Hold out!
「はぁ〜」
和希は校舎の屋上でため息を付いていた。
学校も今週までで、来週からは夏休みだ。
遠藤和希として初めて迎える夏休み。
他の学生のように楽しい事がいっぱい…
そんな事はあるわけない。
学生生活を優先していたツケを払わなくてはならない夏休み。
石塚から聞いた夏のスケジュールは出張だらけだった。
出張の合間に本社出勤。
朝早くから夜遅くまで仕事が詰まっていた。
これでは寮に戻る時間が勿体ないと思ってしまう。
いっそうの事、理事長室の仮眠室で寝起きしようかと真剣に考えた和希だった。
いや…
少なくとも、恋人である中嶋が寮にいない間はそうしようかと考えていた。
中嶋だって夏休みは自宅に帰るだろうと思っていたからだ。
だが、先日聞いた中嶋の夏休みの予定には驚いた。
「英明、夏休みはいつから帰るの?」
「どこに帰るんだ?」
「どこって…夏休みなんだから自宅に帰るんでしょ?いつから戻るんですか?」
「家には戻らない。ずっと寮にいる。」
「えっ?どうしてですか?何かあったんですか?」
驚く和希に中嶋はため息を付きながら言った。
「学生会の仕事が山のように残ってるんだ。この夏は寮から予備校に通って、残りは学生会の仕事だ。」
「…そうですか…ご苦労様です…」
和希は中嶋を見て思った。
きっと去年も一昨年の夏も中嶋の夏休みは学生会の仕事をして終わっていたんだろうな…と。
そんな事を考えていた和希に、
そして、いつものごとく丹羽は脱走をして、時々中嶋に捕まって強制的に仕事をさせられていたんだろう。
そんな事を考えていた和希に、
「和希は仕事か?」
「あっ、はい。普段できない出張を山ほど入れられてしまいました。」
笑いながら言う和希の頭を優しく撫でる中嶋。
「無理はするな。何かあったらすぐ連絡しろ。分かったな。」
「はい。」
これじゃ、どっちが年上なんだか分からないなと思いながら和希は微笑んで答えた。
「英明が寮にいるんだったら、俺もできるだけ寮に帰りたいなぁ。」
和希はそう独り言を言った。
泊まりの出張が多いので、あまり寮にはいられない。
だから、少しでも長く中嶋の側にいたいと思った。
その時携帯のメールの着信音がなった。
石塚からのメールは早く仕事に戻ってきて下さいとの事だった。
和希は苦笑いをする。
「あ〜あ、ホントゆっくりする時間がないな。これじゃ、脱走する王様の気持ちが少しだけ理解できそうだ。」
和希は立ち上がると屋上を後にする。
逃げたくても逃げられない。
どんなに大変でも今の生き方を決めたのは自分なのだから。
そしてどんなに忙しくても大好きな人と過ごす事を選んだのだから。
そう思いながら和希はサーバー棟に急いで向かって行った。
放課後、1人で屋上で物思いにふける和希の話です。
偶にはこうして息抜きも必要だと思います。
いつも忙しそうにしていますから…
夏休みまで後少しです。
和希は中嶋さんとどのような夏休みを過ごすのでしょうか?
素敵な夏の思い出を作れたらいいなぁと思ってます
2009/7/13