Fever
額に冷たい感触を感じて和希は目を覚ました。
暗がりの部屋にいるのは和希の大好きな人で、
「…英…明…?」
かすれた声で呼びかければ、優しい笑顔と共に返事が返ってくる。
「大丈夫か?熱は大分引いたようだが、具合はどうだ?」
「喉が痛い…後…身体も痛くてだるい…」
「身体が痛くてだるいのは風邪のせいだろう。昨夜は39度近くまであったんだからな。」
和希はボゥ〜とした頭で考えていた。
そうだった。
昨日は仕事中いやに身体がだるくて喉が痛かったので、早めに仕事を終わらせてもらって寮に帰ったのまでは覚えている。
けれども、その後どうやって部屋に戻ってパジャマに着替えて布団に入ったのか記憶がなかった。
不思議そうな顔をする和希に中嶋は、
「昨夜寮に入るなり、和希は倒れたんだ。覚えてないだろう?」
「…倒れたの?…俺…」
「ああ。偶々ロビーに伊藤と七条がいたから、すぐに俺に連絡が入ったんだ。全く、ここまで酷くなる前に帰る事はできなかったのか?お前の秘書は何をしてたんだ?」
「石塚は悪くない。昨日だって早く帰れって石塚が言ったんで早く帰れたんだから。」
「ホォ〜。俺の前で他の男の事を惚気るのか?」
「なっ…」
和希は顔を更に赤くして文句を言おうとしたが、心配そうに自分を見つめる中嶋の視線に気付き、
「心配かけて…ごめんなさい…」
俯いてそれだけ言った。
中嶋は和希の頭をそっと撫でると、
「あまり無理をするな。俺に心配をかけるな。」
「…はい…ごめんなさい…」
そう言った後、和希はある事に気付いて慌てて言った。
「英明、こんな所にいちゃ駄目だよ。早く出て行って。」
「俺を追い出すのか?」
「だって…英明は受験生じゃないか。風邪を引いている俺の側にいて移ったら大変だから…」
「俺を誰だと思っている。」
「英明?」
「俺はそう簡単に風邪などに引かない。」
「でも…」
心配そうな顔をして和希は中嶋を見つめる。
「それよりも、お前がそんな顔をする方が気になる。」
「えっ?どんな顔?」
「不安そうな顔だ。」
「…」
和希は困った顔をした。
久しぶりに出した熱で身体の調子が悪いのは仕方がないと思っていたが、こんなにも心が不安定になるとは思わなかった。
受験生の中嶋に自分の側にいてもらうのは悪いと思いつつも、こうして側にいてくれると凄く嬉しい。
いけないと思いつつも和希は言った
「…ごめんね…英明…こんな事で煩わせて…」
「煩わしいと思った事など1度もない。それよりも早く寝ろ。また熱が上がるぞ。」
「…うん…」
そう言いながら和希は中嶋の手にそっと触れる。
今はそのぬくもりだけでいい。
安心できるから…
そう思って触れた手を中嶋はギュッと握り締めた後、ベットに腰掛け自分の膝に和希の頭をのせた。
「ひ…英明…?」
「何だ?」
「何だって…その…何で膝枕なんて…」
「フッ…」
中嶋は和希に向かって微笑むと、
「寂しくて死にそうだって顔をしている。寝るまでこうしてやるからさっさと寝ろ。」
「…英明…ありがとう…」
そう言うと和希はそっと目を閉じて眠りの世界に入っていった。
風邪を引いて寝込んでいる時に思いついた話です。
熱い額に冷たい手がのったらひんやりとして気持ちいいだろうなぁ…と思ったのがこの話の始まりでした。
風邪を引くと誰でも気が弱くなると言う事で…
ちなみに、中嶋さんは頑丈なのでこの後風邪は引きませんでした(笑)
2009/1/19