Happiness




「誕生日プレゼント?」
「うん。来週の金曜日は成瀬さんの誕生日だろう。」
楽しそうに話す啓太を和希は呆れた顔をして見つめていた。
よりにもよって天敵と言っても構わない相手の誕生日をどうして俺が祝わなければならないんだ?
第一啓太だってあれだけしつこく付きまとわれているのに、よく平気だよな。
まったく恋人の篠宮さんは優しいというか、おおらかというか…
成瀬さんの啓太への過激なスキンシップをよく許せるよな。
俺なら絶対許せないけどなぁ…


和希がそう思っていると、
「和希、聞いてる?」
啓太が和希の顔を覗き込みながら言った。
そのあまりに可愛い顔に和希は思わず見とれてしまう。
「和希?」
「ああ…ごめん、啓太。で何?」
「もう…和希、疲れてる?成瀬さんの誕生日プレゼントなんだけど、この間七条さんに美味しいチーズケーキのお店を教えてもらったんだ。」
「チーズケーキか。うん、いいんじゃないのか。」
「よかった。通販出来るから11日に届くようにしてもらって、誕生日の朝に渡そう。」
「解った。12日は朝寮にいるようにするから。」
和希はニコッと笑いながら、頭の中でスケジュールの確認をしていた。


そして12日の朝…
和希はあくびをしながら啓太の部屋の扉をノックしていた。
「おはよう、啓太。」
「おはよう、和希…って、和希、大丈夫?」
和希の顔を見て啓太は驚いた顔をした後、すぐに心配そうな顔をした。
「えっ?もしかして寝不足顔してるか?」
「うん、目の下にくまが出来てるぞ。もしかして今日の為に無理した?」
「う〜ん…確かに少し寝不足だけど、今日の為じゃないからな。単位が心配な科目があったからちょっとだけ無理したかな?」
「大丈夫か?」
「ああ。心配かけてごめんな、啓太。さぁ、早く成瀬さんに誕生日プレゼントを渡しに行こう。成瀬さん、人気あって忙しいそうだからな。」
「うん。」
啓太は心配そうに和希を見ながら歩き出した。


“コンコン”
啓太が成瀬の部屋をノックすると、すぐにドアが開いた。
「ハニー!朝から僕の部屋を訪ねてくれるなんて、今朝はなんて素晴らしい朝なんだ!嬉しいよ、ハニー!」
「なっ…成瀬さん、何するんですか?第一俺はハニーじゃありません。抱きつく相手を間違えてますよ。」
成瀬に抱きつかれた和希は暴れて抵抗する。
成瀬は名残惜しそうに和希を離すと、
「あれ?抱き心地が違うと思ったら、お友達君かぁ。それじゃ、新ためて…ハニー!おはよう!」
成瀬が抱きついたのは、また和希だった。
なぜなら和希が啓太をかばって啓太の前に立ったからだ。


「なっ…成瀬さん、いい加減にして下さい!」
真っ赤な顔をして怒鳴る和希。
困った顔をして2人を見る啓太。
和希を抱きしめながら嬉しそうな顔をする成瀬。
そう…
実は成瀬の本命は和希。
成瀬は啓太を追いかけているうちにキャンキャン言う和希に惚れてしまったのだ。
けれども、今さらどう接すればいいのか迷っていた。
そんな頃だった。
啓太から篠宮と付き合うと言われたのは。
もちろん、心からおめでとうと言えた。
そんな成瀬に啓太は笑って言った。


「今度は成瀬さんが幸せになる番ですね。」
「啓太?」
「成瀬さん、本当は俺じゃなくて和希の事が好きなんでしょう?」
ニコッと笑いながら言う啓太に成瀬は驚いて、
「知ってたのかい?」
「はい。というか成瀬さん、俺に構いながら目は和希を追っているんだからバレバレですよ。」
「ははっ…バレバレかぁ…」
「はい。あっ、でも和希は気付いていませんよ。意外と鈍いですからね。」
「そうなんだよね。いつ気付くか待ってるんだけどな。」
「はっきり言わないといつまでたても和希は気付かないかもしれませんよ?」
「うん…でも、もうちょっとだけ今の状態を楽しみたいんだ。だって子犬みたい
にキャンキャン言う遠藤って可愛いんだ。」
「まったく…和希に誤解されたままでも知りませんよ。」
「いざというときは啓太が助けてくれるだろう?頼りにしているからね、啓太。」
成瀬にウィンクされて、啓太は苦笑いをした。


まだ和希に気持ちを打ち明ける気がないらしい成瀬を見ながら、啓太は目の前で楽しそうにしている成瀬と文句を言っている和希を見て思っていた。
あーあ…
和希も凄い人に惚れられたよね…
このまま成瀬さんに落とされるのか、逃げきるのか、どっちなんだろうね?
どっちでも俺は和希の親友だから、和希の気持ちを大事にするからね。
「和希、時間がなくなっちゃうよ?早く渡して朝ご飯を食べに行こう。」
和希に向かって啓太はそう声をかけた。




成瀬さん、お誕生日おめでとうございます!
これから啓太と和希から誕生日プレゼントをもらって大喜びをするのでしょうね。
遅くなってしまいましたが、素敵な誕生日を過ごして下さい。
2008年12月15日

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