気持ちを込めて…

「はぁ〜」
和希はため息をついていた。
来週は石塚の誕生日だ。
恋人の誕生日を祝ってあげたい…
それも思い出に残るような素敵な誕生日にしたい…
和希はそう思っていた。
が…
どうすれば、思い出に残る誕生日が出来るか和希には分からなかった。
そもそも、普通の誕生日を知らないのだ。
まず、そこが問題であった。
和希が知っている誕生日は鈴菱主催の誕生会だ。
そんな誕生日は参考にもならない。
もっとこう…
恋人らしい2人きりの誕生日を石塚と過ごしたい。
どうすればいい?
悩みは尽きる事を知らなかった。


石塚の誕生日当日。
和希は学校を休んで朝から仕事をしていた。
誰もいないはずの理事長室に入ってきた石塚は、机で仕事をしている和希を見て驚いた顔をしていた。
「和希様?」
「おはよう、石塚。」
「失礼致しました。おはようございます。」
先に上司である和希に挨拶された石塚は慌てて頭を下げて挨拶をした。
「謝る必要などない。まさかこんな朝早くから私が理事長室にいるとは思わなかったんだろう。」
「今日は1日学園においでかと思っておりました。何かございましたか?」
相変わらず和希のスケジュールを完璧に覚えている石塚に、和希の顔からは微笑みがこぼれていた。
「特には何もない。いつも私のせいで夜遅くまで仕事をしている秘書達を偶には定時に帰宅させてあげたくてね。今日は朝から仕事を頑張ろうと思っているんだ。」
「恐れ入ります。」
「気にするな。私が勝手にそうしたいと思っているだけなのだから。」
「それでも、和希様が私達を労って下さるその気持ちが嬉しいです。」
柔らかく微笑む石塚に和希は嬉しくなる。
上司の和希ではなく、ただの和希になりたくなるが、今は仕事中なので和希はグッと我慢をしながら言った。
「今日のスケジュールを聞かせてもらおうか、石塚。」

「これで終了です。お疲れ様でした。」
和希は書類を石塚に渡した後、時計をチラッと見る。
和希が思っていたよりもずっと早く仕事は終わっていた。
「石塚もお疲れ様。今日の仕事はもう終了か?」
「はい。これを秘書室にあるファイルに挟めば終わりです。」
「そうか…」
和希は机の上で手を組むと、
「この後、時間があるなら付き合ってもらいたいのだが都合はどうかな?」
「それは…理事長として仰っているのですか?」
眼鏡の奥の瞳が和希をジッと見つめていた。
和希は黙って椅子から立ち上がり石塚の側に行くと、
「どっちならいいのかな?」
「私はどちらでも構いませんが、和希様はどうお考えですか?」
和希はため息を付くと、参ったという顔をした。
「祐輔には敵わないな。」
「という事は和希としてのお願いですね。」
「ああ。今日は祐輔の誕生日だろう?2人きりでお祝いをしたいのだけれどもいいかな?」
フワッと石塚が和希を抱き締める。
「ありがとうございます。和希が私の誕生日を覚えてくれていて嬉しいです。」
「当たり前だろう。大好きな人の誕生日なんだから。それよりも返事は?」
「もちろん大丈夫です。和希からお祝いされると思うととても嬉しいです。」
「支度をして待っています。今日は外泊届けを出してきたから明日の朝までずっと一緒に過ごせるから。」
「まったく…こんな素敵な誕生日を過ごせるとは思いませんでした。」
「えっ?まだ何のお祝いもしてないけど?」
石塚は嬉しそうに笑いながら、和希の顎に手をかけ一言囁いた後唇をそっと重ねた。

「貴方が私の為に時間を作ってくれた事が最高のプレゼントです」






1日早いけれども、石塚さん、お誕生日おめでとうございます!!
和希が石塚さんの為に考えた2人きりのお誕生日お祝いは何だったのでしょうか?
それは和希と石塚さんの2人きりの秘密という事でお願いします。
翌日、和希が無事に授業に出られたかどうかは定かではありません(笑)
                       2010年4月26日