〜いい夫婦の日〜

2人でいる事が当たり前だったあの頃。
今は月1回会うのもままならない。
でも…だからこそ、その一時を大切にしたい。
例え僅かな時間でも、その時間が凄い重いって事に気が付きたい。
貴方と2人で過ごす大切な時間だから…



哲也がベルリバティスクールを卒業してから1年と8ヶ月。
哲也は大学2年生になっていた。
そして俺、遠藤和希はベルリバティスクールの3年生。
あの頃の哲也と同じ学年、同じ歳。
でも、俺は哲也ほどしかっりとした3年生にはなっていなかった。
学校はぎりぎりで卒業できるかの日数しか通えてない。
啓太との学生生活も思った程できていなかった。
僅かな時間を見つけては哲也と会ってはいるが、それも精々月1回の数時間。
1日自由な時間なんて哲也が卒業してから1日もなかった。
いい加減呆れられたかな…と密かにため息を付く毎日を送っていた。
そんなある日…


「和希様、今日の会食の予定ですが先方にご不幸があった為、別の日に変更して欲しいと先程連絡がございました。」
「そうか、仕方ないな。」
「はい。そういう事ですので、本日はこれで終わりです。」
「えっ?」
「偶には、ゆっくりなさって下さい。明日は祝日ですが、午後から研究所に来て頂ければ結構です。まだ、外泊届けは提出できる時間ですよ。」
「石塚?」
「今からでしたら、まだゆっくりとお会いできますよ。」
にこやかに石塚に言われ、和希は苦笑いする。
出来過ぎる秘書も考えのもだな…と思いながらも、
「ありがとう。」
そう言うと急いで理事長室を後にする。


明日から3連休。
急に連絡しても会えるかどうか解らないけど、思い切って電話を掛けてみる。
『和希?珍しいな、電話だなんてどうした?』
懐かしい声に心臓がドキドキする。
「うん…急に仕事がオフになって、明日の午後まで自由なんだ。」
『本当か?なら会おうぜ。今から和希のマンションに行っていいか?』
「えっ?いいけど…」
『よし!急いでバイクとばしていくから、待ってろよ。』
それだけ言うと携帯は切れた。
学園島からそう離れていない所にある高級マンションの最上階に和希の部屋はある。
寮に入る前から借りているその部屋は丹羽の卒業後、2人が会う時によく使っている。
何か夕食に食べる物でも買っていこうと寄ったスーパーで和希はふと足を止めた。
その売り場に掛かっていた紙に書かれていた言葉に和希は今日買う物を決めたのだった。


“ピンポーン”
玄関のブザーがなり、ガチャッと鍵を開けて丹羽が入ってくる。
「おっ、この匂い、カレーか?」
中からエプロン姿の和希がパタパタと走ってくる。
「お帰りなさい、哲也。」
「お…おう…久しぶりだな。」
和希のエプロン姿と“おかえりなさい”の1言に何て答えていいか解らず、丹羽は途惑ってしまう。
そんな丹羽を見て和希は頬を膨らませる。
「哲也、違うだろう。“ただいま”は?」
「えっ?」
じっと見詰める和希に少し尻込みする丹羽。
「哲也、言ってくれないの?」
寂しそうな顔をして丹羽を見詰める和希。
そんな和希に触れるだけのキスを落としながら、
「ただいま、和希。」
そう言った丹羽に、嬉しそうに微笑む和希。
丹羽の手に触れ、
「外、寒かった?手がこんなに冷たくなっている。」
「バイクだったからな、少しな。」
「夕ご飯にカレーを作ってみたんだ。食べてくれる?」
「ああ、もちろんだ。和希の作った物なら喜んで食べるぜ。」
「ありがとう、哲也。買い物に行ったら、“今日はいい夫婦の日!家庭で美味しいご飯を食べませんか?”って書いてあってさ。俺たいした物作れないけど、哲也に何か作ってあげたくなって。カレーなら作れるから作ってみたんだ。」
そこまで言った時、ガバッと丹羽は和希を抱きしめた。
「て…哲也?」
「カレーより先に和希が食べたい!」
「えっ…?」
「駄目か?」
「駄目…じゃないけど…カレー冷めちゃうよ?」
「暖め直せばいいだろう?和希が悪いんだぞ。あんまりにも可愛い事言って俺を煽るから。」
「な…何言って……んっ…」
食い入るような深い口付け。
「なっ、いいだろう?」
唇を離しながら、熱っぽく語る丹羽に、和希は答えた。
「うん…俺もカレーより哲也の方が欲しくなっちゃったよ。」




書く予定では無かった話を書いてしまいました。
今日は“いい夫婦の日”です。
だから?いえ、別に無理矢理書かされた訳じゃありませんよ。
王様卒業後のひとこまを書いてみました。
卒業して今までの様には会えなくなってしまいましたが、2人の愛は永遠です。
エプロン姿の和希、可愛いだろうな…