和希のお誕生日まで後7日

お昼寝 (啓太×和希)

「全く、和希ってばどこにいるんだ?」
啓太は中庭の奥をキョロキョロしながら和希を探していた。
少し前、4時間目も後半という時、啓太あてに和希からメールが届いた。
『仕事が終わったから今から学園に戻る。中庭のいつもの所で待ってるな。』
そのメールを嬉しそうに見た啓太は授業が終わるとすぐに中庭に来たのだが、呼んでも和希からの返事がないので困って和希を探していた。
いつもなら呼ぶ前に「啓太?そこにいる?」と俺の存在に気付いてくれるのに、今日はどうしたんだろう?
そう思いながらうろついていた啓太はやっと和希を見つけた。


「和希!探したんだぞ!ここにいるならいるって言ってくれてもいいじゃないか!」
少し膨れながら和希の後ろ姿に声をかけたが反応がない。
あれ?…と思いながら和希の方に歩いていくと…
「和希?寝ちゃってるの?」
木に寄りかかった和希は気持ち良さそうにすやすやと寝息をたてていた。
手には本が握られている。
きっと本を読んでいるうちに眠くなって寝てしまったのだろう。


啓太は和希の傍にしゃがみ込むと和希の顔をじっと見詰めた。
相当疲れているのだろう。
啓太が傍で見ていても目覚める気配がない。
顔色は余りよくない。
目も腫れぼったいし、折角の美人が台無しだなぁと啓太は思った。
まあ、その疲れの原因の1つを作ったのが自分なのであまり言えないが…


数日前の事。
「和希、今度の月曜日って忙しい?」
「う〜ん、月曜日か?今本社の仕事を1つやっているんで、そっちの方で午前中は会議があるけど。何かあるのか?啓太。」
「ううん。別に。」
慌てる啓太を不思議そうに見詰める和希。
そういえば最近仕事が忙しくて啓太とゆっくり過ごしてない事に和希は気付いた。
啓太は優しいからきっと言いたくても言えないのだろう。
ここはカズ兄として気を利かせないとな…和希はそう思った。
「啓太、月曜日は本社の会議が終わったらすぐに帰って来るよ。」
「えっ?本当?」
啓太の嬉しそうな顔をみて和希は頷く。
「ああ、その後は授業に出て、久しぶりに学生会の手伝いに行くよ。」
「わぁ…楽しみだな。和希最近ちっとも学生会室に来ないだろう?生徒会長から『伊藤、遠藤を連れて来い。』って言われてて困ってたんだよ。」
「何?それ?だって生徒会役員は啓太であって、俺じゃないぞ。」
「そんなの解ってるよ。でも、それだけ和希が人気だって事だよ。」
「人気?そんなわけないじゃないか。もう啓太ってばからかうのはよせよな。」
からかってないんだけどね…と啓太は心の中で言った。


和希は自分が上級生や下級生に人気がある事を知らない。
以前、その事を指摘したが、『そんな事あるわけないだろう』と笑っただけだった。
2年になった啓太は王様と中嶋さんを手伝っていたという事で生徒会役員になった。
当然和希にもその話はあったのだが、仕事が忙しいせいもありしっかりと断った和希だった。
だが、それで大人しく引き下がる新生徒会長ではなかった。
なんせ、あの会計部の西園寺さんと渡り合える人なのだ。
生徒会役員にならない代わりに今までのように手伝いに来てくれるようにと拝み倒したのだ。
まさか和希がうんと首を縦に振るとは思わなかった啓太だったが、そのわけを聞いて納得をした。
朝昼晩に頼まれて最後には鬱陶しくなり返事をしたそうだ。
和希も1年生の頃より仕事が忙しくなっていたので、前程学生会に手伝いには来れなかったが、律儀な和希は僅かな時間を見つけては手伝いに来ていた。


風が吹いて和希の髪がサラッと揺れる。
そんな様子を啓太は嬉しそうに見つめていた。
『月曜は本社の会議が終わったら後は1日啓太と一緒にいるからな。』
笑いながらそう言った和希。
今日の為にきっと無理して仕事を片付けてきたのだろう。
この週末の外泊届けがそれを意味している。
金曜の夜から泊り込みでサーバー棟で仕事をしていた和希。
こんな事なら無理に一緒にいたいだなんてお願いしなきゃ良かったかな?


でも…
年に1度の和希の誕生日だから今日だけは一緒に過ごしたかったんだ。
和希は今日が自分の誕生日だなんて気付いてないみたいだけどね。
そんな所が和希の可愛い所なんだ。
啓太は和希の頬にそっとキスをしながら囁いた。
「大好きだよ、和希。そしてお誕生日おめでとう。」
愛しい恋人からのお誕生日のお祝いの言葉を眠り姫はまだ眠りから覚めてないので気付かなかった。






中庭でお昼寝をしてしまった和希。
見つけてくれたのが啓太で良かったですね。
他の人だと大変な事になっていたかも…(笑)
和希と啓太共に2年生の話です。
                2008年6月2日