Knit

「遠藤、お前こんな所で何してるんだ?」
中庭の外れの木の陰で、編み物をしていた和希は突然丹羽に声を掛けられびっくりした。
「お…王様?もう脅かさないで下さいよ。」
「何驚いてるんだ?変な奴だな?」
「普通誰だって驚きますよ。こんな所には誰も来ないと思ってるんですから。」
「そうか?」
「そうです。まあ、隠れるのがお得意の王様なら別ですけどね。」
「何だぁ?今の言い方棘があるぞ、遠藤。」
不貞腐れて答える丹羽を見て、和希はクスクス笑う。
王様って呼ばれているわりには、時々こんな風に可愛い顔をするんだよな…和希はそう思いながら丹羽を見ていた。 大好きな王様。
でも、俺は年上でその上王様が嫌いな理事長なんだから、この想いはけして悟られないようにしている。


いつまでも笑っている和希の頭を丹羽は軽く叩く。
「笑いすぎだぞ、遠藤。」
「はい…すみません。」
「で、何してるんだ?」
「見て解りませんか?」
「編み物のは解る。何編んでるんだ?」
「ベストです。もうじき、啓太の誕生日なんです。男からの編み物なんて気持ちがられるかも…とは思ってるんですが、俺ってこれしかできないですからね。」
「別にいいんじゃねえか?遠藤からなら啓太も嫌がらないと思うぜ?」
「そうですか?そうだといいな。」
ふわりと微笑む和希。
その微笑に丹羽はドキッとする。
やっぱりこいつは可愛い…と丹羽は思った。
でも、遠藤の好きな奴は啓太なんだろうな。
こんなにいい顔をして啓太の誕生日プレゼントを編んでいる時点で遠藤の啓太への想いは丸解りだ。
俺の想いは片思いで終わるのかな…
王様って呼ばれてるくせに、告白する勇気もないなんて情けないよな…
でも…遠藤のこの笑顔を壊すぐらいなら片思いでいた方がまだましだ。
俺が告白さえしなければ、遠藤はこうして俺に笑ってくれるんだから。
啓太と一緒に学生会の仕事も手伝いに来てくれる。


「ところで、啓太の誕生日はいつなんだ?」
「5月5日ですよ。」
「へえ〜、子供の日なんだ。」
「ええ。なんか啓太らしいですよね。」
嬉しそうに言う和希を丹羽は見詰めていた。
啓太の事になると、本当に嬉しそうにしゃべるんんだな。
本当に啓太が羨ましいぜ…丹羽はここにいない啓太に軽く嫉妬をする。
「そうじゃ、頑張れよ。」
「はい、ありがとうございます、王様。」
笑って答える和希に手を振ってその場を後にする丹羽。


丹羽が去った後、和希は手を止め丹羽が去った方を見詰めていた。
「そういえば、王様なにしにここにきたんだろう?」
首を傾げながら和希は考えるが、そんな事はいくら考えても答えはでない。
「まあ、いいか。今日は王様と思いかけず話ができてついていたな。」
幸せそうに微笑む和希。
片思いのこの恋だが、王様が卒業するまでこうして後輩として接しられたらいいなと思っている。
啓太よりも大切な王様。
いつか王様にも何か編んであげられたらいいのに…そう思いながら和希は啓太のベストを編み始めた。




伊藤啓太君!お誕生日おめでとう!!
当サイトのお誕生日祝いは啓太が出てこないで終わってしまいました。
毎回ですが、お誕生日祝いというわりには、お誕生日当人が出てこない話しか書かなくてすみません。
しかもこれって付き合う前の2人の話ですよね。
お互いの想いを語っているだけだったりして…
最近いちゃいちゃしている王和が書けないので、ここで書かせてもらいました。
ラブラブな王和が書きたい岬悠衣でした。
(おや?啓太のお誕生日祝いの話はどこにいったんですか?)
             2008/5/5