Desire

「ふう〜」
仕事帰りの車の中で和希はため息を付いた。
昨日は七夕だった。
1年に1度、織姫と彦星が会える日。
世間では恋人達にとってロマンチックなデートの日だ。
七夕だから一緒にいなくてはならないわけじゃない。
けれども、折角の七夕の夜だからこそ一緒にいたいと思う。
行事ごとに一緒にいたいだなんて子供だって言われそうだけれども、やっぱり一緒にいたい。
こんなに好きなんだから…
でも、仕事は待ってはくれない。
普段学生をしているせいで、溜まっていく仕事。
仕方ないと解っていても、会いたくて切ない気分になる和希だった。
やはり今朝、啓太から聞いた話が引っかかっているかな…と和希は思った。


「プラネタリウム?」
「うん!昨日の日曜日、七条さんと一緒に見に行ってきたんだ。今、七夕の特集をやっていてそれを見に行ってきたんだ。」
「良かったな。面白かったか?」
「うん。俺彦星がアルタイルで織姫がベガなんて知らなくてさ。いろいろと勉強になったよ。」
「そうか。」
「そう言えば、昔和希と星空を沢山見たよね?田舎だったせいか綺麗だったよね。」
「ああ、そうだったな。懐かしいな。」
「俺も。そういえば和希は?中嶋さんと週末どこかに行ったの?」
「いや。中嶋さんは夏の合宿の書類で忙しかったし、俺も仕事で忙しくてこの週末は会ってないよ。」
「忙しかったんだ…なら今夜デートするの?」
「今夜は接待が入ってるから。授業も午前中だけなんだ。」
啓太は寂しそうな顔をする。
それに気付いた和希は、
「俺は七夕だからってデートする歳でもないよ。その点は中嶋さんもそうだと思う。あんまり行事に興味がない人だし。俺達はこれで上手くいってるんだから。心配するなよ、啓太。」
「う…うん…でも…寂しいね。」
啓太の悲しい顔をみて、和希は笑って答えた。
「優しいんだな、啓太は。でも、俺は大丈夫だから安心して。」
和希は微笑んでそう言った。


啓太には確かに平気だと言ったけれども…
本当は寂しい和希だった。
中嶋さんはさっぱりとしている性格だから、そんなに気にはならないんだろうけど。
俺はもっと中嶋さんと一緒にいたいと思う。
好きで付き合っているんだから、もっともっと会話もしたいし、触れ合いたい。
けれど、現実問題お互いに忙しくて時間がない。
頭では理解していても、心は納得していない。
子供じゃないんだから…何度も自分に言い聞かせたその言葉で自分を誤魔化してきた。
でも、ふとした瞬間寂しくなる。


その時、和希のプライベート用の携帯が震えた。
和希は時計を見る。
既に1時は過ぎていた。
もしかして、中嶋さん?
和希はドキドキしながら携帯を開き、メールを見る。
いつも自分が思っている事をピタリと当てて行動する中嶋さん。
まるで見ていたように今の和希の心を掴んでいる。
そんな中嶋さんの優しさが和希には心地良かった。
和希の目から一筋の涙が零れる。
それを拭い取らずに和希は窓の外を見た。
遠くに学園島の明かりが見える。
愛しい人がいるその場所に早く帰りたいと願いながら、メールの返事を打った和希でした。




中和で七夕…で思いついた話がこれって…
中嶋さんは七夕だからどうの…っていうタイプではないと思ってます。
一方和希は大のお祭り好き。
でも、仕事が忙しくて会えなくて。
中嶋さんは和希の性格を理解しているので、仕事が終わった頃を見計らってメールをくれました。
内容は何のでしょうか?
ご想像にお任せしますね。
                   2008年7月7日