母の日のプレゼント
「まだ、寮にいたんですか?」
寮の廊下で会った丹羽を見て和希は驚いて言った。
そんな和希に丹羽は、
「そんなに急いで帰る事じゃないだろう?」
「何言ってるんですか?哲也の事を待っていると思うので早く帰ってあげて下さい。」
「ああ、分かってはいるんだけどな。今日は親父もいるんで帰るのがどうも嫌でな。」
「もう…きっとお母さんはまだかな?って思っていますよ。ぐずぐずしてたらすぐにお昼になってしまいます。今日は実家でお昼を食べるって昨日言ってたじゃないですか。」
「分かってるって。お袋が俺の好きな料理を作って待ってるって昨夜もメールをもらったからよ。」
頭を掻きながら丹羽は言った。
今日は母の日。
丹羽は実家に帰る事にしていた。
母親に『母の日くらい家に帰って来て欲しい』と言われたらしい。
確かに丹羽はBL学園に入学して以来、殆ど家に帰っていない。
普段学生会の仕事をサボっているので、その分学園が休みの日にやらなくてはならないせいもある。
しかし、運動能力が抜群な丹羽は他校との練習試合に人手が足りなくなると手伝いにもいっているのだ。
そのせいもあり、入学してから帰った回数は両手で数える程しかなく、しかも泊まりは殆どないのであった。
「それでよう、和希に聞きたいんだけどよう…」
「何ですか?」
「母の日のプレゼントって何がいいんだ?」
「プレゼントですか?」
暫く考えた後、和希は言った。
「哲也があげたいと思うものをあげればいいと思うけど。」
「それが分からねえから聞いているんじゃないか。」
「自分の母親でしょう?好みくらい分かるんじゃないんですか?」
「無茶言うなよ。いくら母親だって、一応は女性なんだぜ。女の好みなんて俺に分かるわけないだろう。」
偉そうに言う丹羽に和希は呆れた顔をした。
「で…何が良いと思う?」
「だから、そういうのは自分で考えて下さい。親孝行したい時に親はなしって言葉を知っているでしょう?」
「ああ。でも、急になんでそんな事を言うんだ?」
「俺の留学先の尊敬している教授の口癖なんです。」
「教授の?」
「はい。その教授は学生時代に母親を亡くしたそうです。学生時代、教授は荒れていたそうです。でも、母親は気丈な人だったらしく弱音を吐かなくて…母親が亡くなった後、母親の友人に聞いて初めて知ったそうです。自分が至らなかったせいで息子がこんな風になってしまったのだと。息子を何とか更正させたいけれども、どうしたらいいのか分からないと涙を流して言っていたという事を。どんなに遅く帰っても、起きて待っていてくれた事。自宅てご飯を食べないと分かっているのに毎日欠かさず作っていてくれた事。さすがに母親に暴力は振るわなかったそうですが、暴言はたくさん吐いたそうです。そしてその母親の深い愛に気が付いた時はもう母親はいなくて…だから、俺達には後悔はするなっていつも言っていました。」
当時を思い出してしみじみと話す和希。
きっとその時の和希に何か感じるものがあったのだろう。
だから今も忘れずにその言葉を大切にしているのだろう。
でも…
丹羽は面白くなかった。
たとえ、相手が和希の恩師であっても自分以外の人の言葉を大切に思っているだなんて…
そんな風に考えていた丹羽の考えが分かったのだろうか?
和希は丹羽に向かって微笑むと、
「俺の1番大切な人は哲也です。その事、分かってますよね?」
首を傾げて上目遣いで丹羽を見つめる和希に丹羽はドキッとしてしまう。
この仕草に丹羽は弱いのである。
しかも『1番大切な人』と言われると、もう何も言えなくなってしまう。
焦って視線を彷徨わせる丹羽。
和希はクスッと笑うと、
「だから、早く家に帰ってお母さんに元気な顔を見せてあげて下さいね。」
「ああ。和希もこれから家に帰るのか?」
「俺は…」
少しだけ言葉を濁らせた後、
「母親は今日も仕事で家にはいません。」
「そうか。」
心配そうに和希を見る丹羽に和希は笑顔で言った。
「大丈夫です。今朝、電話をしてお祝いを言いましたから。それにプレゼントも今日母の手に渡るように手配しましたから。」
さすが、和希だ。抜け目がない…と丹羽は思った。
「和希はこれから仕事か?」
「急ぎのものはないので、夕方にサーバー棟に行ってチェックをするだけかな?」
「なら、一緒に俺と行こうぜ。」
「えっ?」
驚く和希を無視して丹羽はその場で電話をかける。
「お袋?俺だけど。ああ、今から寮を出る。和希も一緒だ。ああ、分かった。安全運転で帰るから心配するな。」
携帯を切った丹羽はニカッと笑うと、
「さあ、和希。一緒に帰るぞ。」
「なっ…どうして俺まで?」
「お袋も親父も和希の事を気に入っているからな。和希を連れて帰ればお袋が喜ぶだろう。これが俺からの母の日のプレゼントだ。」
「…」
「和希の分の食事も用意して待ってるって言ってたぜ。お袋を待たせるのも悪いから急ぐぞ、和希。」
そう言って和希の手を掴んで歩き出した丹羽。
「仕方ない人ですね。ああ、そうだ。途中でお花屋さんに寄って下さいね。哲也のお母さんに花を渡したいので。」
「了解。」
そう言った丹羽の手を和希はギュッと握り締めたのでした。
母の日の話を書いてみました。
でも、よくよく考えるとこの時期ってまだ王様と和希は付き合っていなかったと思うんです。
まあ、深い事は気にしないでスルーして下さると嬉しいです。
王様からお母さんへの母の日のプレゼントは和希を会わせる事です(笑)
王様のお母さんも竜也さんも和希の事がお気に入りですので…
そしてお昼ご飯は王様の好きなものではなく、和希の好きなものになっていると思ってますww
2010年5月10日