和希のお誕生日まで後1日

入学式 (西園寺×和希)

「似合いますか?西園寺先輩。」
「ああ…よく似合ってるが…」
目の前でクルリと回って嬉しそうに制服姿を西園寺に見せる和希。
ベルリバティスクール入学式の日、西園寺は見てはいけないものを見てしまった気分だった。
昨日理事長室で会った時は何も言ってなかった筈だ。
なのに…
今日の入学式が終わった後に、西園寺に話しかけてきた1年生がいた。
それが今ここにいる遠藤和希…いや、正確にはここベルリバティスクールの理事長である鈴菱和希だった。
違和感なく制服を着こなし、どこから見ても15歳にしか見えない。
もともと童顔だとは思っていたが、スーツ姿では気付かなかった。
制服を着ただけでこんなになるとは…
西園寺は頭を抱えたくなった。
とうに成人を越した筈なのに、周りにこんなにも溶け込むとはある意味恐ろしいかもしれない。
ため息をつきながら和希を見る西園寺に、和希は悲しそうな顔をして、
「そんなに似合いませんか?西園寺先輩のそんな顔は見たくなかったのに…」
目に涙を浮かべながら言う和希を見て、西園寺は慌てて否定しようとするが、西園寺が声をかけようとする前に言葉を遮られた。
「そんな事はありませんよ。とてもよくお似合いですよ。」
「臣。」
「七条先輩…」
和希の後ろから現れた七条は楽しそうに笑いながら、
「入学おめでとうございます。お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「あっ…はい。今日ベルリバティスクールに入学した遠藤和希です。これからよろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、遠藤君。僕の事は七条先輩ではなく、七条で構いませんからね。」
「そんな…先輩を呼び捨てになんてできません。」
「おや?そうですか?なら“さん”をつけて下さいね。それならいいでしょう?」
和希は少し考えた後に、ニコッと笑い、
「はい、七条さん。」
そう答える。
その姿が可愛くて西園寺は思わず微笑んでしまう。
理事長の時は『西園寺くん』、二人きりの時は『西園寺さん』、あの時は『郁』…そう西園寺を呼ぶ和希が制服姿になると『西園寺先輩』と呼ぶ。
こいつはどこまで私を奔放すれば気が済むんだろう?
そんなふうに思っている西園寺に七条は話かける。
「郁?何を想像してるんですか?」
「いや、私は別に…」
「そうですか?ならそういう事にしときますね。」
「臣。」
七条を軽く睨む西園寺。
そんな西園寺を七条は楽しそうに見ながら、
「フフッ…郁、遠藤君があんまりにも可愛いからと言って、黙って見詰めているだけでは思いは通じませんよ?ほら、遠藤君が不安そうな顔をしているじゃありませんか?」
「お…臣…」
「はい、何ですか郁?」
ニコニコと笑う七条に西園寺はまたため息をつく。
「郁、邪魔者は消えますから恋人として遠藤君を安心させてあげて下さいね。」
それだけ言うと七条はその場を後にする。
残った西園寺は和希に向って、
「よく似合ってるぞ、和希。あんまり似合いすぎて言葉を失ったぞ。」
「さ…西園寺さん…」
顔を真っ赤にさせる和希を西園寺は嬉しそうに見詰める。
この年齢不明な理事長は今回はどんな目的があって学生に扮してこの学園に進入してきたのだろう?
忙しい和希の事だ。
余程切羽詰った自体なんだろうな。
ここは会計部としても、恋人としても和希を支えてやらないとな。
だが、その前に恋人である私に黙って学生に扮した罪は大きいと思えよ、和希。
まあ、いい。
今までは理事長室か学園の外でしか会う事ができなかったんだ。
しかし、これからは学生として毎日会える。
抱きたいと思えば毎晩でも抱く事ができるのだ。
覚悟してもらわないとな。
不気味な笑いをしながら、
「遠藤、後で会計室に来い。話がある。」
ここは嬉しそうにすべきか、怯えるべきか悩みながら、
「はい。必ず伺います。」
とりあえず和希は笑顔で答えた。
これから和希を待っている波乱に満ちたベルリバティスクールの生活の幕開けだった。







和希が新入生として入学した日の話を1度書いて見たかったんです。
驚く西園寺さんに、割と冷静な七条さん。
和希は冷静で既に学生生活を楽しんでいます。
出だしの和希が西園寺さんの前でクルリとまわって制服を見せるシーンが実は1番書きたかったんです。
今回のアンケートで王様と同票を取った西園寺さん。
和希のお誕生日1日前でごめんなさい。
                2008年6月8日