気付かない想い

和希と啓太が教室移動の為に歩いていると、曲がり角から丹羽と中嶋が来た。
「中嶋さん!」
嬉しそうに啓太はそう言うと中嶋の側に走って行く。
「啓太。廊下を走るんじゃない。」
「ごめんなさい。」
中嶋に注意され、謝る啓太。
中嶋の口調はキツイがその目は優しく啓太を見つめていた。

MVP戦後、付き合い始めた啓太と中嶋。
最初の頃は心配をしていた和希だったが、中嶋の啓太への愛情に気付いてからは安心して2人を見ていた。
大事な啓太を託すにはそれなりの人物でないと…と思っていた和希。
でも、中嶋になら安心して啓太を任せられると信じていた。
嬉しそうに中嶋と話す啓太を幸せそうに見つめている和希。
そんな和希を丹羽は複雑な思いで見ていた。

好きな相手が他人と付き合っているのに、どうしてそんな優しい目で2人を見つめる事ができるんだろうか

辛くはないのだろうか?
それとも、大人だから人前では冷静になれるのだろうか?
いや…
そもそも、どうしてそんなに遠藤の事を気にするのだろうか?
あいつは俺が嫌いな理事長なのに…

そう思いながら遠藤を見つめていた丹羽。
そんな丹羽に中嶋が声を掛ける。
「丹羽、そろそろ行くぞ。」
「へっ?あ…ああ。」
和希の事を考えてボゥ〜としてしまった丹羽は慌てて返事をした。
気が付くと、さっきまでそこにいた和希も啓太もいなかった。
「ヒデ、遠藤と啓太はどうしたんだ?」
「何を言っている。もう休み時間が終わるからと教室に向かったぞ。」
「そうか。」
頭を掻く丹羽に、
「まだ遠藤が理事長だという事を黙っていたのを気にしているのか?」
「えっ?何なんだよ、急に。」
「さっき、遠藤の事をずっと睨んでいただろう?遠藤は居心地が悪そうな顔をしていたぞ。」
「…」
「啓太も気にしていたからな。お前が許せないのは分かるが、もう少し配慮しろ。」
「…悪かった…」
丹羽はボソッと言った。
分かればいいと言って歩き出した中嶋の後を丹羽は黙ってついて行った。

確かに理事長は嫌いだ。
でも、遠藤を嫌いなわけじゃない。
どうして俺だけに内緒にしていたのか訳を知りたいだけなんだ。
ヒデや郁ちゃん、七条、啓太までも知っていた遠藤の秘密。
その秘密をどうして俺には言ってくれなかったんだ?
俺は遠藤に信用されていなかったからか?
裏切られた気がしてならなかった。
あんなに愛しい後輩だと思っていたのに…
考えれば考える程、悪い方向に向かっていくのを丹羽は止める事ができないでいた。




和希が理事長だという事を知った数日後の話です。
王様、グルグルしていますね。
王様は気が付いていませんが和希の事が好きです。
ちなみに王様は和希の事を睨んだつもりはないのですが、ジッと和希の事を見つめていたのでそう思われてしまったようです(笑)
                2010年4月12日