風邪を引いた夜は

そっとドアをノックするが、返事がなかったのでドアを開け中嶋は静かに部屋の中に入った。
暗いその部屋は窓から差し込む月の明かりで中の様子がかろうじて分かるくらいだった。
手慣れた様子でベットまで近づいた中嶋は、眠っている和希の頬にそっと触れた。
今朝は熱かったその頬も今はいつも通りの暖かさだった。
おそらく熱が下がったのだろう。
規則正しく呼吸をしているので、もう大丈夫だろうと思いながら中嶋はベットの側の椅子に腰掛けた。
数日前、啓太が風邪で寝込んでしまい、啓太を心配した和希は啓太の看病をするといって啓太の側にずっといた。
甲斐甲斐しい看護に周りの人達は感動していた。
が…
啓太が回復すると同時に和希が風邪を引いて寝込んでしまった。
啓太は『俺のせいで風邪を引いたんだから、今度は俺が看病する』と言ったが、そんな事をすれば、また啓太が寝込むのは目に見えているので、周りから反対された啓太は渋々諦めた。
そして、和希が休みの間は授業に出て、和希の分までノートを取ってくると張り切っていた。

ベットの側のライトを付け本を読んでいた中嶋は、和希の瞳が静かに開かれたのに気が付いた。
「…英明さん?…」
掠れた声で中嶋に声を掛けた和希の頬に中嶋は触れながら、
「目が覚めたのか。調子はどうだ?」
「はい、おかげさまでだいぶ楽になりました。」
「熱は下がったみたいだな。」
「夕方に篠宮さんが来て計ってくれた時は36.9度まで下がってました。ただ、咳が酷かったせいか声がかれてしまって…」
「ああ…まるであの後みたいな声だな。」
「なっ…何を言っているんですか!」
ニヤリと笑いながら言う中嶋に和希は顔を朱くして答えた。
うろたえているその様子はとても可愛らしかった。
「どうした?シタくなったのか?だが、俺は病人とやる趣味はない。」
「あったら困ります。まだ、身体の節々が痛いのに、そんな事をされたら俺また熱が上がってしまいます。」
「なら、もう大人しく寝ていろ。」

そう言った中嶋に、
「もう帰るんですか?」
寂しげな瞳で問いかける和希の髪を中嶋はクシャッとすると、
「お前が寝るまで側にいてやる。だから早く休んで元気になれ。」
「…はい…」
嬉しそうに微笑みながら、椅子に座って本を読み出した中嶋を和希はジッと見つめていたが、その内瞳は徐々に閉じていった。
「和希、もう寝たのか?」
暫くして中嶋が声を掛けたが、和希からは規則正しい息しか聞こえなかった。
和希が眠ったのを確認した中嶋は立ち上がろうとしたが、すぐに腰を下ろした。
そして前髪を掻きながら、
「まったく…もう暫くここにいるか…」
そう言って中嶋は再び本を開いて読み始めた。

中嶋が立ち上がるのを止めた理由は…
眠ってる和希の片手は布団から出ていて、中嶋のジャケットの端をギュッと握っていたからでした。




中嶋さんお誕生日月間の第一弾は風邪を引いた和希の話でした(笑)
久しぶりに風邪を引いて寝込んでしまったのですが、その時に思いついた話でした。
体調が悪いと誰かに甘えたくなります。
布団からちょこっと手を出して中嶋さんのジャケットを握り締めて寝ている和希はきっと安心しきった寝顔をしているんだと思います。
                         2009/11/9