二十歳の告白

まだ3年も経っていないあの春の日…
ベルリバティスクールの入学式の日
3年になった俺は、桜の木の下に佇む1人の少年に気付いた。
舞い散る桜の花びらの中に立つ緑のネクタイを締めたその少年の消え入りそうな美しい横顔に、俺は一瞬息をするのも忘れる程見とれていた。
こちらに気付いた少年は、フッと微笑んだ。
その美しい微笑みはまるで花の…そう桜の花の精の様だった。
それが…俺、中嶋英明と遠藤和希の出会いだった。


「和希様、来客ですがいかがなさいますか?」
「来客?今日は約束はなかったはずだが?」
「はい、お約束ではないのですが…」
「何だ?はっきりしないなんて石塚らしくないぞ。」
「はい。今日は成人式だったので、お世話になった和希様にご挨拶したいと見えられたのですが。」
「成人式?ああ、そういえば、今日は成人の日か。そうか。成人式だったら2年前の卒業生か。」
和希は2年前を思い出す。
自分が1年として在籍していた頃の3年生…王様、篠宮さん、岩井さん、そして中嶋さん。
でも自分の正体を知っている人物となると、王様と中嶋さんだけだ。
中嶋さん?…まさかありえないな、となると王様?
「で、その元生徒の名前は?」
「中嶋英明です。」
「えっ…?」
持っていたペンが手から滑り落ち、机の上を転がる。
「和希様?いかがなされましたか?」
「あっ…いや…中嶋英明って…元学生会副会長だった彼か?」
「はい。お忙しい様でしたら、お断りしますが、どうなさいますか?」
「いや…折角会いに来てくれたんだ。ここで会うから連れて来てくれ。」
「かしこまりました。」
そう言って出て行ったドアをジッと見て、和希は懐かしさに胸を躍らす。
2年前の卒業と同時にもう2度と会う事のないと思っていた和希の想い人。
卒業と同時に忘れられると思ったのに、忘れる事はできなかった。
校舎や寮のあちらこちらに中嶋さんとの思い出が有りすぎて忘れる事などできる筈がなかった。
付き合っていた訳ではなかった。
啓太と共に時々学生会の仕事を手伝っていただけだった。
中嶋さんにとって俺は便利がいいただの後輩だったはずだった。
その中嶋さんがどうして急にここに来るんだろう?


“コンコン”
ドアがノックされる。
「どうぞ。」
ガチャッとドアが開き、中嶋が入って来た。
まだ卒業してから2年も経ってないのに、あの頃より更に大人になっていた。
「お久しぶりです、中嶋さん。成人の日、おめでとうございます。」
「ありがとう、遠藤、いや、鈴菱理事長。」
「こちらこそ。今日は会いに来てくれて嬉しかったですよ。」
「フッ…相変わらず変わらないなお前は。今は遠藤か理事長かどっちだ?」
そんな質問に和希は笑って答える。
「そうですね。本来ならここは理事長室なので理事長なんでしょうが、俺は貴方の前では後輩の遠藤和希でいたいので、遠藤だと思って下さいね。」
「そうか…俺はどっちのお前でもかまわないがな。」
「あの…今日はどういったご用件でここに?」
「秘書から聞いてないのか?」
「成人式だったので挨拶に来たと聞きました。」
「その通りだ。」
そう言うと中嶋は和希のすぐ側まで来る。
「俺も大人の仲間入りだ。社会的地位はまだないがな。」
「はあ?」
何が言いたいのか良く理解できない和希。
「2年前の俺は言いたくても言えなかった、遠藤お前が好きだと。」
「はい?」
和希は首を傾げてから、今中嶋が言った言葉を頭の中で整理仕始めた。
そしてようやく理解した和希は恐る恐る聞き返す。
「あの…中嶋さん…聞き返す様で申し訳ないのですが、今俺の事、好きだって言ったんですか?」
「そうだ。」
「そうだって…そんなそぶり1度だって見せてくれなかったじゃないですか?」
「お前ごときに見破れる程俺は馬鹿じゃない。」
「馬鹿じゃないって…どうして…いつから…」
途惑う和希を見て、中嶋は優しく微笑む。
「入学式の日、桜の木の下で会ったお前に一目惚れした。それからお前の事を調べるうちに、MVP戦があって、お前が理事長だと解った。解った時俺はこの想いを封印した。」
「どうして?」
「学生の俺ではお前に相応しとは思わなかったからな。その点では今も同じだが、もう俺も成人だ。告白ぐらいはしてもいいと思ってな。」
「…俺の事…好き…なんですか…?」
「今そう言った筈だが聞いてなかったのか?」
「でも…俺…男ですよ…」
「知っている。」
「貴方…よりも…年上…なんですよ…」
「知っている。」
「俺…嘘つき…です…理事長だって事…黙ってたんですよ…周りを欺いて…学生をしてたんですよ…」
「知っている。」
「…それでも…」
「それでも、何だ?」
「それでも…こんな俺でも好きだって言ってくれるんですか?」
中嶋は和希に近付くとそっと抱きしめる。
中嶋の胸に顔を埋めた和希の目からは堪えきれなかった涙が溢れ出す。
「愛している、和希。あの桜の木の下で初めて会って以来、1日だってお前の事を忘れた日はなかった。」
「中嶋さん…俺…貴方の手を取っていいんですか?貴方の隣を一緒に歩いてもいいんですか?」
「ああ…ずっと俺の側にいるがいい、和希。」
「はい、中嶋さん…」
夕日が差し込む理事長室で初めての口付けを交わす二人だった。




書きたかった中和をとうとう書いてしまいました。
え〜と、ここの中嶋さんは非常に和希には優しいのでご了承下さい。
お互いに好きだったのに想いを告げないまま別れてしまった二人ですが、2年後突然中嶋さんがやって来て告白します。
諦めなくてはならない…と自分に言い聞かせていた和希は動揺しますが、素直にその想いを受け取ります。
成人の日なので、それに絡ませて書いてみました。
今日成人の日の方、おめでとうございます。     2008/1/14