傘
注意書き
この話は『nm-factory』の真汐尚様(http://pksp.jp/nm-factory/)の書かれた『傘』と言う小説の続編として書かせてもらいました。
『傘』は『nm-factory』の真汐尚様のブログ(11月9日に『和希編』11月16日に『王様編』)に載っています。
とても切ないお話です。
でも、凄く感動してしまい、啓太視点で書かせて下さいと真汐尚様に無理矢理お願いして書かせてもらいました。
お時間がある方は是非真汐尚様の『傘』をお読みになられてからこの話をお読みになられて下さい。
この話だけでも解るようには書いたつもりです。
まったくどうしてこの2人はこうなんだろう…
啓太はため息を付きながら和希と王様を見ていた。
どう見ても両思いなのは解るのに、本人同士はお互いに相手に想われていないと思っている。
本当に呆れてものが言えない。
先日和希と王様に聞いた時もそうだった。
「和希はさあ、王様の事をどう思ってるの?」
「えっ?王様の事?」
瞬時に顔を赤くさせて和希は聞き返してきた。
「啓太、それってどういう意味?」
「どういう意味ってそのままだよ。和希は王様の事どう思ってるの?」
「どうって…王様はいい人だよ。頼りになるし、優しいし、かっこいいし…ちょっと学生会の仕事をサボる癖は困るとは思っているけれどもね。」
頬を赤らめて言う和希は本当に可愛いと啓太は思った。
「じゃあ、和希は王様の事を好きなんだ。」
「な…なんでそうなるんだよ…」
「だって和希、今王様の事もの凄く褒めていたじゃないか。」
「その通りだから。啓太だってそう思うだろう?」
「まあね。」
「ほら。だから啓太だって王様の事好きだろう?」
「えっ?まあ好きかな?」
少し考えながら啓太は答えた。
だから違うって…啓太は頭の中でそう叫んだ。
俺は和希に王様と付き合う気がないのか聞きたかったんだ。
和希だって王様だってお互いが好きなのになぜか告白すらしない。
見ていてじれったくなってしまう。
「ねえ、和希。和希は王様の事が好きなんでしょう?なら王様に告白して付き合えば?」
「なっ…何馬鹿な事言うんだ、啓太は…」
「馬鹿な事じゃないだろう?大事な事だぞ。和希は王様の事が好きなくせにどうして行動を起こさないんだ?」
和希は啓太から目を背けた。
告白したってどうせ振られるのが解っているのに言えるわけないじゃないか?
だって王様が好きなのは俺じゃなくて、啓太なんだぞ。
なのに、俺が「好きです」と言ったら王様は困るじゃないか。
俺の事を気にして啓太との仲が拗れたら王様が気の毒じゃないか。
だから俺は何も言わない。
黙って啓太の側にさえいればいつでも王様を見つめる事ができるんだ。
俺はそれだけで満足なんだから…
和希は啓太に向って、
「俺が王様を好きでも王様が俺を好きだって限らないだろう?」
「どうしてそう思うんだ?」
啓太は不思議そうな顔をして和希に尋ねる。
「だって…王様には…好きな人が…いるみたいなんだ…」
「えっ?」
「だから、俺が告白したって無駄なんだ。下手に告白して王様との関係に溝が入るより、今のまま先輩後輩として王様の側にいられれば俺はそれで満足なんだ。」
寂しそうにそう言う和希に啓太は驚いた目をして見つめた。
王様に他に好きな人がいるって?
そんなわけないじゃないか。
王様はあんなに熱い目で和希の事を見つめているのに、どうしてその瞳に和希は気付かないんだ?
そんな啓太の心の声に気付かない和希は啓太に向って笑うと、
「さあ、その話はもう終わりにしよう。それよりも…」
話題をずらして話しだした和希を啓太は困った思いで見つめていた。
和希が駄目なら王様だ。
啓太はそう思い、和希が仕事でサーバー棟に行っている時に丹羽に聞いてみた。
運良くその日は丹羽が学生会室にいて、中嶋は書類を捜しに図書館に行っていて、今学生会室にいるのは啓太と丹羽だけだった。
「ねえ、王様。」
「おう、何だ啓太?」
「王様って和希の事をどう思ってるんですか?」
「なっ…」
丹羽は手に持っていたペンを机の上に落とした。
明らかに動揺しているその姿に啓太は脈ありだな…と判断する。
「だから、王様は和希の事をどう思っているのかって聞いているんですけど?」
「ああ…え…遠藤か…そうだな…いい奴だよな。笑うとすげー綺麗だし、時々だが可愛い仕草をするし。こう何ていうか抱き締めて守ってあげたいと思ってるぜ。」
顔をほんのり赤くして答える丹羽に啓太は嬉しそうに言う。
「そうですよね。和希ってホントに可愛いですよね。」
「ああ、啓太もそう思うだろう?遠藤ってホントは年上なんだけどそれを感じさせないよなあ。」
「はい。で、王様は和希の事好きですか?」
「えっ…」
どうしてそこで即答しないんですか、王様?
啓太は驚いてしまった。
まさかこの後に及んで和希の事が好きじゃないなんて言うんじゃないんだろうな。
啓太は確認の為にもう1度丹羽に聞いた。
「王様は和希の事好きですよね?」
「…ああ…可愛い後輩だしな…」
「はぁ?後輩?」
啓太は呆れた目をして丹羽を見つめた。
何言ってるんですか?王様!!
王様は和希の事を好きなんでしょ?
恋愛の対象としてみてるんでしょ?
啓太は少しイラついて言った。
「そうじゃなくて…和希の事恋愛の対象として好きなんじゃないんですか?」
「恋愛?おい、啓太。お前何言ってるんだよ。」
「何って。そのまんまですけど?」
丹羽はため息をつきながら、
「ああ見えても遠藤はこの学園の理事長なんだぜ。俺なんかはなから相手になんてされてねえよ。」
「はい?」
「俺は遠藤が幸せならそれでいいんだ。だからこの話はここまでだ。さあ啓太。ヒデが戻ってくるまでに少しでも書類を仕上げるぞ。」
そう言って再びペンを持って仕事を始めた丹羽を啓太は唖然とした目で見ていた。
「だから、何とかしてあげたいんですよ中島さん。」
啓太は隣に歩く中嶋を見ながら相談を持ちかけた。
中嶋はため息をつきながら、
「で、伊藤はどうしたいんだ?」
「もちろん、和希と王様をくっつけたいんです。だってあの2人両思いなのに、お互いにそれに気が付いてないんですよ?和希なんて王様には好きな人がいるから後輩として王様の側にいれればいいなんて言うし、王様なんて和希は理事長だから自分なんて相手にもされない…って言うんですよ。まったく2人して何を勘違いしてるんだか。見ていてはがゆいんですよね。で、このままじゃ絶対2人の仲は進展しないからここは俺が一肌脱ごうかな…って思ってるんです。」
力んで話す啓太に呆れながらも、中嶋は黙って話しを聞いていた。
「だから、まずどうしたらいいのかと思って。中嶋さん、相談に乗ってくれますか?」
「…ああ…」
「やったー!!中嶋さんに相談に乗ってもらえたらもう解決したも同然ですね。あ〜、良かった。」
嬉しそうに笑う啓太に中嶋は苦笑いをする。
どうせ伊藤1人じゃろくな事にならない事は既に経験済みだった。
下手に伊藤の自由にさせると、とんでもない事になる。
そうなってから伊藤に泣きつかれて、後始末をするのはいつも自分の仕事なのだ。
なら、最初から伊藤の自由にさせないで今回の様に相談をされ、自分の思い通りに動いてもらえれば1番いい。
まったく伊藤の世話好きには困ったものだ。
いや、それ以上に丹羽と遠藤の鈍さにも困ったものだ。
上手く2人を恋人同士にしても何かある事に揉めるに決まっている。
その度に伊藤は困ったと言って俺に相談してくるんだろうな。
めんどくさい限りだ。
だが今度からは伊藤だけでなく、丹羽と遠藤の面倒も俺がみてやる。
中嶋はそう覚悟をして隣を嬉しそうに歩く啓太を優しく見つめていた。
尚様、こんな話になってしまいました。
申し訳ありません…
でも、凄く楽しく書かせてもらいました。
お互いに好きなのに片思いだと思い、諦めようとしている和希と王様。
それを見ていられない啓太と、そんな啓太を見ていられない中嶋さんの話でした。
2008年12月1日