Hasten

ドタキャンなんてしょっちゅうある。
楽しく会っている途中で呼び戻される事だってある。
学生と理事長職をやっているのだから仕方が無いと半分は諦めている。
けれども…
時々どうしても我慢できない時があるんだ…


胸のポケットに入れている携帯が揺れた。
和希は一瞬だけ嫌そうな顔をして、
「すみません。」
と、隣にいる中嶋に言うと携帯を取り会話をし始めた。
短い通話だったが、和希の落胆した様子は十分に伺えた。
携帯を閉じると申し訳なさそうな顔をして和希は中嶋を見た。


「どうした?そんな顔をして。」
「だって…」
「仕事なんだろう?」
「…うん…」
「なら、早く行け。」
「…」
「和希?」
「…行きたくない…」
「どうした?お前がそんな事を言うなんて珍しいな。」
「…だって…」


歯切れの悪い和希の頭を中嶋はポンッと叩く。
「何があった?仕事の電話が来ればいつも必ずすぐにサーバー棟に行くのに。今日に限って何を拗ねているんだ。」
「…久しぶり…だから…」
「うん?」
「英明と一緒にいるのが久しぶりだから、離れたくないんだ。」
和希の告白に唖然とする中嶋。
こいつはどこまで俺にお前を惚れさせれば済むんだ?
中嶋は心の中で思った。
と、同時に愛しさが込み上げてくる。
和希とゆっくり会うのは中嶋だって2週間ぶりだった。
けれども、忙しい和希だから仕方ないと思っていた。
自分だって学生会の仕事で忙しいのだ。
お互いに忙しいのだから、時間が取れるまで会えないのはよくある事だった。


中嶋は和希の腰を引き、顎に手をかけてキスをした。
触れるだけのキスを数回した後、舌を差し込んで存分に和希を味わった。
唇を離すと潤んだ瞳の和希と目が合った。
中嶋はニヤッと笑うと、
「この続きは仕事をきちんとこなしてきたらしてやる。」
「えっ…?」
「だから、さっさと終わらせて来い。終わったら俺の部屋に来い。俺はどこへも行かずにそこで待っている。」
「英明…」
和希は嬉しそうに微笑むと、
「うん!解った!頑張って仕事をさっさと終わらせてきて、英明の部屋へ行くから待っててね。あっ、でも夕食はちゃんと食堂で食べてね。
俺多分その時間には帰れないと思うから。」
「ああ。解った。」
そう言った中嶋の頬に和希はそっとキスをすると、
「いってきます、英明。」
「ああ。慌ててその辺りで転ぶなよ。」
「酷い!俺そんなドジじゃありませんよ?」
頬を膨らまして答える和希に中嶋は笑いを堪えながら、
「ほら、早く行って来い。秘書から催促の電話がくるぞ。」
「あっ、はい。」
和希は中嶋にふわりと微笑んでからサーバー棟に向って走り出した。




久しぶりにゆっくりと過ごそうと思った時にかかってきた仕事の電話。
和希だってたまには行きたくないと駄々をこねる事があるんです。
でも、そこは中嶋さん。
和希の扱いにはなれているので、和希をその気にさせて送り出します。
さすがです!!中嶋さん!!
きっと、和希は頑張って何時も以上の速さで仕事を片付けて中嶋さんの元に帰ってくるのでしょうね。
                   2008年9月22日