Grapes

秋は行楽シーズンって言うけれども、自分には関係ないものだった。
それは今までがそうであったようにこれからもそうだと思っていた。
けれども、啓太が七条さんと一緒にぶどう狩りに行って来たと言ってお土産のぶどうをもらった時、初めて気候の良いこの季節に外に出かけてみたいと思った和希だった。
でも、実際には和希は仕事が忙しく、中嶋は学生会と受験勉強で忙しいのでわざわざ遠出などできる筈もなかった。


啓太と七条からもらったぶどうを洗って、お皿に盛り付けた和希はテーブルの上に置くと、
「中嶋さん、王様、少し休憩にしませんか?コーヒーを入れたんで飲んで下さい。」
「おう、ありがとよ、遠藤。」
そう言って椅子から立ち上がった丹羽はテーブルの上のぶどうに気付いた。
「遠藤。このぶどうはどうしたんだ?」
「ああ、それですか?啓太が七条さんと一緒にぶどう狩りに行って来たって行ってお土産にもらったんです。たくさんあるんで俺1人じゃ食べきれないんでもってきたんです。王様も中嶋さんも食べて下さいね。」
にっこりと笑ってそう言う和希。
丹羽は1つぶどうを摘み口に入れると、
「おっ。これ甘いじゃねえか。」
「そうなんですよ。俺も昨夜少し食べたんですが、甘くて美味しいんですよ。冷やしておいたので、美味しいでしょう。」
「ああこれならいくつでも食えるな。おい、ヒデ、お前も食ってみろよ。もう凄く美味いぞ。」
「俺はいい。」
中嶋はパソコンを打ちながらそう言うと、
「和希、俺はコーヒーだけでいい。こっちに持ってきてくれ。」
「あっ、はい…」
和希は少し寂しそうな顔をしてテーブルの上のコーヒーカップを取り中嶋の所まで持っていくと、
「お待たせしました。」
そう言ってコーヒーカップを中嶋に差し出した。
「悪いな、和希。」
中嶋は微笑んでそう言うとコーヒーに口をつける。
「美味しいですか?中嶋さん。」
「ああ…」
いつもはそんな事を言わない和希なのにどうしたんだろうと不思議に思い中嶋が和希を見ると、寂しげな顔で和希は中嶋を見ていた。


中嶋はパソコンを弄るのを止めて、椅子を回転させると、
「どうした、和希。そんな顔をして。」
「いえ…」
「何でも無いわけないだろう?そんな顔をして。何があった?」
和希は中嶋から視線をずらすとボソッと言った。
「本当に何でもないんです。」
「和希。」
中嶋は和希の腕を引っ張った。
バランスを崩した和希は中嶋の膝の上に座ってしまう。
焦った和希は慌てて立とうとするが中嶋がそれを許そうとはしない。
真っ赤になった和希は慌てて抗議する。
「中嶋さん、この手を離して下さい。」
「嫌だと言ったらどうする?」
「どうするって…どうしてこんな事するんですか?王様がいるんですよ?恥ずかしいので下ろして下さい。」
「和希が本当の事を言ったら下ろしてやるさ。」
「本当の事?」
和希は首を傾げる。
何の事だか解らないようだ。


中嶋はため息をつきながら、
「さっき俺が聞いたろう?何が気に入らなくてそんな顔をするんだ?」
「あれは…」
「あれは?何だ?」
和希は恥ずかしそうに顔を俯かせながら言った。
「俺は…中嶋さんにぶどうを食べてもらいたくて持ってきたんです。なのに、中嶋さんはいらないって言うから…」
「俺に食べてもらいたかったらどうして学生会室になんて持ってくるんだ?自室にすればいいだろう?」
「だって…啓太と七条さんのお土産なんですよ?中嶋さんはもしかしたら食べないって言うと思ったんです。」
「それなら、ここでも同じだろう?」
「でも…ここなら王様もいるし。中嶋さん、王様と一緒になら食べると思ったんです…」
そう言った和希が愛しくて中嶋は丹羽に向って、
「おい、丹羽。お前さっきから食べすぎだ。」
「だってよう。これ凄く美味いんだぜ。」
「いくら美味しくてもお前のは食べすぎだ。残りは俺によこせ。」
「へっ?ヒデお前さっきいらないって言っただろう?」
「気が変わった。こっちに皿ごと持って来い。」
「へいへい。」
丹羽は呆れながらぶどうの入った皿を中嶋の所に持ってくると、
「ヒデ、俺少し食後の休憩を取ってきていいよな。」
「ああ。ただし、1時間したら必ず戻って来いよ。」
「解ったよ。」
中嶋に睨まれた丹羽はそう言うと、中嶋の膝に座って真っ赤な顔をしている和希に向って、
「遠藤、ぶどう美味しかったぜ。ごちそうさま。」
そう言うと学生会室から出て行った。


学生会室に残った和希は頬を膨らませて抗議した。
「もう英明ってば。王様にこんな所を見られて恥ずかしいじゃないですか?」
呼び方が『中嶋さん』から『英明』に代わったので中嶋は嬉しそうに笑いながら言った。
「別にいつもの事だろう?丹羽は気になんて留めてないと思うぞ。」
「だからって言って。俺は嫌ですから。」
子供みたいに怒る和希が可愛らしくて中嶋は楽しそうに和希を見つめると、
「それよりも、俺に食べてもらいたいんだろう。いつまでも拗ねていると食べてやらないぞ。」
「えっ…これ美味しいんですから食べて下さいよ。」
そう言って和希はぶどうを1つ中嶋に手渡そうとするが、
「食べて欲しければ、和希からの口移しがいいな。」
「はい?」
和希の顔がみるみる赤くなる。
「な…何…言ってるんですか?」
「俺は真面目に言っているんだが。」
「嫌ですよ、そんな恥ずかしい事。」
「そうか、なら食べないまでだ。」
「えっ…」
中嶋はニヤッと笑いながら、
「どうして欲しい。決めるのは和希だ。」
「…卑怯者…」
「んっ?何か言ったか?」
「いいえ、何も言ってません。」
和希は一呼吸するとぶどうを口に含み、中嶋に食べさせる。
中嶋の口の中にぶどうを入れて離れようとするが、中嶋がそれを許さない。
ぶどうを口に含みながら和希の口の中に舌を入れ、和希を味わう。
「…んんっ…」
和希から漏れる甘い声。
暫くしてから中嶋は和希から離れる。
そして満足そうに言った。
「確かに甘いな。」
その甘いのはぶどうなのか和希なのかどっちなのか問いたい気分の和希だったが、余計な事は言わずに黙る方を選んだ。
中嶋はそんな和希の気持ちを解っているかのように言った。
「両方とも美味かった。和希、もう1つ食べてやってもいいが、どうする?」
「うっ…」
困った顔をした和希だったが、中嶋に食べてもらいたかったので結局数回その行為を繰り返す事になるのであった。





ごめんなさい、何も言えません。
秋だから行楽シーズンなのでお出かけしたいのに忙しくて行けないって話を書く予定だったのに、どうしてこういう話になってしまったのでしょうか?
1ち聞いてももいいですか?
ぶどうって皮を取らないと美味しくないと思うんですが、中嶋さんは皮のまま食べたんですよね?
美味しかったのでしょうか?
中嶋さんに聞いてみたいと思った岬悠衣でした(笑)
                     2008年10月13日