花言葉

「遅くなってごめんなさい。」
「いや、俺も用事があったのでこの時間でよかったんだ。気にするな。」
「そう言ってもらえると助かります。」
中嶋に向かってニコッと笑いながら和希は言った。
大学受験も終わり時間ができたかに思えた中嶋だったが、丹羽がやり残した学生会の書類の整理で毎日学園に通う日々を過ごしている。
和希も新入生の準備はほぼ終わったが、今度は卒業生の為の準備で忙しい日々を過ごしていたが、何とか半日の休みが取れたので久しぶりに中嶋と学園の外に出かけたのだった。

遅めのランチをカフェで食べた後、和希は中嶋をある神社に連れて来た。
そこの庭園を見た中嶋は顔を綻ばせた。
「ろうばいか。」
「はい。寒い季節に可憐に咲く花ですし、香りがとてもいいので好きな花の1つなんです。」
「この花の英名を知っているか?」
「いいえ。英明は知っているんですか?」
「ああ。ウインター・スゥイートだ。」
「ウインター・スゥイートですか?いい香りがするからその名がついたのかな。」
「そうだな。」
「香りもいいですけど、半透明で蝋細工のような花びらも素敵ですよね。」

和希はろうばいの側に行きその香りと姿を楽しんでいた。
そんな和希に、
「この花は和希のようだな。」
「えっ?」
「花言葉を知っているか。『慈愛』『優しい心』だ。お前はこの花言葉のように俺を優しく包み込んでくれるからな。」
「英明…」
顔をほんのりと赤らめた和希は、
「ろうばいの花言葉は他にもあるんですよ。『先導』という意味です。中嶋さんは俺にとっての『先導』です。」
「俺は和希に『先導』しているつもりはない。」
「そうですか?いつも俺の前に立って俺が間違った道に進まないようにしてくれてるじゃないですか。」
「この程度でそう言われては先が思いやられるな。」
「どういう意味ですか?」

不思議そうな顔をする和希に、
「俺はまだまだ未熟だ。今にもっと知識と力をつけて和希をしっかり『先導』してやる。今はまだその時期じゃない。」
「貴方は…」
和希はふわりと微笑むと、
「常に上を目指しているんですね。俺も負けないようにしないとな。置いて行かれたら大変だから。」
「俺が和希を置いて行くわけないだろう。引っぱたいてでも一緒に連れて行くさ。」
「英明に叩かれるのは痛そうだから、頑張りますよ。」
「そうか。そうしてもらえると助かる。」
嬉しそうに笑った中嶋は和希の腰にそっと手を回すと優しい口付けを落とす。
誰もいない庭園でろうばいの花だけがそんな2人姿を見ていた。




お花屋さんにろうばいがあったので思いついた話です。
地味な花ですが、私は好きな花の1つです。
忙しい日々の中、綺麗な花を見ていると心が癒されます。
                   2010年2月22日