いつもと違う登校日

「お気をつけていってらっしゃいませ。」
ホテルを出る際にドアマンにそう声を掛けられ、和希は恥ずかしそうに頬を赤らめて急ぎ足でホテルを後にした。
そんな和希のすぐ後を七条は歩いていた。
「ねえ、和希。朝からどうしてそんなに機嫌が悪いんですか?」
「どうして?七条さんのせいじゃないですか!!」
キッと七条を睨む和希に七条は困った顔をしていた。
「そ…そんな顔をしたって俺は誤魔化されませんからね。」
「誰も誤魔化してなどいませんよ。それよりも、和希の不機嫌の理由が僕だと言う言葉が気に掛かるのですが、なぜでしょうか?」
「…七条さん、それってわざと言ってますか?」
「いいえ。」
胡散臭そうないつもの笑顔で言われても信用性はないと和希は思っていた。
    ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数日前からその日は休みを取って欲しいと七条からお願いされていた和希はその日は仕事を休みにしていた。
昼休みも後数分で終わろうとしていた時、1年生の教室に七条が現れた。
「遠藤君、今日の事なのですが、今お話しても構いませんか?」
「はい、大丈夫です。」
「今日ですが、外に出かける際に私服に着替えないで制服でいて欲しいのですが。」
「制服ですか?それは構いませんけど、どうしてですか?」
「偶には普通の高校生のように学校帰りに街で買い物という気分を味わってみたいんです。」
「ああ、なるほど。そうですよね。普通は学校帰りに寄り道する時は制服ですよね。」
「ええ。僕らは寮生ですので街に出るときは私服に着替えてから出かけるでしょう。制服で出かけるのは部活動の時くらいですからね。」
「分かりました。それじゃ、着替えないで待っていますね。」
「はい。よろしくお願いします。」
   ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「確かに昨日七条さんは制服で出かけましょうと言って、俺は分かりましたと言いました。けど、俺泊まるだなんて聞いていませんよ。」
「おや?そうでしたか?僕と和希の分の外泊届けを寮長に出したのでてっきり知っていると思っていました。」
「俺は外泊届けを出したのも知りませんでした。」
「そうでしたか。確か和希に出すと伝えたつもりでしたが、もしかしたら忘れていたのかもしれませんね。申し訳ない事をしました。」
「…」
本当に申し訳ないと思っているのか疑わしいと思いながら、和希は七条を見ていた。
昨日、七条と一緒に街に出た和希は買い物やお茶をしてから夕食を食べ寮に帰ろうとした時、七条から外泊届けを出していて既にホテルも予約してあると聞かされて驚いたのだった。
外泊ならそれなりの支度があるのにと和希が困った顔で言うと、七条は明日の下着や制服のシャツ、靴下はホテルに用意してあると涼しい顔で言った。
七条が予約したホテルは有名なホテルのスタンダードだった。
まさか、制服でホテルに泊まるとは思っていなかった和希は不機嫌な顔を始終していたのだった。
唯一の救いがこのホテルは鈴菱で使った事がなかった事くらいだ。
利用したことのあるホテルでは自分の素性がばれてしまう可能性があるからだ。
制服でホテルに泊まり、制服でホテルのレストランで朝食を食べ、制服のままホテルを後にする。
男子高校生が2人でホテルに泊まるなんて周りはどう思ったのだろうかと考えると和希は恥ずかしくてたまらなかった。
そんな和希とは対象的に七条は始終嬉しそうだった。

「ねえ、和希。機嫌を直してもらえませんか?」
「誰のせいでこうなったか分かっているんですか。」
「僕のせいですよね。でも、僕は和希と一緒に1度でいいからホテル登校をしてみたかったんです。」
「ホテル登校?」
不思議そうな顔をする和希に七条は頷いた。
「はい。僕たちは普通の高校生のように自宅からではなく寮から学園に通っているでしょう。僕は偶には和希に普通の高校生のように過ごしてもらいたかったんです。」
「それが、ホテル登校だって言うんですか?」
「ええ。本当は自宅から一緒に学園に通いたかったのですが、それは難しいのでホテルにしてみました。気に入りませんでしたか?」
「それは…」
和希は困ってしまった。
七条は和希に普通の高校生としての生活を送らせたかったに違いない。
確かに高校生活を送ってはいるが、BL学園は特殊な学園だから普通の高校生とは違うだろう。
和希の為に色々と考えてくれた七条に和希はこれ以上文句は言えなくなってしまった。

「分かりました。今回は七条さんが俺の為を思ってしてくれた事なのでもう何も言いません。でも、もうホテル登校は嫌ですからね。」
「はい。もう2度としません。でも、偶にはホテルに泊まるのは構いませんよね。寮では思いっきり啼かせてあげられませんから。」
「なっ…」
和希の顔が真っ赤になった。
そんな和希を見て七条は嬉しそうに微笑む。
七条の笑顔を見て和希は頬を膨らませながら、
「そんな意地悪と言うともうホテルには行きません!」
「それは困りましたね。どうしたら、許してくれますか?」
悲しそうな顔で瞳を潤ませて和希を見つめる七条を見ると和希の心は揺らいでしまう。
「…仕方ありませんね…七条さんが俺を困らせなかったら付き合います…」
視線をずらしながら小声で言う和希の額に七条はソッとキスを落としながら耳元で囁いた。
「分かりました。いい子にしますから、約束は守って下さいね。」







遅くなりましたが、七条臣さん、お誕生日おめでとうございます!
七条さんのお誕生日話を書こうと思ったのですが、まったく関係のない話が出来上がってしまいました(汗)
ホテルから仲良く2人で学校に登校する話が書きたかったので、書いてみました。
文句を言っても最後には恋人である七条さんに甘い和希。
きっとまた制服でホテルに泊まる日がくるのではないかな?と思っています。
                      2010年9月20日