New Year's Eve

「やっと終わった!」
パソコンの電源を切って、和希は大きく伸びをした。
今日は12月31日。
仕事は12月28日に年内は終わったのだが、セキリュティシステムのチェックをする為に和希は昨日と今日の2日間、ここ理事長室に来ていた。
「さてと、まだ時間もあるし、どうしようかな。」
時計を見て、和希は呟く。
今夜は業界の集まりに顔を出さなければならないが、集まりが夜の20時からなので、まだ時間にかなり余裕がある。
「哲也、どうしてるかな…」
25日の終業式の後、自宅に帰った丹羽とはそれ以来会っていない。
センター試験までもう1ヶ月を切っているし、勉強の邪魔はしたくなかったので、メールも1回したきりだった。
今頃は机に向かって勉強をしているんだろうな…と想像しながら、寂しげに微笑む。
「会いたいよ、哲也…」
ふと、漏らした本音。
本来なら、一緒に初詣に行って、合格祈願をしたいのにそれすら仕事でできない。
恋人として一緒に年越しだってしたい。
けれど、そんな些細な願いすら叶わない現実。
「5分だけ…ううん、哲也の家を見るだけなら。それくらいの時間くらいあるよね。」
どうしても丹羽に会いたくなった和希は自分にそう言い訳して、服を正月用の正装に着替えると、コートを羽織り理事長室を後にした。


「どうしよう…」
携帯を持ったまま、さっきから和希はそこを動けないでいた。
自由になる時間は後1時間ちょっとしかない。
気持ちは焦るが、勇気は出ない。
「もう…かけちゃえ!」
そう言って携帯を鳴らすと2コールで相手が出る。
『和希?どうした?』
「うん…ごめん、今勉強中だろう?」
『まあな、でもそろそろ一休みしようと思ってた所なんだ。で、何かあったのか?』
「ううん、哲也の声が聞きたくなってかけちゃったんだ。」
『俺も聞きたかったぜ、和希の声。元気そうだな。』
「うん!これからパーティがあって、出かけるんだけどね。」
『年末年始のか?和希も大変だな。親父も毎年この時期は仕事で家にはいないからな。』
「えっ?竜也さんも仕事なの?」
『ああ、お袋も今、町内会の新年行事の手伝いで出かけてるぜ。』
「哲也今1人なんだ。」
『まあな、でも1人でも特に問題ないしな。』
「クスッ。哲也らしいね…クシュン…」
『和希?風邪引いてるのか?』
「ううん、ちょっと寒くて。」
『寒い?おい、お前今どこにいるんだ?』
「えっ…?どこって…その…」
『どこにいる!』
丹羽の凄みの聞いた声に、和希は覚悟する。
「哲也の家の側…」
『はあ〜?俺の家の側?』
「そう…」
ガラッと2階の窓が開き、丹羽が顔を出す。
「和希!そこ動くなよ!」
そう叫びながら丹羽は急いで外に出てくると、外には困った顔をした和希が寒そうに立っていた。
丹羽は和希に近付くと赤くなった頬を優しく撫でる。
「冷てえな。いつからここにいる?」
「今さっき…」
「嘘は駄目だ。」
「本当に…」
「和希!!」
丹羽に怒鳴られ、シュンとした和希はボソッと言った。
「30分くらい前から。」
俯いて答える和希の冷たい手を丹羽はそっと握りながら、
「馬鹿だな、なんでもっと早く電話をしてこなかった?」
「だって、哲也勉強で忙しいと思ったし、31日に訪ねにいくなんて失礼だと思ったんだ。」
暖かい丹羽の手によって和希の手が暖まる様に、丹羽の言葉によって和希の心も暖まっていく。
「とにかく家に入れ。話はそれからだ。」


手を繋ぎながら丹羽は和希を家入れると、2階の自分の部屋へ連れて行く。
「ここが、哲也の部屋なんだ…」
キョロキョロと部屋の様子を見る和希。
「ほら和希、コート寄越せよ。」
「あっ、うん。ありがとう。」
コートを脱いで丹羽に渡そうとした和希は自分をジッと見詰める丹羽に気付いた。
「何?」
「いや…黒のスーツなんて初めて見たからさ。」
「これからパーティだからね。正装しないといけないから、変かな?」
「いや、格好いいぜ。」
嬉しそうに言う丹羽に和希は照れくさそうに微笑む。
コートを掛けた丹羽はこたつに座ると、自分の側に座るように和希に声を掛けた。
「和希も入れよ。暖まるぜ。」
「うん…あっ、本当暖かい。俺こたつに入るの初めてなんだ。」
「そうなのか?日本の冬と言ったら“こたつ”と“みかん”だろう。ほら、和希正座なんてしないで、足は伸ばすんだぜ。」
「えっ…こう?」
「そうそう。じゃあ、みかんでも食うか?」
そう言って丹羽は和希にみかんを渡す。
みかんの皮をむいて一房口に入れる。
「このみかん、甘くて美味しい。」
「だろう?まだいっぱいあるからな。」
「ありがとう…て…哲也?」
「あー何だ?」
「何だって…その…足…」
こたつの中では丹羽の足が和希の足を絡めるので、和希の顔は真っ赤になる。
「やっ…」
「可愛い反応するな。」
「何言って…俺これから仕事なんですよ。」
「解ってるよ。後どれくらい時間残ってるんだ?」
「45分くらい。」
「十分な時間だな。」
「何が十分なんですか?…んっ…哲…也…」
「何だ?もう感じたのか?久しぶりだから早いな。」
「何馬鹿な事言ってるんですか?」
「馬鹿な事じゃないだろう?お前そんな顔して、誘ってるのか?」
「な…誘ってなんか…」
それ以上は口をふさがれて言えなかった。
久しぶりのキス。
舌を絡め合い、お互いを求め合う。
そしてこたつの中では休む事なく、丹羽の足が動き続ける。
徐々に上がってくる身体の熱と息に和希は途惑い始める。
これから仕事なのだ。
こんな火照った身体では困るし、かといって、シテしまえば体力は消耗する。
そんな和希の心を見透かす様に、
「1回イッとくか?」
「えっ…?」
「これから仕事なんだろう?したいのは山々なんだが、和希の体力を考えると無理だしな。」
「でも…それじゃ哲也が…」
「俺はいいから、時間が無いんだろう?」
途惑った瞳で和希は丹羽を見詰める。
丹羽は和希の頬を撫でながら、
「気にするな。今日俺に会いに来てくれただけで、俺は嬉しいんだ。まさか年内に和希と会えるとは思ってなかったからな。嬉しかったぜ。」
「俺こそ、会ってくれてありがとう、哲也。」


和希が帰った後、丹羽は1人悶々とした気持ちで部屋にいた。
「全く和希の奴、俺が毎日会いたいのを我慢している所に突然来て、あんな可愛い姿を見せて帰って行くんだからな。はあ〜俺も物わかりのいい振りをしたしな。仕方ないか…しかし、コレどうするんだよ。こんな状態じゃ勉強なんて出来やしないぜ。」
ため息を付いてもどうにもならない事は解っている。
仕方なしに、先程の和希の姿を思い浮かべながら、1人で処理する丹羽だった。




大晦日の話でした。
どうしても王様に会いたくなった和希が王様の家まで行くんですが、勇気が出ずにウロウロしている話です。
鈴菱の時はさっさと決断できるのに、遠藤になると、特に王様の事になると優柔不断な和希です。
そんな和希が可愛くてしょうがないと王様は思ってます。
受験生は大晦日もお正月もありません。
王様、頑張って希望の大学に合格して下さいね。

今年も1年お世話になりました。
皆様に支えられて作品を書く事ができました。
これからももよろしくお願いします。
   2007/12/31