むぜ。」
「はい。」
丹羽からのリクエストを聞いてクスッと笑いながら和希はお湯を沸かす為に立ち 上がるのでした。




今年の十五夜は9月22日だそうです。
少し早いのですが、十五夜をテーマにした話を書いてみました。
十五夜と言えば団子…と思った私は食いしん坊ですねww
最後の方で王様が「団子だから日本茶を頼むぜ」「はい」と言う台詞を聞いて、
新婚さんみたい!!と思って1人ニヤついていました(笑)   
                    2010/9/6