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いつからだろうか?
君を意識したのは…
ふと気付くと、君の姿を探していた
門限破り、無断外泊の常習犯の君だから気になるのだと自分に言い聞かせていた
けれども季節外れの転校生が来てから君は変わった
今まで誰にも見せなかった笑顔で転校生である伊藤啓太に笑いかけていた
その笑顔が欲しいと思った
その笑顔を自分にも向けて欲しいと願った
けれどもそれは叶わない願いであった
君の笑顔は伊藤啓太専用のものだったから
そして開かれたMVP戦で伊藤啓太がペアを組んだのは西園寺だった
いつの間にか1人でいる時間が増えた君
優勝した伊藤啓太はそのまま西園寺と付き合い始めた
1人でいる君が悲しがっていないか気になっていた
だが、いつもと変わらない笑顔で伊藤啓太を見つめ西園寺にも微笑んでいた
そんな君が健気で、そして…愛しくてたまらなかった


「これでいいのかい?」
「はい、ありがとうございました。」
「いや、この棚は高いからね。せいのびして怪我でもしたら大変だよ。」
「本当に助かりました。」
「大丈夫だよ、遠藤君。」
「えっ?どうして俺の名前を知ってるんですか?」
「そりゃ、こんな可愛い子なら誰でも知ってるさ。」
「なっ…か…可愛いって…」
ウインクされ、その上可愛いと言われた和希は顔を赤くしながら背の高い青いネクタイをしている先輩をキッと睨んだ。
「先輩、俺男なんですけど。可愛いって言われても困ります。」
「ははっ。遠藤君は気が強いんだね。冗談だよ。いつも学生会を手伝っている1年生って事で結構有名なんだよ。」
「俺がですか?」
「ああ。王様はいいとして、あの副会長の中嶋さんと渡り合える後輩なんて見た事も聞いた事もないからね。」
「…そうですか…」
気まずい顔をした和希にその3年生は笑いながら、
「学生会の手伝いは大変だと思うけど、頑張るんだよ。」
そう言いながら去って行くその背に和希は頭を下げながら、
「本を取って下さってありがとうございました。」
そう言った。


本を持った和希は一旦机の上に本を置こうと場所を移動した。
机の上に本を置いた和希に篠宮は話かけた。
「遠藤。」
「し…篠宮さん…どうしてここに?」
驚いた顔をした和希に篠宮は苦笑いをしながら、
「俺がここにいては何かいけない事でもあるのか?図書館は誰が利用してもいい場所だと思うが。」
「いいえ、そう言う意味ではありません。突然だったので驚いただけです。」
「そうか。」
「はい。」
和希はさっさと本の確認をしてこの場を去ろうと考えていた。
昨夜はきちんと点呼の時間にはいたが、この3日くらい門限破りをしていたからである。
長くここにいてまた説教されては大変だと思っていた。
そう思いつつも、和希は篠宮の説教が嫌ではなかった。
真剣に自分を心配しているのが解るからである。
そう…その証拠に和希が疲れている時の説教の時間は非常に短いものだった。
篠宮は和希の顔色や体調をみながら説教をしていたからであった。


「先程の事だが…」
「はい?」
「先程本を取っていた奴とは親しいのか?」
「いいえ。初めて口を聞いた先輩でしたけど。それが何か?」
「い…いや…随分と親しそうに見えたから…」
珍しく歯切れの悪い篠宮を不思議そうな顔で見ながら、
「本当に初めて会話した先輩でしたよ。ざっくばらんな先輩だったんでそう見えたんですね。」
何でもない事のように話す和希に篠宮は、
「その…変な事を聞くが…遠藤は誰か好きな人がいるのか?」
「は?好きな人ですか?特にはいませんが。いきなりどうしてそんな事を聞くんですか?」
「いや…何となく…」
「そうですか?変な篠宮さんですね。らしくありませんよ。」


クスクスと笑いながら言う和希を篠宮は見つめながら思った。
やはりこの気持ちは恋なのだと…
遠藤が誰かと仲良くしていれば気になるし、門限破りや無断外泊をすれば落ち着かずに眠れない。
けれども、自分の気持ちを遠藤に押し付けていいのだろうか?
好きな人がいないと言った遠藤。
当然俺の事などただの先輩としてしか思っていないのだろう。
どうすればいいのだろうか?
素直にこの気持ちを言ってもいいのだろうか?
悩んでいた篠宮の目にとまったのは机の上に置いてあった英和辞書。
篠宮は辞書を取り、ページを捲るとあるページで手を止めた。
そしてそのページを開いたまま、和希に話しかけた。
「遠藤、俺はお前の気持ちを大切にしたい。」
「はぁ…」
いきなりの話の展開についていけない和希。
「あの、篠宮さん。何の話ですか?」
「俺の気持ちを無理矢理押し付けはしない。ただ、真剣に考えてもらいたいんだ。」
「篠宮さんの気持ちですか?」
和希は門限破りと無断外泊の事だと思い、困った顔をした。
そんな顔の和希を寂しそうな顔で篠宮は見つめながら、スッと辞書を和希の前に置くと指である単語を指した。
「これが俺の気持ちだ。返事は急がなくてもいい。よく考えてくれ。」
そう言って席を立って図書室を出て行く篠宮。
1人残った和希は顔を赤くしていた。


篠宮が指差した所に書いてあった単語。
それは『I LOVE YOU』だった。




篠宮さん、お誕生日おめでとうございます。
お祝いが遅れてしまいましたが、お誕生日の話を書いてみました。
和希を好きだと意識した篠宮さん。
まだ、意識はしていないけれども何となく篠宮さんが気になっている和希。
これから始まる2人の恋はどんな感じになるのでしょうか?
早く両思いになれるといいですね。
              2009/1/5