姫始め
「2日の晩は私の為に時間を空けてもらえませんか?」
秘書であり、和希の恋人である石塚からそう言われたのは去年の暮れだった。
年末年始が忙しいのは石塚だって解っている。
なにしろ和希のスケジュールを管理しているのは石塚なのだ。
その石塚からのお願いを和希が断わるわけはなく、
「解った。空けておくからスケジュールの調整を頼む。」
そう笑顔で答えた和希だった。
そして2日の晩…
いつもより早く接待であるパーテイーを後にした和希と石塚は石塚のマンションに来ていた。
「ここに来るのも久しぶりだな。」
「そうですね。最後に来たのは十一月でしたからね。」
「もうそんなに経ったのか…十二月は仕事が忙しかったからあまり気にはしなかったけど。」
そういいながら和希は石塚に進められるまま、リビングのソファーに座った。
「今、軽く食べられるものを持ってきますので待ってて下さいね。」
そう言ってキッチンに行った石塚に和希は声をかける。
「裕輔、また何か作ってくれたの?」
「お正月ですからね。簡単ですがおせち料理を作ってみました。」
「裕輔は本当に器用だよな。」
和希は感心して言った。
石塚は料理がとても上手い。
主に作るのは家庭料理だ。
和希は普通の家庭料理を食べた事がないので、石塚の作る料理をとても楽しみにしていた。
「お待たせしました。」
石塚が持ってきたのは、重箱に入ったおせち料理とお雑煮だった。
「わー!美味しそう!どれから食べようかな…」
和希は嬉しそうにおせち料理を見つめながらどれを食べようかと悩んでいた。
そんな和希を石塚はクスクスと笑いながら、
「たくさんありますから遠慮なく食べて下さいね。」
「うん!やっぱり伊達巻から食べよう。」
一口口の中に入れるとほわっとした甘さが広がる。
「美味しい。」
石塚に向って笑いながら言う和希。
「お雑煮のお餅は丸いんだ。」
「ええ。紅白にしてみたんですがどうですか?」
「美味しいよ。お餅の大きさも一口サイズでちょうどいいし、出汁もきいてホント美味しい。」
嬉しそうにパクパクと食べる和希を石塚は嬉しそうに見つめながら、一緒に食べていた。
「もうお腹いっぱいで食べられないよ。」
「随分と食べましたからね。」
和希にお茶を出しながら石塚は言った。
「だって、美味しかったんだもの。」
「たくさん食べて構わないんですよ。でも、今度は私もお腹いっぱいに食べたいのですが、構いませんか?」
「えっ?裕輔も今一緒に食べただろう?」
「ええ、おせち料理はね。でも、まだ、貴方を食べさせてもらってませんから。」
「…裕輔…」
和希は顔を赤くしながら俯いた。
「今日は一月二日。姫始めです。貴方を頂いて構いませんよね、和希。」
和希の顎を掴み、触れるだけのキスをする石塚。
「お返事は頂けないのですか?」
「馬鹿…返事なんて聞かなくても俺の気持ち位解るだろう?」
「フッ…それでは遠慮なく…」
石塚はそう言うと和希をその場に押し倒してキスの続きを始めた。
「…う…ん…裕輔…好…き…」
「私もです。愛してます、和希。」
2009年1月11日『COMIC CITY 大阪 71』で無料配布したペーパーの小説です。
半年くらい経ってから載せようと思っていたのですが、諸事情により今回サイトにUPしました。
和希を甘やかす石塚さんは大好きです。
仕事だけでなく、家事も完璧にこなす石塚さんは大好きです。
そんな石塚さんに惚れ込んでいる和希が可愛くて書いていて凄く楽しかったです。
2009/3/15
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