和希のお誕生日まで後4日

魚の骨 (中嶋×和希)

最近仕事が忙しくて日付が変わってから帰る日々が続いていた。
授業も丸1日出ている暇はなく、単位が心配なものだけ選んででていた。
当然学生会の手伝いなんてできるわけもなく、学年が違う中嶋さんと会う機会すらなかった。
でも、やっとひと段落できたので、“今日はもう寮に帰ります。こらから食堂に行きます。”とメールを打ってから和希はサーバー棟を後にした。


「郁ちゃんと一緒に夕食が食べれるなんて今日はついてるよなぁ。」
嬉しそうに大声で言う丹羽を眉間に皺を寄せながら西園寺は聞いていた。
側にいる七条は苦笑いをしている。
「そうか?私は気分が悪いがな。」
冷たく言う西園寺に丹羽は、
「郁ちゃんは照れ屋さんだからな。」
笑いながら言う丹羽に、嫌味すら通じない馬鹿なのかと呆れた目で西園寺は丹羽を見ていた。
そんな2人のやりとりにさっきから啓太はオロオロしている。
啓太のそんな様子を七条は可愛いと思いながら見詰めていた。
中嶋はと言うとそんな事には興味がなさそうな顔をして黙々と食べていたが、突然に席を立った。
「ヒデ?どうしたんだ?」
「いや、何でもない。直ぐに戻るからこのままにしといてくれ。」
「何だ?ヒデの奴?」
そう言って食堂の入り口に向う中嶋を丹羽は不思議そうに見ていた。
「もう、王様が西園寺さんにしつこくするから呆れて中嶋さん席を立ってしまったんじゃないんですか?」
「そんなわけないだろう?あのヒデがよう。」
「さあ、解りませんよ?あの人は何を考えてるか解りませんからね。」
「臣、丹羽をからかうのはよせ。入り口を見ろ。遠藤が来たから迎えに行ったんだろう。」
皆入り口の方を向くと、和希が嬉しそうな顔をして中嶋と話ていた。


席を立った中嶋は暫く食堂の入り口に立っていたが、すぐに和希がやって来て、一緒に食事を選び始めた。
何かを言われ困った顔をしていた和希だったが、暫くするとニコッと笑い、又中嶋と話しながら選んでいた。
食事を載せたトレーを中嶋は持ちながら、楽しそうに話しながら皆がいる机に来る。
「和希。」
「啓太、久しぶりだな。」
「仕事もう大丈夫なの?こんな時間に寮に戻ってきて。」
「ああ、一応ひと段落はついたからな。」
啓太と嬉しそうに話しながら和希は中嶋の隣に座った。
啓太と話しをしながら楽しく食事をしていた和希だったが、メインの煮魚には殆ど手をつけていなかった。


そんな和希の様子を見て、中嶋はそっと煮魚の皿を取ると鮮やかな手つきで、手早く身と骨を分ける。
そして皿を和希のトレーに戻すと、和希の耳元で、
「好き嫌いなく食べろ、栄養が偏るだろ」
そう諭すと和希はコクンを頷きながら魚に箸をつける。
「美味しい。」
「そうか?残さず食べるんだぞ?」
「はい、中嶋さん。」
嬉しそうにそう言って微笑む和希。
和希は別に魚が嫌いではない。
むしろ好きな方だが箸使いが少し苦手なので魚の身を解すのが苦手で、あまり進んで食べようとはしない。
そんな和希の事を知っている中嶋は、自分がいる時はなるべく魚を食べさせるようにしていた。


が…、最近中嶋と和希が付き合い始めたのは知ってはいたが、そんな2人の様子を始めて目の辺りにした周りの面子は唖然としていた。
丹羽は食べようとして口まで持っていった肉を箸から落としながら「ヒデ?お前何やってるんだ?」と呟いていた。
啓太は和希が滅多に食べない魚を美味しそうに食べている姿に唖然としていた。
七条はあの中嶋がたとえ恋人の為とは言えまさか魚を解すとは、そこまで変われるのかと疑問に思いながら見ていた。
西園寺は見てはいけないものを見てしまったという顔をして視線をずらした。
丁度食事を終え、岩井と一緒にトレーを下げようとそのテーブルの側を通り掛かった篠宮は、
口を開けて呆然としている。
隣にいた岩井はわりと冷静で
「中嶋はまるで篠宮みたいだ…」
と感心して呟いていた。


そんな周りの反応など、この幸せな2人には目に映らなかった。
「夜遅い時はなるべく肉よりも魚を食べるんだぞ?」
「はい。でも1人だと上手く食べられる自信がないんですよね。それにハンバーグがあるとそっちがいいし。」
「和希。好き嫌いをしていると身体に悪いだろう?ただでさえ、忙しい生活を送っているんだ。せめて食事くらい気をつけないとな。」
「う〜ん…解ってはいるんだけどなぁ…でも俺頑張りますね、中嶋さん。」
「そうか。」
そう言って和希の髪を優しくなでる中嶋に破顔で答える和希。
暫く会えなかった寂しさを埋めるように甘えた仕草をみせる和希だった。








サイトで書いた『Beginnig 』のコメントに「七啓の前で 焼き魚だけ残してる和希に中嶋さんがス〜ッと魚の皿を取り上げ鮮やかな手つきで身をほぐし骨をとってあげて「好き嫌いなく食べろ、栄養が偏るだろ」とか諭して食べさせる場面とか見たいです…」というコメントを頂きました。
その時、是非書かせて下さいね…とお返事を書かせてもらいました。
そして、完成した話がこれです。
普通の小説にしてUPしようかと思ったのですが、和希聖誕祭に入れてしまいました。
コメントを下さった方、頂いたコメントで書いた話です。
気に入って頂けたら嬉しいです。
             2008年6月5日