The Girls' Festival
「なあ、和希。」
「んっ?何だ啓太?」
もうすぐ寮に着く頃、思い出した様に啓太は和希に話掛けた。
「寮のロビーにお雛様が飾ってあるだろう?あれって何で?」
「何でって。もうじきひな祭りだろう。だから飾ったんじゃないか。」
当たり前に言う和希に、確かにそうだけど…と思いながら啓太は更に和希に聞く。
「それは解ってるよ。でもさ、ここはベルリバティスクールの男子寮だよ。男性しかいないのに、お雛様はどうかと思うんだけどな。」
「そうか?けど、食堂には女性が働いているからいいんじゃないのか?」
「食堂のおばちゃん達ね…」
何となく納得できたようで、できない啓太。
でもイベント好きの和希なんだから仕方ないのかな、なんて思って納得した。
寮に入ると、ロビーの所に岩井が立っていて、じっとお雛様を見ていた。
「こんにちは、岩井さん。どうしたんですか?こんな所でボオ〜と突っ立っていて。」
啓太の問いに、岩井は振り向き徐に言った。
「いや…何となくお雛様が気になってな…」
「あっ、岩井さんもそう思いますか?俺もそう思って和希と話てたんですよ。」
「遠藤と?」
「はい。男子寮なのにお雛様はおかしいんじゃないかって俺思ったんです。けど、和希はそうは思わないって言うんですよ。」
「俺も…おかしいとはおもわない…お雛様は日本古来の行事だし…」
「ほら、啓太。岩井さんだってそう言うじゃないか。良かった。岩井さんにそう言ってもらえて。」
嬉しそうに言う和希につられて岩井も微笑んでいた。
「そういえば…確か岩井さんのお誕生日って3月3日でしたよね。」
「えっ?そうなんですか?岩井さん。」
驚いた啓太はあわてて岩井に聞いた。
「ああ…しかしよく知ってるな、遠藤は…」
「えっ…?いや…偶々ですよ。ほら、ひな祭りと一緒なんだって思って何となく覚えていたんです。」
「そうか…」
啓太は何か思いついた様に言った。
「ねえ、岩井さん。お誕生日に何か欲しいものはありませんか?俺と和希からプレゼントさせて下さい。」
「えっ…」
「ねえ、和希。折角の誕生日なんだもん。一緒に贈り物してもいいよな?」
「ああ、もちろんだよ。岩井さんにはお世話になったしな。岩井さん、何がいいですか?遠慮せずに言って下さいね。」
啓太と和希に言われ、岩井は暫く考えていたが、ふとお雛様を見てから言った。
「それなら…絵のモデルになってくれないか?」
「えっ?モデルですか?」
「俺達2人で?」
驚く和希と啓太に向って岩井は頷いた。
「えんびつ書きでいいんだ。ひな祭りをイメージした絵を描いてみたいんだ。もちろん、描いた絵は啓太と遠藤にあげるから。どうだろうか?」
和希と啓太は顔を見合わせると、
「いいですよ。で、いつ描くんですか?」
「今…ではまずいか?」
「今ですか?俺はかまわないけど、和希は?」
「俺も平気だ。でも何かドキドキするよな。モデルだなんて。」
「俺もだよ、和希。モデル初体験だな。」
そんな2人を岩井は暖かく見ながら、
「普段のままでいいんだ。普通に2人で会話をしているだけでいいんだ。後はこっちで描くから。」
「解りました。で、どこで描くんですか?」
「俺の部屋でもいいだろうか?」
「はい。」
そして、2時間後…
「それじゃ、岩井さんありがとうございました。」
「お邪魔しました。」
和希と啓太は岩井の部屋を出ると、ため息を付いた。
2人共、その手には岩井に描いてもらった絵を持っていた。
「なあ、啓太。俺、岩井さんの絵は好きだけど、これはちょっと…」
「和希もそう思う?いい絵なんだけどね。なんでこういう構図になる訳?」
「ああ、俺もそれは思った。というより、こういう絵を描く岩井さんがいるなんて想像しがたいんだけどな…」
絵を見ながら2人は思った。
「で、啓太。どっちの絵が欲しい?俺はもうどっちでもいいから。」
「俺もどっちでもいいよ。それよりも中嶋さんに見つからない様にしないとな。」
「そうだな。俺も気をつけないとな。王様に見つかるとうるさそうだ。」
「ほお〜、何を見つからない様にするんだ?」
「隠し事はよくないぜ、和希?」
ビクッと振り向く和希と啓太。
その目線の先には学生会コンビの中嶋と丹羽がいた。
「な…中嶋さん?」
「な…なんでここにいるんですか?」
驚く2人に中嶋と丹羽は、
「ここは3年生のフロアーだ。俺達がいて当たり前だろう?」
「なんでこんな所に2人そろっているんだ?それよりもその手に持ってるものは何だ?」
丹羽に気付かれ、焦る2人。
「な…何でもないですよ、中嶋さん。」
「啓太、見せろ。」
「えっ…これは…」
「啓太!」
中嶋にきつく言われ、啓太はそっとその絵を中嶋に渡した。
「和希、お前何持ってるんだ?」
「王様には関係ないものです。」
「俺に関係ないって。随分冷たい事いうな和希は。」
「そうですか?でも本当にこれは王様には関係がないんです。」
「ふ〜ん。そうやって隠すとかえって怪しいな。なあ、和希見せろよ。」
「嫌です…って、王様取り上げないで下さいよ。」
和希の手から絵を取り上げた丹羽に向って和希は騒ぐ。
「ほお〜これは何だ、啓太?」
「和希…お前いつ啓太とこんな事してたんだよ?」
中嶋と丹羽に問い詰められて、泣きそうになる啓太と、頬を膨らませて丹羽を睨む和希。
中嶋と丹羽の持っている絵にはそれぞれ和希と啓太が描かれていた。
ただ描かれていたのなら、何の問題もなかったのだ。
しかし、その絵は啓太がお雛様の格好をし、和希がお内裏様の格好をしている。
1枚は二人で桃の花を仲良く持ってお互いを見詰めて微笑んでいる絵。
もう1枚は杯を持っている和希に酌をする啓太の絵。
こちらはほんのりと2人共頬を赤らめている。
「啓太。これは何だと聞いているんだ?」
「岩井さんに描いてもらったんです。3月3日が岩井さんのお誕生日だから何かプレゼントをしますって言ったら、絵のモデルになって欲しいって言われたんです。」
「それで?」
「和希と2人の絵が描きたいって言われて。」
「で、引き受けたのか?」
「はい。だって和希と普通に話しをしているだけでいいからって言われて。本当に和希と話をしていただけなんですよ。その間に岩井さんが描いてくれたのがその絵なんです。」
「いい性格をしているな、俺に断りもなく絵のモデルか?」
「そ…そんな〜、和希と一緒なんですよ?いいじゃないですか?」
「ほう?こんな風に顔を赤らめている絵がか?…お仕置きが必要だな。来い、啓太。」
「えっ?そんな中嶋さん…俺…本当に何もなかったんですよ?信じてくださいよ。」
「ああ。その言葉が真実かどうか、お前の身体で聞いてやるさ。」
そう言って中嶋の部屋に2人は入って行った。
一方丹羽と和希は…
「和希、お前また手芸部でこの衣装を作ったのか?」
「何でそう思うんですか?」
「だってよお。和希ならやりかねないしな。」
「失礼な事よく真顔で言えますね。いくら俺でもそこまでしませんよ。」
「なら、どうしてここにこんな絵が描いてあるんだよ?」
「知りませんよ。俺はただ岩井さんに頼まれて絵のモデルをしただけです。」
「絵のモデル?お前まさか…脱いだのか?」
「はぁ?下品な想像はやめて下さい。啓太と一緒に岩井さんの部屋で話をしていただけですよ。その間に岩井さんが描いてくれたんですよ。」
「でも何で絵のモデルなんてしたんだ?」
「もうすぐ岩井さんの誕生日なんですよ。で、お祝いに何かプレゼントをしたいって言ったら、絵のモデルをしてくれって頼まれたんです。啓太と一緒だからいいかなと思って引き受けただけですよ。王様が想像している下品な事なんて1つもありませんからね。」
膨れて答える和希に、丹羽は頭をゴシゴシかきながら答えた。
「解った。それじゃ、何もなかったんだな?」
「だから、何もありませんよ!いい加減にしないと俺怒りますよ?」
丹羽はいきなり和希を抱き締める。
慌てて暴れる和希。
「な…何するんですか?恥ずかしいから離して下さい。け…啓太に見られます…」
「啓太なんてとっくにヒデの部屋の中だ。それよりもお前…啓太の前だとこんないい顔するのか?」
「はい?」
丹羽は悔しそうに言った。
「だってよお、凄くいい表情してるじゃないかよ。」
和希は丹羽が持っている絵を見る。
啓太に酌をしてもらい、ほんのりと頬を赤らめている絵。
和希は丹羽をそっと見ると、少し寂しそうな顔をしている。
クスッと笑いながら、
「俺は哲也といる時の方がずっと嬉しそうな顔をしていますよ?気付いてないんですか?」
「えっ?」
「俺は確かに啓太が好きだけれども、その何倍も哲也の事が好きなのにな…気付いてもらえないんだ…」
寂しげに微笑む和希に丹羽は慌てて、
「和希?お前…今何て言った?啓太より何倍も俺が好きって言ったのか?」
「さあ?俺物覚え悪いんでもう忘れました。」
「和希〜」
「さてと、俺もう部屋に帰ろうかな?」
「待てよ、和希。」
丹羽は和希の腕を掴んで、
「3日に俺のお雛様になってくれないか?」
「哲也?」
「駄目か?」
和希はクスッと笑うと、
「いいですよ。お望みならお雛様の衣装着ましょうか?」
「えっ?着てくれるのか?」
目を輝かせて期待をしている丹羽に和希は、
「考えておきます。」
そう言って丹羽の唇にそっとキスをした。
3月3日、岩井卓人さん、お誕生日おめでとうございます!!!
お雛祭りと同じ日なので、岩井さんのお誕生日とお雛祭りを一緒にして書いてみました。
しかし…この岩井さんはどこの岩井さん?
岩井さんはこんな絵なんか描かないと思うけどなぁ…
お内裏様和希とお雛様啓太はとても可愛いと思います。
しかし…あの絵を見た中嶋様は啓太にどんなお仕置きをしたのでしょうか?
そして、3年生のフロアーにも関わらず、イチャイチャしているバカップルな和希と王様…
和希と王様、少しは一目を気にして下さいね!
2008/3/3