HALLOWEEN

「できた!」
和希は出来上がった服を満足そうに見て言った。
その服は黒くてふわっとした袖にミニスカート。
襟は白くて袖口とスカートの裾には真っ白なレースが付いている。
そして、その服の側には真っ白でふわふわのレースをふんだんに使ったエプロンが置いてあった。
そう…
和希が作った服はメイド服だった。
しかも2着。
もちろん着るのは啓太と和希だ。
出来た服を満足そうには見ていた和希だったが、これからこれを着るのかと思うと知らないうちにため息を付いていた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

それは数日前の事だった。 夜、和希の部屋を訪ねてきた啓太は真剣な顔をして和希に言った。
「頼む!和希!俺に服を作ってくれ?」
「えっ?」
「駄目?」
悲しそうな顔をする啓太を見て、和希は慌てて答える。
「いや、構わないよ。啓太が望むなら何着でも俺作ってやるからな。」
「それは…1着でいいよ。あっ、やっぱり2着がいい。」
「いいよ。で、どんなデザインがいいんだ?」
和希はニコッと笑いながら啓太に尋ねる。
啓太も嬉しそうに笑いながら、
「あのね、和希とお揃いの服がいいんだ。できるかな?」
「俺と…お揃い?…」
和希は暫く呆然としていたが、嬉しそうに啓太に抱きつくと、
「啓太。そんなに俺の事、好きだったのか?俺、啓太に七条さんがいたって構わないぞ。」
何を勘違いしたんだか、めいいっぱい喜んでいる親友に、
「和希何言ってるんだよ。和希には中嶋さんがいるだろう?」
「え〜、中嶋さん?そりゃ、中嶋さんは好きだけど、俺啓太の方が好きだ。」
「…頼むから、それ中嶋さんの前で言わないでくれよ。俺まだ死にたくないからな。」
「大丈夫だって。中嶋さんって結構怖いけど、本当は凄く優しいんだよ。そんな事気にも留めないから。」
「…」


それは相手が和希だからだろう…と啓太は思った。
相手が和希だから中嶋さんは優しくなれる。
それは俺だって王様だって呆れるくらい和希に対して中嶋さんは優しい。
けれども、和希はそれに気付いていない。
自分だけが特別だって解ってないんだ。
だから今のような事を平気で言う。


「で、どんな服がいいんだ?啓太?」
「うん。メイド服を作って欲しいんだ。」
「メイド…服…?」
「うん。」
和希は暫く黙った後、おもむろに言った。
「啓太。お前ってそっちの趣味があったのか?」
「えっ?」
啓太を見る和希の目が悲しい色をしていた。
啓太は慌てて否定する。
「ち…違うよ、和希。変な誤解しないで。」
「だって、お前今メイド服って確かに言ったよな。」
「そりゃ、言ったけど…別に普段は着ないよ。ハロウィンに着たいんだ。」
「ハロウィンに?」
「うん。」
「仮装か?」


和希は納得したように言った。
そんな和希の様子を見て啓太はホッとした。
確かに作ってくれって頼んだけど、さすがに女装の趣味はないと啓太は思っていた。
「七条さんがさ。ハロウィンにみて見たいって言うんだ。折角着るんなら和希に作ってもらった服がいいと思ったんだ。和希ってセンスいいもんな。」
和希は顔を少し赤く染める。
「啓太。褒めたって何にも出ないぞ。まあ、そういう理由なら俺が啓太に似合いそうなメイド服を作ってやるよ。でも、どうしてそこに俺の分もでてくるんだ?」
「折角だから和希も一緒に着てハロウィンを楽しもうと思ったんだ。」
「いや…俺はいいよ。どうせ似合わないし…」
「何言ってるんだよ。絶対中嶋さん喜ぶよ。」
「中嶋さんが…」
和希がピクッと反応する。
啓太はもう一押しだと思った。
「俺、中嶋さんの喜ぶ顔が見てみたいなぁ。ねえ、和希いいでしょ?」
「う…ん。解った。」

     ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

そして迎えたハロウィン当日。
学生会室の側の空き教室で和希にメイド服を着せた啓太は、学生会室に向う事にした。
和希がはずかしがるので最初に学生会室に和希を連れて行ってから啓太は1人で会計室に行こうと思っていた。
浮かれている啓太に真っ赤な顔をして俯き加減に歩く和希。
「啓太、俺本当におかしくない?」
「もう、さっきから何度も言ってるだろう?大丈夫だって。可愛いから。」
「そうかな?中嶋さんが呆れたらどうしよう?」
「大丈夫だって。自信を持っていいから。」
啓太に何度もそう言われても不安が隠せない和希。
そんな和希を啓太は可愛いと思ってしまう。
こんな和希を独り占めにしてずるいなぁとほんの少しだけ啓太は思ってしまう。
あの夏の日には俺だけのかず兄だったのに、今は違う。
啓太を大事にはしてくれているが、和希の1番大切な人は中嶋さんだ。
もちろん啓太にとっても1番大切なのは七条さんだ。
それは解っていてもやっぱり寂しいと思ってしまう。


学生会室に着くと啓太はノックをしてから元気に中に入った。
「伊藤です。中嶋さんいますか?」
学生会室の中には中嶋1人だけがいた。
「何だ?伊藤。騒がしいぞ。」
パソコンの手を止めずに中嶋は言う。
「ごめんなさい。えっと今日は中嶋さんにお届けものをしに来たんです。」
「届けもの?」
中嶋は手を止め、啓太の方を見た。
「はい。いつも中嶋さんにはお世話になっているので。今日はハロウィンなので、可愛いメイドさんを連れてきました。今日1日限りですが、中嶋さん専属のメイドなんで可愛がってあげて下さいね。」
怪訝そうな顔をする中嶋を無視して啓太は和希を学生会室に入れる。


黒いメイド服に真っ白なエプロン。
そして白いハイソックスに黒のエナメルの靴。
真っ赤になりながら俯いている和希に啓太は言った。
「ほら、和希。」
啓太に言われ、和希は顔を上げると中嶋に向って先程練習した台詞を言った。
「ご主人様、今日1日よろしくお願いします。」
驚いた顔をした中嶋だが、すぐにニヤッと笑う。
そんな中嶋に啓太は、
「それじゃ、俺はこれで。」
「ああ。いいものを届けてくれたな。礼を言う。」
「構いませんよ。それよりも明日ちゃんと和希を学校に来させて下さいよ。」
「さあな。それは保障できないな。」
「もう…。じゃ、和希頑張ってね。それじゃ、失礼します。」


啓太が学生会室から出て行くと、中嶋は和希の側に近づいて行った。
はずかしそうに顔を俯かせる和希。
そんな和希の顎を取って、中嶋は和希の顔を上げさせた。
「珍しいな、お前がそんな服を着るだなんて。」
「だって、啓太が…」
「伊藤が?何を言ったんだ?」
「ハロウィンだから、お揃いの仮装をしようって。まさかこの服で中嶋さんに会うつもりはなかったんだ…」
「ほう?俺に見せずに誰にその姿を見せる予定だったんだ?」
「えっ…?」
「伊藤と一緒に会計の犬にでも見せる予定だったのか?」
中嶋の目が冷たく光る。
和希は困った顔をしながら、
「そんな事はしません。こんな姿…中嶋さんしか見せません。」
その答えを聞いて中嶋は嬉しそうに微笑む。
「ならいい。」


それから中嶋は和希を横抱きにして学生会室を出た。
まだ、校内には生徒が残っていて中嶋と和希を驚いて見つめていた。
慌てる和希。
「な…中嶋さん…下ろして下さい。」
「駄目だ。」
「駄目って…はずかしいから止めて下さい。」
「今日は1日俺の言う事を聞くんだろう?和希は。」
「どうしてそうなるんですか?」
「和希は今日1日、俺専属のメイドなんだろう?ご主人様の命令は絶対だからな。」
「そんな…」
情けない顔をする和希の唇にそっとキスを落としながら、中嶋は嬉しそうに笑い、
「さあ、寮に帰るぞ。寮に帰ったら俺のメイドとして色々としてもらう事がたくさんあるからな。」
「え〜と…中嶋さん?」
「ご主人様だろう?」
和希は諦めた顔をして言った。
「はい、ご主人様。仰せの通りにしますから、お手わらかに頼みますね。」
「さあな。それは和希しだいだ。」
そう言って微笑む中嶋に和希はため息をつきながら、でも最高の笑顔で笑っていた。





やっぱりハロウィンの仮装はメイド服ですね。
去年に引き続き、和希にはメイド服を着てもらいました。
これから寮の中嶋さんの部屋に行った和希がどうなるかは皆様で楽しく想像して下さいね。
皆様にも楽しいハロウィンが訪れる事を願ってます。 
             2008年10月27日