「寒くはないか?」
「大丈夫です。郁に暖かくして来いと言われたから、たくさん着込んできたんですよ。」
真っ白な息を吐きながら和希は言った。
「ここは本当に綺麗な場所ですね。手を伸ばせば星に触れられそうだ。」
「ああ。ここは昔と少しも変わらない。」
そう言いながら西園寺も星空を見つめた。
「子供の頃もこうしてよく星空を眺めたものだ。」
「1人でですか?」
「1人の時もあったが大抵は臣が一緒だったな。」
当時を懐かしそうに話す西園寺を見て、和希は少しだけ寂しそうな顔をした。
西園寺と七条の繋がりは深い。
和希は西園寺の恋人だけれども踏み込めない何かがある。
けれども、それは西園寺にとってとても大切なものである。
和希も啓太との事があるのだからお互いさまである。
だが、分かっていても、好きな人の全てを独占したいと思ってしまう。
そんな風に考えてしまう自分が信じられないと和希は思っていた。
他人に対して興味等なかったのに…(啓太は例外)
和希は星空を見つめている西園寺の綺麗な横顔を見た後再び星空を見上げた。
「ここには郁の思い出がたくさん詰まっているのですね。」
「ああ。」
「七条さんが少しだけ羨ましくなりました。」
「和希?」
不思議そうな顔をする西園寺に、
「だって、郁の思い出には必ず七条さんがいるのですから。俺、やきもきをやいてしまいました。」
「それは仕方ないだろう。私と臣は幼なじみなのだから。」
和希は苦笑いをしながら、
「そんな事は分かっています。単なる俺のわがままですから気にしないで下さい。」
「和希との思い出はこれからどんどん増えていく。今に臣との思い出よりもずっと多くなっていくだろう。それと…」
西園寺はいったん言葉をきった後、
「ここに一緒に来たのは臣と和希だけだ。」
「郁…」
「ここは私と臣の秘密の場所だからな。」
「そんな大切な場所に俺を連れて来てくれたんですか?」
「ああ。今の私にとって1番大切なのは和希だからな。」
「ありがとうございます。俺にとっても郁は1番大切な人です。だから…これからも俺とたくさんの思い出を作って下さいね。」
「もちろんだ。」
西園寺は嬉しそうに微笑みながら和希の肩に手をかけ、優しく自分に引き寄せるのでした。